上 下
143 / 246

第143話 普通は笑わない

しおりを挟む
「ほぅ、別種のキング種のモンスターが三体……しかも、群れを連れていなかったのか」

「はい。これまで出会ったことがないタイプのモンスター達でした」

夕食時、王であることを捨てた三体のキングたちについて聞かされた現レグラ家の当主であるアルバはほんの少しだけ難しい顔になった。

(やっぱ、あれはさすがにレグラ家の人間でも、驚く内容なんだな)

アルバの表情を見て、さすがにキング種三体が同時に行動するのが、レグラ家の領地では当たり前ではないのだと思い……何故かホッとした。

「それで、楽しかったか」

「はい!! とても楽しめました!!!! 割と本気で死ぬかと思いました!!」

笑顔で答える内容ではない。

ただ、割と本気で死ぬかと思ったというイシュドの感想は、決して大袈裟ではなかった。
リザードマンキングが仕掛けた咄嗟のブレスは……バーサーカーソウル状態のイシュドであっても、飛んでくると解り……しっかり迎撃態勢を取れた状態でなければ、頭部を貫かれていた。

「ふっふっふ、そうかそうか。それは良かったな」

息子が死にかけたというのに、それは良かったとはこれ如何に?
ガルフたち全員が首を傾げるも、これがレグラ家の日常であった。


「ねぇ、イシュド。キングのモンスターが同時に三体も現れるって言うのは、そこまでレグラ家の領地では珍しくないことなの?」

夕食を食べ終わり夜の訓練時、疑問に思っていたことを尋ねたガルフ。

「いや、そんな事はねぇと思うぞ。三体も同時で、しかもその三体がキングのくせに同族を引き連れてねぇって話は聞いたことがねぇ。あっ、でも別種のキングが二体、群れを混ぜて行動してたことはあったんだったか?」

イシュドが思い出した内容を耳にした面子はギョッとした表情を浮かべた。

他の領地で起これば、その領地の歴史に残る大問題として残る。

「? おいおい、お前らびっくりし過ぎだろ」

「……色々と解ったつもりになってましたけど、本当に常識が違いますわね」

「そうですね。イシュド君、世間一般では歴史に残る大事件ですよ」

「そうか? まぁ、うちがおかしいだけって言えばそうなのかもしれねぇけど」

「なぁイシュド。ここだと他にどんなぶっ飛んだモンスターが現れたりするんだ」

面白半分で尋ねたフィリップだったが、イシュドから帰って来た内容は……どれも信じられない内容ばかりだった。

「お前らの世間一般的な意味で、ぶっ飛んだモンスターってことだろ? ……冬でもねぇのに、雪竜とか氷竜が現れたりとかか?」

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

一応バトレア王国にも四季はあるが、レグラ家周辺は比較的寒くはならない。
なので、気候的に雪竜や氷竜が現れることは、まずない。

流れのドラゴンであったとしても、レグラ家周辺に腰を下ろそうとは思わない。
ドラゴンと言えばモンスターの食物連鎖の頂点に君臨する存在だが……レグラ家周辺に生息しているモンスターが相手だと、そうもいかない。

「後、リザードマン……いや、コボルトだったか? 確か、六本腕の人型モンスターが現れたこともあったか」

「ろ、六本腕? そ、それ……じゃ、邪魔になりませんの?」

「知らん。俺はそのモンスターと戦ってないからな。確か、うちに属してる騎士が戦ったんだったか? 普通に六本の腕は自由自在に使ってたらしいぞ。死にかけたって笑いながら言ってたような…………うん、多分笑ってたな」

死にかけたのに、その事を笑いながら話す。
そこに関しても……もう誰もツッコまなかった。

「元からそうだったとは思わねぇけど、何かしらの過程を得てそう進化したなら、元から適応してたんじゃねぇのか」

「六本の腕を自由自在に扱える、か。恐ろしい存在だな」

「はっはっは! そりゃそうだろうな。単純な計算で俺たちよりも手数が三倍なんだからな」

自由自在に扱えるのであれば、その単純計算は間違っておらず、攻撃に受け方を間違えれば即死に繋がる。

「他にも、ワイバーンのくせに頭が二つ、翼が四つあるイミフな個体もいたな」

「それは……珍しくないのだろうか」

「そう、だな。珍しいっちゃ珍しいけど、そいつとは俺も戦ったことがあるな」

まだまだイシュド基準で、世間一般ではぶっ飛んだモンスターの説明が続き……ガルフたちはやや過食気味になった。

とはいえ、レグラ家周辺が改めて魔境だと解ったところで、彼らの意欲が削がれることはなく、実家に帰る時まで鍛錬と実戦を繰り返し続けた。


「いや、お前らも帰れよ」

「僕は一度実家に、王家に帰ったからもう一度顔を出さなくても問題無いよ」

「俺もアドレアスと同じだ」

ガルフも含め、フィリップも嫌々ながら無理矢理クリスティールに連れられて実家に帰省した中……途中から参加したアドレアスとディムナだけは、六人が帰った後もレグラ家に残っていた。

「……つか、お前ら良く実家が許したよな」

「父上……国王陛下は、色々と理解してるからじゃないかな?」

「俺も、似た様なものだろう」

「理解があるのはありがてぇけど……まっ、いいや。んじゃあ、今日は…………」

「「ッ」」

急に自分たちの方を向いて、ニヤッと……凶悪な笑みを浮かべられれば、二人が無意識に震えてしまうのも無理はない。

「せっかくだ……二対一で掛かって来い。勿論、殺す気でな」

明らかに二人を嘗めてる発言だが、アドレアスとディムナはレグラ家に来てから……いや、それよりも前に、激闘祭のエキシビションマッチを観てからイシュドの底知れない恐ろしさを理解していた。

理解していたうえで、そんな魔人と同格の猛者がごろごろといる家に脚を向けた。

「良いね。言われた通り本気で、殺す気でいかせてらうよ、ねっ、ディムナ」

「そうだな…………殺す」

「はっはっは!!!!! その意気だ、チ〇カスども」

遠慮を知らない二人のガチ殺気に満足気な笑みを浮かべるイシュド。

その後、朝からガチバトルが行われた。

「う~~~~っし、こんなもんだな。とりあえず回復してもらえ~~」

片腕、方足が使い物にならなくなったところで、死合い? 終了。
結果……当然といえば当然だが、王子と侯爵家の令息がボロ雑巾状態にされた。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...