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少年期[900]遠目から見えたあの料理

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とりあえず適当な依頼を受けよう。
そう思いながらギルドに入ったゼルート。

どうせなら、海中に生息するモンスターの討伐依頼が良い。
なんて事を考えながらクエストボードの前に進む……途中で、一人の緊張した表情の青年に声を掛けられた。

「あ、あの。ゼルートさんですよね」

「あぁ、そうだけど……えっと、あなたは?」

突然声を掛けられた青年とは、完全に初対面。
初対面の者から声を掛けられるのは珍しくないが、あまりにも緊張し過ぎでは? と思わなくもなかった。

「ザイアンです。その、お金は払うんで、この前ゼルートさんたちが食べてた、あの料理を作って欲しいんです!!!」

青年、もといザイアンのゼルートへ頼む内容に、ギルド内にいる多くの者たちが、何の事やらと首を傾げた。

しかし、頼まれたゼルートは、青年の言う料理が何を指しているのか、直ぐに理解した。

(あの時は特に周囲を警戒してなかったし、遠目からでも俺たちが何を食べてたか、分からなくもない、か……うん、別に今はそこを気にしなくても良いか)

いつ、どこから見られていたのか? という疑問は無視し、ゼルートはザイアンからの頼みを受けることにした。

「分かった、作っても良い」

「本当ですか!?」

「ただ、依頼という形にしてもらっても良いか」

「分かりました!!!」

ゼルートが、できれば依頼という形にして欲しい。
そう頼んだ瞬間、ザイアンは直ぐに了解し、受付嬢の元へダッシュで向かった。

「……ねぇ、そんなあっさりと受けて良かったの?」

「依頼を受ける形になるなら、別に構わないだろ。二人には……魚の解体でも頼んで良いか?」

「ゼルート、余った刺身やご飯は私たちが食べても良いのだな」

ルウナとしてはモンスターの討伐依頼を受ける気分ではあったが、依頼内容が料理に変わっても、特に文句はなかった。

ただ、そういった依頼内容であれば、あまりは是非とも自分の胃袋に入れたい。

「おぅ、勿論良いぞ」

海鮮丼という料理に関して、必要な食材に調味料は、海を渡れば手に入ることには手に入るので、他者に料理内容が知られても、特に困る点はない。

「ゼルートさん! 依頼料金はこれくらいでどうですか!!!」

「逆に聞く。こんなに高くて良いのか?」

指名依頼書に書かれた依頼達成金額は、金貨二十枚。

普通に考えて……高過ぎる。
高級料理店のメニュー、四人前とかなら話は別だが、一人分の金額にしては高い。

(ルーキーには見えないが、それでも高ランク冒険者……ではないよな?)

ゼルートの読み通り、ザイアンのランクはC。
現在の年齢を考えれば、非常に優秀な冒険者ではあるが……飯一食に金貨二十枚を出す程、懐が潤っている訳ではない。

「はい!! 問題ありません!!!」

「そ、そっか。とりあえず受理してもらうから、その後直ぐに移動しようか」

受付嬢とのやり取りを終え、ゼルートたちは冒険者ギルドから出て、あまり一目が付かない場所へ移動。

ギルド内にいた他の同業者たちは、二人が口にしていた料理とは……いったいどんな料理なのか、大変気になっていた。
戦争を一人で終わらせたといっても過言ではない実力を持つ男が作る料理。

もはやその付加価値だけで冒険者問わず、ゼルートが作る料理を食べたいと思ってしまう。

しかし……金貨二十枚という値段だけがネックだった。
ゼルートはザイアンが自分に支払った金額分払えば、今日は依頼という形を抜きにしても、金を払った者には食べさせても構わないと思っている。

だが、冒険者にとって一食に金貨二十枚も払うのは……並みならぬ決断が必要になる。

そこで一人の冒険者が、金を払わずともなんとか頼み込めばいけるのでは?
といった乞食魂が尋常ではない考えを思い付いたが、とある料理を作る人物が覇王戦鬼の二つ名を持つゼルートだということを思い出し、乞食魂は霧散した。
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