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第180話 体の扱い方
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「うわぁ~~~~。あの個体、俺にあんな蹴りを叩き込もうとしてたのかよ」
選手交代となり、イシュドが鬼竜・尖と戦い始めてから約一分が経過。
森の中には何度も何度も重鈍な衝撃音が鳴り響いていた。
「あんな攻撃食らってたら、一発であの世逝きだっただろうな」
「……フィリップ、あの攻撃に対して、全く反応出来ませんでしたの?」
「知ってんだろ。イシュドが間に入ってくれなきゃ、あの世に逝ってたっての……ぎりぎり俺の方に近づいてきたってのは把握出来たけど、それだけだ。動いてどうこうしようって対応はまず間に合わなかった」
フィリップはフィリップで集中力が非常に高まっていたため、鬼竜・尖の接近にはなんとか気付くことが出来た。
しかし、本人の言う通りそこから的確に反応することは出来なかった。
「っ…………しかし、それならあの変かは何なのか……まず考えるべきですわ」
「ご苦労なこったな……とりま、肌が更に赤くなってるな」
「スキルによる変化、ではないのでしょうか」
「イシュドのバーサーカーソウルみたいなスキルか? その割には、性格に変化はなさそうだけどな」
「…………あれて、スキルによる変化なのかな」
解ってはいない。
ただ、ガルフは本能的に鬼竜・尖の変化はスキルによる変化ではないと感じ取った。
「多分だけどさ、あの個体の再生の力って、スキルによる再生ではないよね」
「リザードマンやオーガに再生力があるのなら、それはスキル再生による力がなければ………………そうですわね。言いたい事は解りますわ」
魔力に関する技量、感知力に関してはガルフより上であるミシェラ。
戦闘中、四人が負わせた傷が癒える際……鬼竜・尖の体から魔力が消費される気配は一切なかった。
「そういえばあれだな。例の個体の肌が赤くなっても、減ってる魔力量は俺らと戦ってた時とあんまり変わってねぇな」
「…………他に変わったことと言えば、例の個体から……心臓の音が、聞こえるようになりました」
「「「え?」」」
イシュドと鬼竜・尖の戦闘を深く観察している三人だが、激しい戦闘音などにかき消されてしまい、そこまで聞こえなかった。
だが、ガルフたちよりも五感がやや優れているイブキは、僅かではあるが鬼竜・尖の高鳴る鼓動を聞き取っていた。
「心臓の音が聞こえるって……そんな事、あるのか?」
「私もそんな現象は聞いたことも見たこともありません。しかし、あれは間違いなく、心臓の音です」
前世の知識を持っているイシュドは、何となく可能性を感じ取り、無理矢理納得出来た。
だが、この世界ではまだ人体の細かい動作内容、詳細が明らかにされていない。
それ故に、スキルでないのであれば……では一体? という疑問しか浮かばない。
「…………たま~によ。凄い集中出来る時ってねぇか」
「……ありますわね。いつも集中してるつもりではありますけど、極稀に……万能感とも言える集中力を発揮できる時がありますわ」
「その現象は……今のあの個体には関係ねぇのかな」
集中力。
その点に関しては、自分たちと同じくモンスターにあってもおかしくない要素。
普段は仲がよろしくないフィリップの意見に、ミシェラは特に強く反論することなく冷静に受け入れて考え込んだ。
「集中力と、肌が更に赤くなるといった現象は、さすがに結び付けられないのでは?」
「やっぱりか~~~~。けど、俺らも結構普段以上に集中出来てただろ? だから、あの個体も高い集中力を発揮してたんじゃねぇかと思うんだけどな~~」
「…………集中力が高まったからこそ、自分の体を更に上手く扱えるようになった、と言ったところでしょうか」
イブキは大和で生活していた頃に出会った筋骨隆々の男が持つ特技を思い出した。
「私が過去に出会った男性の中に、自身の筋肉がまるで意思を持って移動してるかのように動かせる人がいました」
「「「……っ!!!」」」
筋肉は意思を持って動く。
