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第181話 愛おしさすら感じる

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「まだまだ上げられるだろ、鬼竜・尖ッ!!!!!!!!」

「ッ!!!!!!」

超好戦的な笑みを浮かべながら格闘戦に臨むイシュド。

そんな先程まで戦っていた人間とは明らかにレベルが違う人間が発する言葉を理解している鬼竜・尖は……同じく、超好戦的な笑みを浮かべた。

そして……イシュドの望み通り、更にギアを上げた。

(ッ!!! 更に速く、重ぇッ!!!!)

鬼竜・尖は心臓の動作、血の流れを操作し、スキルといった要素が一切考慮しない強化を行っていた。

基本的に人間だけではなく、モンスターでも同じ事を行えば発動を終えた後の反動が半端ではない……どころではない代償を支払うことになる。
本来であればほんの一瞬、戦況を変えたいといった場面で使用するのがベストな使い方。

だが、鬼竜・尖は既に一分以上、無茶過ぎる強化方法を使用していた。

それが為せるのは……心臓が二つあるという、一般的にリザードマンやオーガにはあり得ない奇跡を持つ個体だからこそ。

(この、感じ!!!! おそらく、肺も普通の個体と比べて、強いだろう、なッ!!!!!!)

一般的に血流速度を上げれば、体内で異常が起こる。
最悪の場合、体内の血管が破裂して自爆する可能性が高いのだが……鬼竜・尖はそこら辺のリザードマンやオーガ……その他のモンスターとも違い、生物の機能として高い再生力を持つ。

その為、体内の血管や内臓などに支障が起こったとしても、再生の力によって治すことが出来る。
まさに……ノーリスク・ハイリターンの荒業。

(身体能力が、上がったからって!! 技や、体移動は、荒くなって、ねぇ!!! こいつ……密かに、訓練してたか、それとも速攻で適応したの、か!!!???)

急激な力の上昇に振り回されることなく、的確に打撃を叩き込み、防御や回避といった押すだけではなく冷静な判断も下せている。

(なんにしても、ここで俺らが遭遇出来て、良かったぜッ!!!!!!)

鬼竜・尖の再生能力は魔力を消費しない代わりに体力を消費する。
しかし、基本的にモンスターは人間よりもスタミナが多く、体力切れによる勝ち筋は殆どないと言っても過言ではない。

ガルフたちとの戦いがなければ、無茶過ぎる荒業を会得出来なかったと思われるかもしれない。
だが、今出来たという事は……今回会得出来ずとも、そのうち会得出来ていた可能性は十分あると考えられる。

仮に無茶過ぎる荒業を会得した状態の鬼竜・尖と対峙すれば、並みの騎士や冒険者たちは文字通り何も出来ずに殺されてしまう。

三次職に転職している猛者であったとしても、超ハイスピードな接近戦に慣れていない者であれば、体中の骨という骨をバキバキに砕かれてもおかしくない。

「ん、とに……最高だぜッ!!!!!!!!」

「っ!!!!????」

まだ……まだ付いて来れると信じ、イシュドはバーサーカーソウルを発動。

ほんの数秒だけイシュドだけが攻めるという展開が続くも、また数秒後には拮抗した打撃戦が展開された。

(ハッハッハッ!!!!!!!!!!! 良い眼を、良い闘志を向けてくれるじゃねぇかああああああああああああああああッ!!!!!!!!!)

常識的な戦闘者が聞けば、アホかと……バカかとツッコむ。
イシュドの性格を知っていたとしても、尚ツッコむ。

だが、戦闘者で狂戦士であるイシュドは、自分と対峙している相手が……己の全てを賭して自分を倒そうとしてくれることに、この上ない嬉しさを感じる。


「おいおいおい、もう線しか見えねぇぞ」

「はぁ~~~~~……あの個体は、どうやって自身の身体能力を強化してるのかしら」

離れた場所から観戦状態の四人。
フィリップはバーサーカーソウルを発動したイシュドの動きに付いていけている鬼竜・尖を見て……改めてあの時、蹴りをイシュドが止めてくれて良かったと思っていた。

ミシェラは……世の中には闘気やバーサーカーソウルの様な職業によって、人によって会得出来るか否かが別れる強力なスキルなどがある事は解っていた。
ただ、目の前でイシュドと超ハイレベルな打撃戦を繰り広げる鬼竜・尖がいったいどの様なスキル……特殊な力を発動しているのか、全く見当がつかない。

己が会得出来るか否かは関係無く、強化方法の中身が解らないだけで、恐ろしいという不安な気持ちが大きくなる。

「…………多分だけど、さっきまでより、あの個体から聞こえる鼓動の音が、大きくなってる?」

「そうですね。ガルフの言う通り、徐々に大きくなっています」

激し過ぎる戦闘音にかき消されているが、二人はなんとか鼓動の音を拾っていた。

「ん~~~~~? 言われてみれば大きくなってる……か?」

「……二人の言う通り、大きくなってるのでしょうね。つまり、ガルフは鼓動の音が大きくなっているのが、あの個体が急激に身体能力を上げたことに起因していると考えてますのね」

「僕は難しいことは解らないけど、体が更に赤くなった以外のところだと、そこが解り易い変化だと思って」

平民である自分には、難しいことは解らない。
でも、貴族の子供である皆なら……といった眼を友人から向けられる三人。

しかし……残念ながら、三人とも人体の構造といった医学的な部分は教えられておらず、期待には応えられない。

「心臓の音が上がってるってことだよな……………………そういえば、戦った直後とかは凄ぇ心臓が動いてるのが解るよな」

「そうですわね。けど、それは当たり前のことでは?」

「おいおいミシェラ、俺らがクソ全力で動いたとしても、これだけ離れてるのに音が聞こえるほど高鳴るか?」

「っ、それは…………それは、つまりそういう事、ですの?」

細かい詳細はまだ解らない。
だが、思い浮かんだ要素たちが線で繋がった。

「体に現象? が現れているっていう事は、スキルじゃなくてあの個体の再生力と同じで、肉体に備わっている力なのかな」

「おそらく、その様ですね。体色が更に赤くなるという要素も……鼓動が異常に高鳴っている影響かもしれません」

「ほ~~~ん? まっ、そこら辺の事情はなんとなく解ってそうなイシュドに後で聞くしかねぇな」

そうこう言っている間に……狂鬼と鬼竜の超打撃戦が終幕を迎えようとしていた。
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