上 下
232 / 244

第232話 もう恩は返した?

しおりを挟む
「? そっちか」

「ぬがっ!!!!???? ッ、く……あぁ~~~、参った参った。降参だ」

「あいよ」

フィリップがシドウに相談してから数日後の模擬戦。

イシュドはフィリップとの戦闘中に、一瞬……フィリップを見失った様に感じた。

「あぁ~~、やっぱイシュド相手だと無理クソだな~~」

「なっはっは!!! 年季が違ぇってやつだ」

「一撃ぐらい入っかな~と思ったんだけどな」

「あぁ、さっきのあれか。ぶっちゃけ、結構良かったと思うぞ。勘を信じて戦斧を振り回しただけだしな」

休憩中、二人は模擬戦の最後のやり取りに関して振り返っていた。

「勘って……やっぱ次元が違ぇぜ」

勘という基本的にあてにならない要素に負けてしまったと思うべきか、イシュドを相手に勘という要素に頼らせるほど追い込んだと考えるべきか。

フィリップは……そもそもイシュドの勘はただの勘とは思っていないため、負けるべくして自分は負けたのだと思った。

「にしてもあれだな……なんか、ちょっと雰囲気変わったか?」

「よりイケメンになったってか?」

「令嬢に声を掛けられる回数が増えたのか?」

「……増えてねぇよ」

フィリップは激闘祭で大活躍はしたものの、それでも長年のイメージは消えず、相変わらずノット・オブ・ノット紳士ということもあり、元々本人にそのつもりはないものの、これまで通り貴族令嬢たちからモテていない。

「はっはっは!!! だろうな。どこが変わったかって言われっと、明確には答えられねぇけど…………なんかあれだ。まだまだこっから強くなりそうだな~って雰囲気が強まったって感じだな」

「なんだそりゃ。抽象的過ぎんだろ、ったく…………」

「ついでに、何か悩みもありそうだな」

「カウンセラーかよ」

「フィリップにしちゃあ、陽気さが薄いなと思ってな」

大きなため息を吐きながらも、特に隠すつもりはないフィリップは最近抱えている悩みをイシュドに伝えた。

「別に悩みって訳じゃねぇんだけどな。最近、父さんからこの家のこの令嬢と見合いしてみたらどうだ、って感じの手紙がちょこちょこ届くんだよ」

「あらら、そりゃご愁傷様」

イシュドは特に茶化さなかった。
普段のフィリップから想像すればあり得ない話に思えなくないが、それでもイシュドはフィリップが公爵家の令息であることを忘れていなかった。

「婚約者とか用意されてもなぁ~~って感じなんだよ。んなの居たら、遊べなくなるだろ」

「だな~~~。遊べなくなっちまうよな~~~」

フィリップの考えに、イシュドはうんうんと何度も頷きながら同意した。

そんな二人にジト目を向ける模擬戦終わりのミシェラとルドラ。
対して、ヘレナはそういう存在が出来たのであれば、遊ぶつもりがないフィリップとイシュドに感心した。

貴族の令息であれば、女性関係や歓楽街で遊ぶといった行為は恥だと……一応考えられている。
とはいえ、貴族の世界で恋愛結婚という事例は少なく、大半は家同士の意志が強い政略結婚が行われている。

そのため、裏で隠れてこそこそする貴族の男は少なくなく……中には、夫人という立場であっても旦那と血の繋がった子供を産めば、後は同じく裏でこそこそする女性もいる。

そういった裏の事情を考えれば、寧ろ二人の考えは逆に悪くないのでは? と思えなくもない。

「けど、迷ってるって事は、良い子でもいたんか?」

「いねぇよ。ただ、父さんからの紹介だからなぁ……あんま無下にし続けんのもな」

口煩い者が多い実家の中で、一番口煩くないのは意外にも当主であるゲルギオス公爵だった。

怒られない方が、寧ろ愛されていないのではないか。
そんな考えがあるにはあるが、フィリップは寧ろありがたいと感じていた。
そこにどういった意図があるかなど、どうでも良かった。

「激闘祭で優勝したんだから、別に断り続けても良いんじゃねぇの? そもそも出たくても出られねぇ奴らが多いな中、お前は出場して優勝したんだ。普通に考えりゃ、それだけで十分恩を返したって言えるんじゃねぇか?」

「あぁ…………確かに、確かにそうだよな!!!!!」

先程までの悩みではないと言いながらも実際悩んでいた表情はどこにいったのやら、イシュドの言葉を聞いて、一気に晴れやかな……いつも通りの陽気な表情に戻ったフィリップ。

「「「……」」」

それだけで恩を返したことにはならないんじゃないかとツッコミたい、貴族出身のミシェラとルドラ、ヘレナの三人。

ただ、激闘祭の準決勝でフィリップに負けてしまったミシェラとしては、たかが
それだけで、とは言えなかった。

そしてカルドブラ王国の王都にも激闘祭と開催内容が同じである学生が参加するトーナメントがあるため、それだけで恩を返せる訳が……なんて口が裂けても言えなかった。

「失礼な言葉なのは解っていますが、フィリップはよくガルフやミシェラさん、アドレアス様が参加しているトーナメントで優勝出来ましたね。あなたの実力は軽薄な雰囲気に反して高いことは身を持って解っていますが、それでも正直なところ、驚きました」

「あっはっは!! 軽薄なのは自覚してっから、俺の実力を認めてるとか言ってくれる時点で嬉しいってもんだぜ。まぁ、あの激闘祭では途中でガルフがディムナってやつとぶつかって、ダブルノックアウトになってくれたからな」

本命の一人とダークホースがぶつかり合い、共に倒れて敗退。

フィリップ以外の参加者たちが口が裂けても言えないが、二人が共倒れしてくれたのは非常にラッキーな出来事であった。

「んで、ミシェラとの準決勝はこの前の試合みたいに……俺らしくない感じで頑張ったってところかな。つか、アドレアスとの決勝も似た様なもんか。我ながら、あん時の俺はらしくなかったな」

「………………」

「ふっふっふ。フィリップらしくない頑張りを引き出すことが出来た。そう思うと、負けてしまったけど、どこか嬉しく思うところがある。ね、ミシェラ」

「お言葉ですが、別に嬉しくはありませんわ、アドレアス様」

せっかくアドレアスが本音を代弁してくれたというのに、ツンデレデカパイはツンツンした態度を崩すことはなかった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

処理中です...