その光景を脳内に浮かべた三人は、今後の為に目の前で行われている戦いを冷静に分析しなければいけないのだが……面白過ぎるイメージのせいで吹き出して笑ってしまった。
「そ、それは…………あっ、そういえば……同じような事が出来る奴が、実家の騎士団の中にもいたな」
「私ではまだ筋肉が足りないという要因もあるかもしれませんが、同じ事は出来ません」
「つまり、上手く自分の体を操れる人物だからこそ、そういった芸当が出来るって訳で…………あの例の個体は、自分の体を上手く操る技術が向上した結果、俺らがまともに動けない速さで行動できるようになったと」
「あくまで、個人的な予想ではありますが」
集中力が極限まで高まった時、普段の状態であれば出来ない動きが出来る、思い付かない選択肢を取れるようになれる……四人ともその経験があった。
(納得出来なくはない考えですわね。しかし、魔力を消費しない再生力は、おそらく体力を消費している筈…………であれば、あの訳が解らない大幅な身体能力の向上にも、何かしらのデメリットがあってもおかしくない)
再生能力と同じく、鬼竜・尖の身体能力の向上に関して、魔力は全く消費されていない。
そこから導き出さしたミシェラの考えは間違っていないが、確信に辿り着くにはまだまだピースが足りなかった。
(ハッハッハッ!!!!!!! まさか、剣鬼やあのリザードマンキングに近しい実力を持つ個体が、いるとはなッ!!!!!!!!)
内心……どころではなく、満面の超好戦的な笑みを浮かべながら鬼竜・尖との格闘戦にのめり込むイシュド。
構えを見た時に感じた通り、鬼竜・尖はロングソード、戦斧、槍以外の扱い以外にも、格闘技においても一定以上の技術力を有していた。
加えてイシュドの想像通り、集中力が一定以上に達した鬼竜・尖は自己完結の体内ドーピングに成功したからといって集中力が途切れず、現在も継続中。
結果……鬼竜・尖の攻撃もイシュドへクリーンヒットしていないが、イシュドが放つ打撃も鬼竜・尖にクリーンヒットしていなかった。
「まだまだ上げられるだろ、鬼竜・尖ッ!!!!!!!!」
その状況がまたイシュドのボルテージを上げ、戦況は更に苛烈さが増す。
選手交代となり、イシュドが鬼竜・尖と戦い始めてから約一分が経過。
森の中には何度も何度も重鈍な衝撃音が鳴り響いていた。
「あんな攻撃食らってたら、一発であの世逝きだっただろうな」
「……フィリップ、あの攻撃に対して、全く反応出来ませんでしたの?」
「知ってんだろ。イシュドが間に入ってくれなきゃ、あの世に逝ってたっての……ぎりぎり俺の方に近づいてきたってのは把握出来たけど、それだけだ。動いてどうこうしようって対応はまず間に合わなかった」
フィリップはフィリップで集中力が非常に高まっていたため、鬼竜・尖の接近にはなんとか気付くことが出来た。
しかし、本人の言う通りそこから的確に反応することは出来なかった。
「っ…………しかし、それならあの変かは何なのか……まず考えるべきですわ」
「ご苦労なこったな……とりま、肌が更に赤くなってるな」
「スキルによる変化、ではないのでしょうか」
「イシュドのバーサーカーソウルみたいなスキルか? その割には、性格に変化はなさそうだけどな」
「…………あれて、スキルによる変化なのかな」
解ってはいない。
ただ、ガルフは本能的に鬼竜・尖の変化はスキルによる変化ではないと感じ取った。
「多分だけどさ、あの個体の再生の力って、スキルによる再生ではないよね」
「リザードマンやオーガに再生力があるのなら、それはスキル再生による力がなければ………………そうですわね。言いたい事は解りますわ」
魔力に関する技量、感知力に関してはガルフより上であるミシェラ。
戦闘中、四人が負わせた傷が癒える際……鬼竜・尖の体から魔力が消費される気配は一切なかった。
「そういえばあれだな。例の個体の肌が赤くなっても、減ってる魔力量は俺らと戦ってた時とあんまり変わってねぇな」
「…………他に変わったことと言えば、例の個体から……心臓の音が、聞こえるようになりました」
「「「え?」」」
