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第149話 全て事実

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SIDE クリスティール

「次、お願いします」

実家に帰省したクリスティールは……ミシェラと同じく、帰省したからといってのんびりと過ごそうとはせず、アルバレシア公爵家に仕える騎士たちと模擬戦を行っていた。

「クリスティールお嬢様……更に強くなったな」

「常に努力されてる方だ。強くなって当然だろ」

「それは解るんだが…………クリスティールお嬢様は、今年の激闘祭で優勝したのだろう。それでも休暇という期間に甘えることなく努力を続けるのは、それはそれで立派だと思うんだが……」

騎士たちとしては、休める時には休んで欲しいという思いがあった。

「……まぁ、理由はあれだろう」

「激闘祭のエキシビションマッチでの件、か?」

クリスティールが激闘祭で優勝した。
その件を耳にしたアルバレシア公爵家の人間たちは大変喜んだ。

お祭り騒ぎになっていたと言っても過言ではない。
それはアルバレシア公爵家だけではなく、公爵が治める都市の住民たちも同じようにお祭り騒ぎ状態になり、彼女の優勝を喜んでいた。

だが、それと同時に……公爵家には、信じられない話も耳に入って来た。

「そうだ。あの……レグラ家の令息に負けたという話だ」

「確か、三対一の変則試合だったんだよな…………一緒に戦ったのは、ワビル伯爵家の令息と……ゲルギオス公爵家の怠け令息だよな。俺としては、あの怠け令息が一年のトーナメントで優勝したって話も結構信じられねぇんだが」

貴族出身の騎士たちであれば、ゲルギオス公爵家のフィリップが怠け者であるという話は、非常に有名であった。

「元々才能、センスはあったらしい。それが開花したのだろう」

「ふ~~~ん……あり得ねぇとは言えないか。けど、その三人が一人の一年生に負けた、か。やっぱり信じられないな」

「同感だ。しかし、結果としてその光景を多くの者たちが観ていた」

彼等の信じられる信じられないといった感情は関係無く、記録として……人々の記憶に、レグラ家の令息にアルバレシア公爵家の令嬢とワビル伯爵家の令息、ゲルギオス公爵家の令息が力を合わせて挑んだにもかかわらず……負けたという事実が残っている。

「……偶に、そういう才能云々なんて話の枠に収まらない奴が現れるのは……解る。ただ、話しによればレグラ家の令息は、スキルを遣わずにクリスティールお嬢様たちを倒したんだろ」

「話によれば、な。結果的に片腕をその試合中は使えない程のダメージを与えたらしいが、それはレグラ家の令息が好んで三人が放った攻撃と力比べをしたから、と言われている」

「…………っ、信じられるかよ」

目の前で、アルバレシア公爵家に仕える騎士と互角の戦いを繰り広げるクリスティール。

三次転職を果たしている騎士であればともかく、現在まだレベル五十に届いてない騎士が相手であれば、勝つことも珍しくない。

「それは俺も同じ気持ちだ。ただ……それが事実として残っているんだ」

「っ…………はぁ~~~~~~~~。多分だけど、クリスティールお嬢様は俺らがレグラ家の令息に関して、あれこれ言うのは望んでねぇんだろうな」

「えぇ、その通りですよ」

「「っ!!」」

二人の元に丁度模擬戦を終えたクリスティールが現れた。

「お、お疲れ様です。クリスティールお嬢様」

「えぇ、ありがとう……話通り、私はダスティンとフィリップと共に戦ったにもかかわらず、イシュド君にスキルを使わず、メインの武器も使わず……遊ばれました」

「やはり……話通り、だったのですね」

本人の口から話通りだと言われてしまえば、もう彼らがどう思おうが本当に関係無い。

「彼はリングに登場する場面から異次元でした。なんせ……闘技場の上から飛び降り、リングを覆っている結界を破壊しながら登場したのですから」

「「………………」」

二人……だけではなく、耳を傾けていた他の騎士たちも固まってしまった。

騎士たちの中には王都の学園出身の者たちも多く、激闘祭で使用されるリングを覆っている結界がどれほど強固なものなのか知っている。
だからこそ、尚更その結界を破壊しながら登場したという話を、直ぐには受け入れられなかった。

「ですが、イシュド君は世間一般のレグラ家のイメージとは違う人です」

騎士たちの頭の上に大量のはてなマークが浮かぶ。

わざわざリングを覆っている結界を破壊して登場。
これだけ十分、世間一般のレグラ家のイメージと重なり合ってしまう。

「……少し言い方が悪かったですね。イメージ通りの部分もありますが、そのままだと思っていると、痛い目にあいます。そうですね……実は」

クリスティールは騎士たちに、とある細剣使いの二年生がイシュドに戦いを挑み、同じく細剣使ったイシュドに負けた話をした。

「し、身体能力のゴリ押しで勝利したのでは、なく?」

「身体能力の差もあったと思いますが、細剣を雑に扱うことなく……一流の剣技で制圧したらしいですよ」

全くもって信じられない。

そもそもレグラ家の人間が細剣を? という疑問が真っ先に浮かぶ。

「ふふ、あなた達がそう思うのも解ります。ただ、世の中実際にその人と会ってみなければ解らないこともあります。まぁ……イシュド君が、レグラ家の中でも特に異質な狂戦士だからかもしれませんが」

「異質な狂戦士、ですか」

「そうです。あなた達がびっくりするところで言うと…………彼は、料理が出来るんです。ただ焼く、煮るといった内容ではなく、刻んで量を調整して、味付けを考えて……そういった料理が出来るのです」

「「「「「「「「…………?????」」」」」」」」

騎士たちはもうイシュドという人間を見下ろす気持ちは霧散していた。
しかし、狂戦士が料理を行っている。

その光景が中々想像出来なかった。

「物事の考え方も狂戦士とは思えないでしょう」

「狂戦士にして、狂戦士に非ず……といったところでしょうか」

「そういった認識で合っているかと。とにかく…………本当に、面白い方です」

学生たちが女神と呼ぶ微笑が浮かぶ。

(相変わらずお綺麗……っ、まさか!!!!)

その場にいた騎士たち、特に女性の騎士たちは敏感に何かを感じ取った。
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