転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai

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第258話 最適解

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クリスティールの両手から、双剣が零れ落ちた。

その瞬間、アンジェーロ学園の者たちは笑みが零れかけ……フラベルト学園の者たちには緊張感と不安感が走った。

(負ける……私が、負ける…………)

ある程度格闘戦は行える。
レグラ家で過ごしている間に、万が一に備えてその辺りを一から鍛え直していた。

だからこそ、試合中何度も氷刃と鉄拳をぶつける中で、絶対に同じ徒手格闘では敵わないと思い知らされた。

武器ではなく、接近戦の技術が……ステラの方が一枚上手だった。
そう思える試合内容であった。
後方で観戦していたアンジェーロ学園の者たちも、口が裂けても「そっちのトップは随分と張りぼてだったな!!!!」なんて言えない。
仮にそんな事言おうものなら、別種の信者であるデカパイが狂パイとなって襲い掛かり、いきなり死合い開始待ったなしである。

交流会というイベントを考えれば、良い経験が出来たと……そう思い、受け入れられる内容である。

それはクリスティールも解っていた。
解っていたが……思い浮かぶは、フィリップとダスティンの二人と共に挑んだにもかかわらず、三対一という戦況でも手加減されてイシュドに負けた激闘祭のエキシビションマッチ。

エキシビションマッチではあるが……周囲に観客たちがいる状況で、完敗してしまった。
三年生のみが出場するトーナメントで優勝したものの、イシュドが怪物だと解っていたものの……それでも、自信が傷付いた。

(私は、フラベルト学園の、トップだッ!!!!!!!!)

まだ、止めとなる刃は急所に迫っていなかった。

そこでクリスティールは肥大に氷の塊を生み出し……右足を前に出し、思いっきり頭突きをぶちかました。

「「「「「「「「「「「「「「「っ!!??」」」」」」」」」」」」」」」

イシュドも含め、その場にいた全員が驚きを隠せなかった。

「~~~~~~っ!!!!????」

当然、ステラもいきなりヘッドバットがとんでくるとは思っておらず……そもそも交流会というイベントの中で行われる試合ということもあり、基本的に頭部に攻撃が飛んでくるとは思っていなかった。

そのため、そのまま意識が飛んで落ちてしまうことはなかったが、それでも同じように岩を額から生み出し、纏うには時間が足りなかった。

「っ!!!! ァアアアアアアアア゛ア゛ッ!!!!!!!」

当たり前と言えば当たり前だが、額に氷を纏ってのヘッドバットとはいえ、クリスティールも無傷ではなかった。

しかし、耐えられない反動ではなく、声を張り上げ……今度は自ら懐に潜り込み……ステラの視界から隠れるようにしたから顎に向け、掌底を放った。

「っ!!!!!?????」

突き上げられた掌底は一切ブレることなく、ステラの顎を捉えた。

ヘッドバットによる鈍痛。
そして顎に決められた掌底。

痛みだけではなく、掌底によって脳が揺れ、ほんの少しだけ平衡感覚が狂った。

そしてクリスティールは勢いそのまま、ステラの喉を掴みながら後方に倒し……余っている左手は右拳が飛んでこない様に抑え込むのに使い……テイクダウンに成功。

「はぁ、はぁ…………私の勝ち、ということで、よろしいでしょうか」

「……はい。勿論です」

永続的に回復を行い、強化系のスキルを発動し、手や腕、脚に岩を纏っていたが、まだ魔力は尽きていなかった。
体力も同じく尽きていなかったが……喉に手を掛けられたというのは、刃を突き付けられたのと同じく生殺与奪の権を握られたのと同じ。

悔しさは当然ある。
ないわけがないのだが……それでも、今自分の身に起きている現実から目を逸らす様なクソ汚れたプライドは持っていなかった。

「……いきなり、頭部への攻撃、申し訳ありませんでした」

互いに立ち上がると、クリスティールは直ぐにヘッドバットと掌底という攻撃を行ったことに関して謝罪した。

事前に頭部への攻撃を禁止していた訳ではないが、それでもなんとなくそういう雰囲気ではあった。

「いえいえ、頭を上げてください!! あれは単純に私が武器を落すことに成功したからといって、思いっきり油断してしまっただけですから!!!」

交流会とは言うものの、イシュドは手加減こそしていたが、ハンマーによるブンブン丸攻撃でヨセフの腕を削り取った。

エリヴェラとの試合では最後の最後、一般的な学生であれば抵抗すら出来ずに切断されていたであろう剣技を放った。
ついでに、ヨセフはイシュドを仕留める為に……平気で頭部に攻撃を放っており、エリヴェラもエリヴェラでイシュドだからこそ事故など起こることはなかったが、放っていた聖剣技の攻撃力は当たり所が悪ければ…………となってしまうものばかり。

「本当に、良い闘志でした!! 私も見習わせていただきます!!!」

「こちらこそ、ステラさんの接近戦の技術、体捌き……勉強させていただきます」

二人は最後に笑みを浮かべながら握手を交わし、両校のトップの試合は終った。


SIDE イシュド

(わぉ…………えっと、額に氷は纏ってから……一応大丈夫か?)

イシュドはクリスティールのヘッドバットを見た瞬間、驚きを顔に零しながらも、職業による肉体的な強さからステラではなく、ヘッドバットを行ったクリスティールの頭部を心配した。

(おっ! 様になってるな~~。んで、最後は…………うんうん、良いじゃねぇか。どうしちゃったよ~、会長パイセ~~~~ン。荒々しさ全開だったな~~~)

ヘッドバットからの下から顎に向けて掌底。

そして右手で喉を掴み、左手でステラの右腕を抑えながら押し倒した。

その一連の流れに、イシュドは思わず拍手を送った。

メイン武器である双剣を落してしまった状態から、クリスティールは最適解とも言える行動を取り、勝利を諦めずに掴み取った。

普段行っている模擬戦なだから、クリスティールは本番でそれらの動きを行うこと、あまり慣れていなかった。

それでも最初に行ったヘッドバットも含めて、イシュドが「お見事!!!」と称賛を送るほど理想な攻撃と流れであった。

「良いね~~~。それでこそトップだ」

自分たちの元に戻って来たクリスティールに対してイシュドは再度、称賛の拍手を送った。
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