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少年期[661]自分のではない

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「それにしても、これほど大きな聖魔石を手に入れるとは……運が良いな、お前さん。普通はロングソード一本文か、大剣一本分の量しか手に入らないもんだ」

「そうなのか。だとしたら……本当にラッキーだったみたいだな」

ゼルートはラームがダンジョンの魔物から運を奪った結果、宝箱の中から聖魔石が出る。
それだけで奪った運を使い切ってしまうと思っていた。

だが、ラームが奪った運はそれだけでは消えず、更に聖魔石の量まで運を使って多くしてしまった。

「それで、お前さんはこの聖魔石を使って何か聖剣を鍛冶師に造ってもらおうと依頼する気か? お前さんほどの実力者なら、ギルドを仲介して良い鍛冶師を紹介するぞ」

「それは嬉しいが、俺は既に聖剣を持ってるんだ。この街には確かに聖魔石目当てで来たけど、色々と事情があって取りに来たんだ」

「色々と事情か……貴族からの指名依頼じゃろ」

「……爺さん、鋭いな」

「冒険者が己が欲しいと思う以外の理由で聖魔石を求めるのは、大抵貴族に依頼されたからじゃ。なのに六十階層のボスは定期的に聖魔石の宝箱を残しはしないからのぅ……高額な報酬が渡されるとしても、受けない冒険者が最近は多いんじゃよ」

聖魔石の存在は非常に魅力的であり、聖剣という強力な武器を持っていることは一つのステータスになる。
それ故に、冒険者に聖剣の獲得……もしくは聖魔石を取ってきてくれという依頼を出す貴族はそれなりにいる。

だが、そもそも貴族が求めるような聖剣を手に入れるのは難しく、聖魔石を手に入れる為にホーリーパレスの六十階層まで潜ること自体が難しい。
そしてそれは六十階層のボスと戦うことにも同じ事が言える。

「結局は自分の命が大事だからな。それは仕方ないだろ」

「それは否定出来んな。だが、高名な鍛冶師たちも聖魔石がなければ聖剣が造れぬ。聖魔石を持ってきてくれるなら話は別じゃが、材料がなければ造れるものも造れん。なのに貴族は無茶なことを言うのだ」

「は、ははは。そういった面倒な貴族もいるよな」

一応貴族の一員であるゼルートは苦笑いするしかなかった。

「とりあえず、俺は聖剣を造るつもりはな、い…………」

「考え込んでどうしたんじゃ?」

「いや、やっぱり聖剣を造ってもらおうかと思ってな」

「気が変わった様じゃな。安心せい、腕が確かな鍛冶師を紹介しよう」

「ありがとう。ただ、造ってほしい聖剣は俺のではなく、俺の父さんの聖剣だ」

造ってほしいのゼルートのではなく、ガレンが使う聖剣。
自身のはガラドボルグがあるので、今のところ新しい聖剣は必要ない。

(聖剣の二刀流ってのもありかもしれないけど……中々に贅沢だよな)

悪くない戦闘スタイルだと思いながらも、一旦却下。
まずはガレンの聖剣が最優先。

「己のではなく父のか……もしや、お前さんの父親も近々起こる戦争に向かうのか?」

「その通りだ。俺の父さんは今貴族の男爵だが、男爵になる前はAランクの冒険者として活躍していた。旋風を纏いし剣豪、なんて二つ名を持っていた気がする」

「旋風の剣豪……ふむ、そんな二つ名を持つ冒険者名を聞いたことがある気がするのう……よかろう。して、お前さんの父親の得意な属性はなんじゃ」

「二つ名から解る通り、風だ。あっ、でも火魔法のスキルレベルも同じぐらい高かったし……けど、結局は風がメインだな」

「そうか……何か持ち込む素材はあるか?」

聖魔石だけではなく、聖剣に使用する魔物の素材や魔石を渡せば、その分鍛冶師に渡す金が安く済む。

「えっと、そうだな…………こんなところでどうだ」

ゼルートは依然ダンジョンから溢れ出した魔物たちと戦った際に手に入れた素材や魔石を取り出した。

「ほほぅ、これはこれは……あれだな、先の魔物との大戦で手に入れた素材か」

「あぁ、その通りだ。それらを存分に使って最高の聖剣を造ってほしい」

「ふむ、受けたまった。それでは明日の朝、もう一度ギルドに来てもらってもよいか。直接鍛冶師の場所に向かい、契約書を書こう」

「分かった。それでは……明日の十時で良いか?」

「勿論じゃ。明日の十時、鍛冶ギルドで待っている」

正直なところ、ドルントは自分の手で聖剣を造りたいと思っていた。
実際、ドルントには聖魔石を活かすだけの腕がある。

だが、自分よりも腕がある鍛冶師を知っているので、わざわざ駄作を生み出してしまうかもしれない方法を取る訳にはいかなかった。
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