冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［９０６］バカンス？

ゼルートは最初、海鮮丼目当ての指名依頼はどんなに長くても、一週間もあれば終わると思っていた。

しかし、結果的に……一週間では終わらず、十日目に突入していた。

（一応空いた時間に海は潜れてるし、指名依頼を何度も達成してるんだから、ギルドの評価にも繋がってるはず。別に悪くはない……とは思うが、なんかな～～）

一日に昼と夕方、二回に分けて特定の場所で依頼人たちの目の前で海鮮丼を作り、振舞っている。

間の時間に体を動かすことは可能だが、依頼人たちに料理を振舞う……当然と言えば当然だが、もう何日も連続で仕事をしているのと変わらない。

アレナたちも討伐系や採集系の依頼を受けてはいるが、間に休みを入れて活動中。

結果的に一か月も連続で休暇続きとはならなかったが……アレナとしても、悪くないバカンスを送れていた。

ただ……指名依頼を受けているゼルートは、ここ最近バカンスしてる！　と思えていなかった。

「ゼルート、解体ぐらいなら私たちも手伝うよ」

リーダーのテンションが下がっていることぐらい、仲間であれば直ぐに気が付く。

アレナやルウナだけではなく、ゲイルたちも心配しているが、ゼルートは笑顔で問題無いと返す。

（いや、別に重労働って訳ではないからな。料理と言える料理ではなくとも、目の前で美味い！　ってえ言いながら食べてくれるのは、素直に嬉しいし）

とはいえ、途中から初見の依頼主しか受け付けないという条件を出した。

その条件を付けなければ、三日後か四日後には同じ依頼主がゼルートに指名依頼を出す。
この条件で少しは落ち着く……と思ったゼルートだが、結果はそう上手くはいかなかった。

観光地という事もあり、人の出入りがそれなりに激しいため、ラルフロンに訪れた小金持ちたちが噂を耳にすると、躊躇うことなく金貨二十枚を支払い、ゼルートの料理が作る海鮮丼を食べにくる。

（断ったところで評価が下がることはないと思うけど……まっ、ここに滞在する間は受けてやるか）

かなり上から目線な態度だが、現状海鮮丼を作れる人物がゼルートだけなこともあり、本人が上から目線な態度になるのも無理はない。

しかし、更に数日後、いつもどおりゼルートが冒険者ギルドに向かうと、受付嬢から海鮮丼を食べたいという指名依頼……意外にも、指名依頼が来ていると言われた。

（海鮮丼の提供以外の指名依頼……令息か令嬢の個別レッスンとかか？）

有名な冒険者にそういった指名依頼が出されることは珍しくなく、ゼルートほどの有名どころな冒険者であれば、大金をはたいてでも子供に指導してほしい！！　と思う親は珍しくない。

ただ、ゼルートの場合は貴族が相手でも容赦なく物理制裁を加えることで有名なため、躊躇う親が多い。

「こちらの指名依頼になります」

「…………海賊を討伐してくれ、ってことですね」

「はい、その通りです。ただ、この海賊たちからの襲撃から生き延びた船員曰く、普通の強さではないようです」

「普通ではないということは、何かしらのマジックアイテム、もしくは薬物などを使用して無理矢理力を引き出している、といったところですか？」

「前者の可能性が高いようです。海賊の頭目である男が扱う剣によって、船がいともたやすく斬られてしまったようです」

指名依頼の主は、ここ最近の貿易で損失を出しているラルフロンを拠点とする商会。

船による貿易がメインの収益ではないが、それを潰されると痛手であることには変わりはなく、たまたまラルフロンに滞在しているゼルートたちを頼ることにした。

（報酬金額は、白金貨五十枚……盗賊退治とはいえ、中々太っ腹だな）

条件として、商会が指名した物だけは無事であれば、商会の方に渡す。
全く金には困っていないため、当然ゼルートはその条件を飲み……一先ず、本日の海鮮丼だけささっと振る舞い、翌日からは一旦受け付けないでくれとギルドに伝えた。