上 下
200 / 244

第200話 吼えれば良い

しおりを挟む
「……まぁ、それはこれから次第じゃないっすか」

「…………全員が全員、お前やガルフの様な芯を持っているわけではない」

「だろうな。けど、あいつはある種の背中を見せたんでしょ」

いつか、ディムナに伝えた言葉を思い出す。

「なんて言ったかな……夏休みの時、別に言葉で鼓舞しなくても、背中を見せて憧れさせれば良い、的なことをあいつに伝えた気がするんだよな~~」

「そういえば……その様な事を言っていたな」

「わざわざ挑発して、挑発に乗った連中を全員真っ向から叩き潰した。俺はあいつじゃないんで、正確な考えまでは解らねぇけど、お前らはこのまま潰れたままで良いのか、来年の激闘祭トーナメントで他校の連中に潰され活躍出来ないまま終わっても良いのか……的な事を伝えたんじゃねぇのかって思うな~~」

平民を思いっきり見下していたクソカスイケメン野郎。
それがイシュドのディムナに対する第一印象だが、それでも渋々……不承不承ながら関わる様になり、自分以外の人間に興味がないタイプの人間なのではないのだと感じた。

「あいつが、そこまで…………考えているか?」

「はっはっは!!!! 口下手な奴だからな~~~。ダスティンパイセンがそう思うのも無理はねぇだろうな。つっても、仮にそういう連中が現れなかったら、それはそれで一人で刃を研ぎ続けるんだろう……結局、どう転んで来年もガルフたちにとってクソ厄介な強敵になるだろ」

ディムナに関しては……ガルフやフィリップたちほど、親しい関係だとは思っていないイシュド。

ぶっちゃけて言うと、学生の間……ガルフたちにとって好敵手であり続けてくれれば、それで構わない。
加えて……アドレアスも王子という立場でありながらイシュドに対して土下座したが、最初に侯爵家の令息でありながらイシュドに土下座して頼み込んだのは、ディムナ・カイスである。

(あいつなら、一人でも勝手になんとかするだろ)

当然ながら、親友ではない。
ただ、過去に目の前で行われた光景から……ある種の信頼感に近いものはあった。

「ふふ、信用してくれてるんだな、あいつの事を」

「あぁ~~~~…………チッ!! ある種のそういうのと言えるのかもな。つか、ダスティンパイセンも見てただろ、あいつが土下座すんの。俺はあいつの昔とか根っこの部分とか知らねぇけど、パーティー会場でちょこっと話しただけでも、クソ高ぇプライドを持ってるのだけは解ったぞ」

「うむ、その光景は良く覚えている……正直なところ、人生で一番驚いた光景と言っても過言ではない」

イシュドは辺境伯家の令息。
そういった立場だけ見ても、ディムナの方が上であり、プライドの高さでも並ではない。

ダスティンをあの光景は、今でも幻ではないのか……ディムナに似てる誰かが土下座をしているのではと思ってしまう。

「…………しかし、それでも心というのは、肉体の様に鍛えられるものではない」

「メンタルの強さねぇ~~~。確かに、それは激しく同感だな。筋肉は鍛えれば鍛えるだけ答えてくれるし、結果に繋がるしな……んで、同じことを言うってことは、俺から何かしらのアドバイスが欲しい感じ?」

「贅沢を言うと、そうだな。ディムナほど口下手ではないが、俺はまだまだ……強くなれても、騎士候補生だ」

強くなった自覚はある。
前回受けた依頼で、イレギュラーの遭遇とはいえ、単独でBランクモンスターを討伐することに成功した。
レグラ家が治める領地で遭遇したケルベロスの様な迫力、強さには及ばないものの、それでも単独でBランクモンスターを討伐したという功績はダスティンの自信へと繋がった。

だが、それでも成長しているのは個としての力。
騎士になる為には勿論必要な力ではあるが、更に上を目指すのであれば……それだけでは足りない。

「……俺もいずれは率いて戦うことになる。そう思ってっけど、別に頭が超良い訳じゃねぇぜ?」

「では、非常に柔軟な思考力を持ってるということになるな」

「ったく、解った解った。飯も驕ってくれてんだし、少しぐらいは教えるよ。つっても、俺はよその学園の連中なんざ、マジで知らねぇ。だから、言えんのは…………自分が最強だって吼え続けることかな」

「ほぅ?」

夏休みの間、イシュドに関わるようになってから多くの考えを聞いた。
ただ、今しがたイシュドの口から出たアドバイス内容は、自分だけではなくガルフたちにも伝えていない内容だった。

「他の学園の連中なんざ、金を積まれても指導する気にならねぇ。ただ、アドバイスを送るとしたら、自分が最強だって吼え続ける、これしかねぇな」

「……恥ずかしくて、一年生たちが羞恥心で死にたくならないか?」

ダスティンは、激闘祭トーナメントの二年生の部でトップを取った。
だが、一年の部は決勝戦……残っていた生徒はアドレアスとフィリップ。

どちらもフラベルト学園の生徒。
フラベルト学園の学園長、教員たちからすればもろ手を上げて喜べるが、他の学園の生徒、関係者たちからすればこの上ない屈辱である。

更に付け加えるのであれば、準決勝までにはミシェラも残っていたため、ベスト四まで上がった四人の内三人がフラベルト学園の生徒だった。

とても……自分が最強だって吼える事など出来ない。

「そこまでは知らん。ただ、自分が最強だって吼えていれば、自分より強い奴がいる……その現状を許せるか?」

「ッ……本気でそう思えているのであれば、確かに許せない存在、だな」

「だろ。恥ずかしさを感じるなら、その恥ずかしさが消えるほど没頭すれば良い。結局のところ、騎士や魔術師になるなら、強くならなきゃ死ぬ。んで、同学年にガチの最強がいるんだろ。それなら、卒業まで突っ走り続けなきゃならねぇ」

「……ふっ、ふっふっふ。イシュドよ……お前は、本当に恐ろしいな」

「デカパイが、俺の事をしょっちゅう異常な狂戦士って呼んでる。狂戦士って、自分で言うのはあれだが、普通じゃねぇだろ。んで、それが更に異常なら、恐ろしくて当たり前だろ」

ニヤリと口端を吊り上げて笑う後輩を見て、ダスティンは思った。

やはり、目の前の狂戦士は……良い意味で強さも思考力も狂っていると。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

処理中です...