イシュドと鬼竜・尖の戦闘を深く観察している三人だが、激しい戦闘音などにかき消されてしまい、そこまで聞こえなかった。
だが、ガルフたちよりも五感がやや優れているイブキは、僅かではあるが鬼竜・尖の高鳴る鼓動を聞き取っていた。
「心臓の音が聞こえるって……そんな事、あるのか?」
「私もそんな現象は聞いたことも見たこともありません。しかし、あれは間違いなく、心臓の音です」
前世の知識を持っているイシュドは、何となく可能性を感じ取り、無理矢理納得出来た。
だが、この世界ではまだ人体の細かい動作内容、詳細が明らかにされていない。
それ故に、スキルでないのであれば……では一体? という疑問しか浮かばない。
「…………たま~によ。凄い集中出来る時ってねぇか」
「……ありますわね。いつも集中してるつもりではありますけど、極稀に……万能感とも言える集中力を発揮できる時がありますわ」
「その現象は……今のあの個体には関係ねぇのかな」
集中力。
その点に関しては、自分たちと同じくモンスターにあってもおかしくない要素。
普段は仲がよろしくないフィリップの意見に、ミシェラは特に強く反論することなく冷静に受け入れて考え込んだ。
「集中力と、肌が更に赤くなるといった現象は、さすがに結び付けられないのでは?」
「やっぱりか~~~~。けど、俺らも結構普段以上に集中出来てただろ? だから、あの個体も高い集中力を発揮してたんじゃねぇかと思うんだけどな~~」
「…………集中力が高まったからこそ、自分の体を更に上手く扱えるようになった、と言ったところでしょうか」
イブキは大和で生活していた頃に出会った筋骨隆々の男が持つ特技を思い出した。
「私が過去に出会った男性の中に、自身の筋肉がまるで意思を持って移動してるかのように動かせる人がいました」
「「「……っ!!!」」」
筋肉は意思を持って動く。
その光景を脳内に浮かべた三人は、今後の為に目の前で行われている戦いを冷静に分析しなければいけないのだが……面白過ぎるイメージのせいで吹き出して笑ってしまった。
「そ、それは…………あっ、そういえば……同じような事が出来る奴が、実家の騎士団の中にもいたな」
「私ではまだ筋肉が足りないという要因もあるかもしれませんが、同じ事は出来ません」
「つまり、上手く自分の体を操れる人物だからこそ、そういった芸当が出来るって訳で…………あの例の個体は、自分の体を上手く操る技術が向上した結果、俺らがまともに動けない速さで行動できるようになったと」
「あくまで、個人的な予想ではありますが」
集中力が極限まで高まった時、普段の状態であれば出来ない動きが出来る、思い付かない選択肢を取れるようになれる……四人ともその経験があった。
(納得出来なくはない考えですわね。しかし、魔力を消費しない再生力は、おそらく体力を消費している筈…………であれば、あの訳が解らない大幅な身体能力の向上にも、何かしらのデメリットがあってもおかしくない)
再生能力と同じく、鬼竜・尖の身体能力の向上に関して、魔力は全く消費されていない。
そこから導き出さしたミシェラの考えは間違っていないが、確信に辿り着くにはまだまだピースが足りなかった。
(ハッハッハッ!!!!!!! まさか、剣鬼やあのリザードマンキングに近しい実力を持つ個体が、いるとはなッ!!!!!!!!)
内心……どころではなく、満面の超好戦的な笑みを浮かべながら鬼竜・尖との格闘戦にのめり込むイシュド。
構えを見た時に感じた通り、鬼竜・尖はロングソード、戦斧、槍以外の扱い以外にも、格闘技においても一定以上の技術力を有していた。
加えてイシュドの想像通り、集中力が一定以上に達した鬼竜・尖は自己完結の体内ドーピングに成功したからといって集中力が途切れず、現在も継続中。
結果……鬼竜・尖の攻撃もイシュドへクリーンヒットしていないが、イシュドが放つ打撃も鬼竜・尖にクリーンヒットしていなかった。
「まだまだ上げられるだろ、鬼竜・尖ッ!!!!!!!!」
その状況がまたイシュドのボルテージを上げ、戦況は更に苛烈さが増す。
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