上 下
240 / 246

第240話 残虐性はない……筈?

しおりを挟む
「マスター~、同じのもう一杯くださ~~い」

「少しペースが早くありませんか?」

現在、まだバトレア王国内にいるイシュドたち。

イシュドが知り合いの錬金術師に空飛ぶ絨毯を改良してもらったとはいえ、さすがに一日でカラティール神聖国に入国は出来ず、道中の街で一泊していた。

そんな中、引率者であるシドウとアリンダは街のバーに訪れていた。

「別に良いじゃない。向こうに入ったら、度数が高いお酒は呑めないかもしれないし」

「そういう国なんですか?」

シドウはまだこの大陸に訪れてから日は経っておらず、国の事情に関して詳しくなかった。

「ワインは割と呑めるらしいけど、それ以外のお酒はねぇ……はぁ~~~~、本当に気が重~~~い」

「はっはっは! まぁ、乗り掛かった舟? だと思うしかありませんよ。上手く終われば、アリンダ先生の評価が上がって、給料の向上に繋がるかもしれませんよ」

「そうだと良いのだけどね~~~~」

イシュドたちの引率ということもあり、シドウとアリンダには特別手当が支給されることが決定している。

あのイシュドがいる引率ということもあって、その特別手当の額は通常の手当額の約五倍。

嬉しい臨時収入ではあるものの……アリンダからすれば、せめて十倍は寄越せと叫びたかった。

「シドウ先生だってまだ若いのに、愚痴とか出てこないの?」

「俺としては、こうして初めて訪れる大陸を旅行……という言い方は教師という立場上良くないけど、バトレア王国以外の国に行けるのは良い経験だと思ってます」

「良い経験ぇ~~~。そりゃ普通ならそうかもしれないけど、どデカい危険物付きの旅よ?」

どデカい危険物というのは、勿論イシュドのことである。

ある程度交流があり、それなりに親しい仲だと思っているからこそ、そこまで言うほどではないと反論したいところではあるが……初対面時に自分と死合ってほしい!! と言われた時のことを思い出すと……全くもって反論出来なかった。

(懐かしい、と思うにはまだ最近の出来事か)

危険極まりない行動ではあったものの、イシュドが持つ大和に対する思いを知ると、驚きは徐々に薄れていった。
そして、いざ戦い始めれば……シドウもややバーサーカーに近いところがあり、本気で刀を振るうイシュドとの死合いを楽しんでいた。

「イシュドは、自分に降りかかる火の粉を自分で対処出来る優秀な生徒ですよ」

「……成績だけ見ると、あれで筆記の方もそこそこ点数を取ってるのだから、本当に
意外も意外よね~~~」

学園の際に行う筆記試験でもガッツリ点を取るために勉強した時ほど勉強してはいないが、それでも入学時の成績がカンニングだな賄賂だの云々かんぬんだと言われるのが面倒であるため、筆記試験の際には毎回平均以上の得点を取っている。

因みに、実力試験に関しては内容的に百点には収まらないよなということで、毎回限界突破している。

「でも、絨毯で移動してる時の言葉、聞いてたでしょ」

「えぇ。ある程度覚えてますよ。ですが、イシュド自身が特に興味がないというのは、別に咬み付く内容にはならないと思いますけどね」

「……シドウ先生も、イシュドと同じ様な事思ってる感じなの?」

「いいえ。信じている神は違いますが、俺にも多少の信仰心といったものはありますよ。ただ…………俺の国にいるとある侍が、おそらく自分は死ぬだろうと思う戦いに挑む前に、この大陸で言う教会の様な場所に行こうとしたのです」

「大和にもそういう場所にあるのね~」

「ですが、その侍は苦しい時に神頼みなど、気が弛んでいる証拠だと思い、祈るのを止めたらしいです」

結果、その侍はなんとか標的を殺し、生き延びることに成功した。

「ストイックねぇ~~~。まぁ、別に私も強制するものじゃないとは思うけど……あの子、無意識にアンジェーロ学園の生徒たちの逆鱗に触れそうじゃない?」

「そこは否定出来ませんね。その場合、交流戦に参加するアンジェーロ学園の生徒全員対、イシュドの戦いが始まりそうですね」

「……仮にそうなった場合、シドウ先生はどうなると思いますか? 一応、あっちには二次職で聖騎士に転職した生徒がいるんですよ。トップには、クリスティールにも引けを取らない戦う聖女って呼ばれる三年生もいるみたいですし」

「そうですね…………普通の状態で、戦斧を使う。それも、二振りの戦斧。いや、イシュドはわざわざ俺に刀で挑んできたのを考えると、得意武器じゃない武器で挑むかもしれませんね」

「…………やっぱりバカって言うか、普通じゃないって言うか、死にたがり?」

「普通じゃないのは間違ってないでしょうけど、死にたがりは違うと思いますよ。ただ、イシュドは自分が戦いを楽しめるように調整するだけですよ」

「それって、要は舐めプってやつでしょ」

「見方によっては、そう思われる対応ではありますね。ですが、アリンダ先生も二次職までしか転職してない者の差と、三次職に転職している者の差はご存じでしょ」

二次職と三次職の差は大きい。

勿論、絶対にまだ二次職までしか転職してない者が三次職に転職している者に勝てないという道理はない。

だが、イシュドはただの三次職に転職した戦闘者ではない。

「それはそうだけど……向こうには二次職で聖騎士に転職した一年生と、卒業する前には三次職に転職出来ると噂されてる戦う聖女もいるのよ」

「イシュドにとっては、良いスパイスでしかないでしょうね。仮に……勝利以外に判定基準を用意するとしたら…………バーサーカーソウルを使用するか否か。そこが基準になりそうですね」

「その口ぶりからすると、バーサーカーソウルを使えば、それはもう戦いじゃなくなるって感じ?」

「戦いではなく、蹂躙になってしまうでしょうね。イシュドは非常に好戦的な性格をしているけれど、残虐性は持ち合わせてない……でも、アンジェーロ学園の学生たちの態度次第では、目を背けられない現実を見せ付けようとするかもしれませんね」

「なんかもう……イシュドがうっかり学生を殺したりしなければ、交流戦が成功したも同然って思った方が良い感じ?」

「かもしれませんね」

交流戦で死亡事故などが起これば、国際問題に発展すること間違いなし。
イシュドがそれを解らないほど馬鹿だとは思っていない二人ではあるが、イシュド・レグラとカラティール神聖国という宗教国家というマッチング上……絶対安心出来る要素はやはり欠片もなかった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...