上 下
154 / 244

第154話 急所以外はバキバキのスパスパ

しおりを挟む
「戻って来た、な……」

「イシュド様、良き学園生活を」

「おぅ、気ぃ付けて帰ってくれ」

学園の正門前まで馬車で送ってもらい、一先ず使用していた寮の部屋へと向かう。

「ふ~~~ん? 一応、荒された形跡はねぇな」

寮部屋に置いていた物などが荒らされていない事を確認し、ホッと一安心のイシュド。
荒した人物がいれば、そいつを殴り潰せば済む話ではあるが、犯人を捜すのが非常に面倒である。

「……一人じゃやることねぇし、寝るか」

まだ時刻は昼手前であり、これから王都の有名料理店を巡ることも出来たが、なんとなくそんな気が起こらず、イシュドは寮部屋のベッドに寝転がり……そのまま昼寝した。

(……ん? 鍵音???)

部屋の鍵が開く音を耳にし、睡眠から引き戻されたイシュド。
誰かと多少警戒するも、冷静に考えれば基本的にカギを持ってるのは一人しか存在しない。

「ガルフか」

「久しぶり、って言っても最後に別れてからそんなに日数は経ってなかったね。というか、イシュドが昼寝って……なんか珍しいね」

「まぁそうだな。基本的に特訓して筋トレして昼飯食って特訓して……実戦がある人は日が暮れる手前まで実戦を繰り返してって感じだったもんな」

そんな生活は学園に入る前も変わっていなかったが、イシュドでも何となく気分が乗らないといった時はあり、その時は潔く昼寝をしたりして怠惰を貪っていた。

「寝るのは嫌いじゃねぇから。二度寝も同じく嫌いじゃねぇけど……もう体が朝食を食う前には起きるようになってるから、二度寝なんてする事まずねぇけど」

「う~~~~ん……確かに、二度寝は良いよね。ところで、僕たちが帰った後はどうしてたの?」

「どうもこうも、やる事はガルフたちが居た時と変わんねぇよ。試合をする相手が俺になって、あの坊ちゃんたちをボコり続けてただけだ」

当然ながら、一応試合形式で行っていた。

その為、思いっきり顎をぶん殴って粉砕骨折したり、腕や足を切断……することはなかった。
ただ、骨にヒビが入るのは当たり前。
切断とはいかずとも、三分の一ほど切れることは何度もあり、骨が顎や頭蓋骨以外の骨がバキッと折れることも何度もあった。

「…………アドレアス様や、ディムナさんを疑ってる訳じゃないんだけど、それって大丈夫なんだよね??」

「あぁ、特に問題ねぇだろ。ちゃんと治療はしてるし、飯も満腹になるまで食わせてるんだし」

「それなら……そう、なのかな?」

レグラ家では、本当に腹が一杯になるまで食事を用意してくれる。
フォークやナイフが勝手に動いてしまほど食欲が進み、夜食も同じく最近使い慣れてきた箸がよく進んでしまう。

(……いやいやいや、侯爵家と王族の息子なんだから…………けど、彼らの方から頼み込んで来たんだから、大丈夫なのか)

良い感じに思考が毒されてきているガルフ。

「どうする。ガルフも昼寝するか?」

「そう、だね……正直、がつり動いてご飯を食べたら、直ぐに眠くなるもんね」

「人間、そういうもんだ」

ガルフは制服の上着だけ脱ぎ、そのままベッドに転がった。

熱すぎず……良い暖かさを感じることもあり、ガルフも直ぐにシャットアウト。


「? …………ガルフ、起きたか?」

「う、うん。起きた。もしかして、お客さんかな」

「だな。けど、あんまり野郎の知り合いなんざ、フィリップぐらいしか思いつかねぇんだけど……このノックの感じ、絶対フィリップじゃねぇよな」

いったい誰が自分たちの部屋のドアをノックしているのか。

開けるまでに浮かんだ顔は、クリスティールと同じく生徒会に所属している二人の男子学生。

「っ、遅いですわ!! 学園に戻ってきたら、まずは一声かけるべきでしょう!!!!」

「…………んだよ、デカパイかよ」

生徒会に所属してる二人の男子学生がいても、それはそれで面倒事の予感しかしないものだが、目の前にぶるんっ!! と揺れる万乳を持つミシェラがいても、それはそれで面倒であった。

「なんですの、その顔は!!!!」

「そんな顔にもなるに決まってるだろバカたれ。俺とガルフは気持ち良く昼寝してたんだよ」

「もう夕方ですわよ!!!!!」

「別に良いじゃねぇか。もう数時間寝たら体動かし、飯食って風呂入ったら寝るつもりだったのによ」

「あら、イシュド君にしては珍しい生活内容ですね」

追加で現れたのはクリスティール……と、来る途中でバッタリ出会ったイブキだった。

「会長パイセンもか。って、イブキもか。いったい何のよ…………つか、こっちは野郎の学生寮だろう。基本的に女の学生は入ってこれねぇんじゃねぇのか?」

「そこは生徒会長権限で」

「…………んでそんなところで使うんだよ」

ぶつくさと文句を言うイシュドだが、来客が予想が合いの人物だったこともあり、すっかり目が覚めてしまい、このままもう数時間寝ようとは思えなかった。

それは同じく昼寝していたガルフたちも同じだった。

「ったく……飯でも奢ってくれるんか?」

「えぇ、勿論です。では、早速いきましょう。っと、どうせならフィリップも連れて行きましょう」

まさかの元々クリスティールはイシュドたちに夕食を奢るつもりであり、これまた予想外の展開。

(マジか……まっ、先輩が奢ってくれるなら、断らずにご馳走になるのが後輩だよな~~~~)

前世も含めて対して先輩後輩の関係を身に染みて解ってないものの、話を聞いていたガルフも夕食を奢って貰えるとなれば、これ以上ケツをベッドにくっ付けてられない。

「んじゃ、着替えっから」

速攻でしっかりと制服に着替えた後、フィリップがいる部屋へと移動。

「フィリップ! いるのでしょう!!!」

(こいつ……フィリップ以外の寮生がいるの忘れてんじゃねぇのか?)

翌日からは再び授業が始まる。
それを考えればフィリップが部屋にいる可能性は高いが、同時に同じ寮部屋の生徒がいても全くおかしくない。

「ったく、なんなんだよ。人が気持ち良く寝てたってのによ~~~」

扉を開けたフィリップは大きな欠伸をし、とても眠そうな顔をしていた。

ここから先に結論を説明しなければ、万乳がぶるんぶるんと揺れるのと同時に、甲高い声がキンキン響きそうなため、イシュドはまず結論を伝えた。

「フィリップ、会長パイセンとデカパイが美味い飯奢ってくれるってよ」

「っ!!!???」

「……マジかよ。しゃあねな~~~。制服に着替えるから、ちょっと待っててくれ」

聞いてない!!!! と言いたげな顔をするミシェラを無視し、一瞬で眠気が冷めたフィリップは光の速さで着替えを終えて出てきた。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

処理中です...