上 下
122 / 246

第122話 揺さぶられない

しおりを挟む
「「…………」」

(こんのクソったれが…………マジでふざけんなよ)

予想外の来客が訪れたその日……イシュドの目の前には、とある人物が二人座っていた。
その人物とは……激闘祭の準々決勝でガルフが闘気を会得する切っ掛けとなった相手、ディムナ・カイス。

そしてもう一人は、決勝戦でフィリップと優勝を奪い合った同級生……アドレアス・バトレア。
そう……この国の第五王子である。

今朝、朝食を食べ終えて先日の実戦訓練の反省をしながら試合を行っていこう、そんな事を考えていた時……イシュドは父親であるアルバに呼び出された。

お前に客が来ている、と。

その客が、何も事前に連絡せず、初めてレグラ家に訪れたディムナとアドレアスだった。

「お前らなぁ………………事前に連絡もなしに、うちに来るってのはどういう了見だ」

侯爵家の人間、王族である人物に対してお前ら、と口にしたイシュドに後ろで控えている護衛の騎士や魔術師である者たちは「無礼者!!!! 切り捨てられたいのか!!!!!」といった言葉を発することはなく、やや申し訳なさそうな表情をしていた。

事前連絡も無しに、他家に窺うとはどういう了見なのか……まさしく、その通りである。

「いやぁ~~、事前に連絡したらイシュド君に断られそうだと思ってさ」

「……同意見だ」

ニコニコと笑顔で答えるアドレアスと、無表情で淡々と答えるディムナ。

(ぶん殴って良いか、ぶん殴っても良いか?)

チラッと……イシュド的に、王族を除けば立場的にトップだと思っているクリスティールに視線を投げた。

(止めてください。正式な場ではともかく、この場では止めてください)

(……はいよ)

アイコンタクトで会話を終え……大きなため息を吐きながら、両腕をソファーに掛ける。

とても侯爵家の令息と王子に対する態度ではないが、この場にそれを咎める者は誰もいない。

「そもそもだ、お前らどうやってここまで来やがった。まさか、馬鹿正直に来た訳じゃねぇだろうな」

イシュドは学園から実家まで、友人たちはマジックアイテムである空飛ぶ絨毯に乗せてここまで帰って来た。

その為、住民たちはイシュドが学園でできた友人を実家に連れてきたという事は分かっても、どの貴族の家の子を連れてきたまでは解らない。

故に今のところ面倒な問題には発展してないが……侯爵家と王族の馬車が来たとなれば、それだけで後々厄介な問題に発展してもおかしくない。

「はっはっは、安心してほしい。ちゃんとそこら辺はカモフラージュして、王家の者だとバレないように移動してきたよ」

「同じく」

「あっそ……」

いや、だからなんなんだよ、という話ではある。

最低限のラインはクリアしているが、イシュドからすればそんな事関係無いといえば関係無い。

さっさと実家に帰れクソ坊ちゃん共!!!!!! と叫び散らしたいが、一応……一応目の前には王族と、その護衛連中がいるため、一応控えた。

「んで、うちの実家になんの用だ?」

「君の強さに触れたいと思ってね」

「……離されてはならないと、思ってな」

アドレアスはイシュドに、ディムナは……準々決勝で戦った相手、ガルフに意識を向けていた。

勿論、ディムナからすればイシュドも意識すべき相手ではあるが、今現在最も意識している相手は……同世代で決勝戦まで勝ち上がったアドレアスとフィリップの二人ではなく、準々決勝で戦ったガルフだった。

「ほ~~~~~ん。つってもなぁ~~~~……別によぉ、俺はお前らのダチって訳じゃねぇだろ」

全くもってその通りである。
アドレアスはイシュドと仲良くしたいとは思っているが、当のイシュドはこれっぽっちも、一ミリもそんな気持ちはない。

そしてディムナとは……ほぼ初対面に近い。
イシュドから見て、基本的に人を見下している節があり、そしてちょっと良く解らんという印象が強い。

「はは、手厳しいね。でも、それは理解してるつもりだよ」

「俺もだ」

二人が合図すると、護衛の騎士たちがそれぞれ大量の硬貨が入った袋をテーブルの上に置いた。

「まだ、ミシェラが君と対立? していた頃、自分を打ち負かした君に対して一緒に訓練をしたい……そう申し出た時、君は金銭を要求したと聞いている」

(そんな事もあったなぁ~~。つか、そんな情報、どっから仕入れてんだが……いや、この王子様はまだ同じ学園の同級生だから、知っててもおかしくないが、この冷徹君はダスティンパイセンと同じで他学園の奴だろ)

ディムナはダスティンと同じサンバル学園の生徒であるため、アドレアス以上にその情報を得られにくい筈だが……表情から察するに、その情報を知った上で大量の硬貨を用意したことが窺える。

「どうかな。それなりの金額を用意したつもりなんだけど」

当時、イシュドは笑いながらミシェラに頼む相手は俺じゃないだろ、と告げた。

二人も個人的な懐にある金だけでは足りないと思い、父親である当主……国王に頭を下げた。

(…………用意し過ぎだろ、バカちんが)

イシュドがミシェラに請求した金額は、高級料理店で大量に呑み食い出来るだけの額。

それだけでも十分な金額になるのだが、二人が親に頼んで用意した金額は……それを五回ほど繰り返せるである額であった。

(……チッ!!! ちゃんとここまで用意してんのは、多少はやるじゃねぇかとは思うけどよぉ……あんま金さえ用意すれば、うちに転がり込めると思われるのもなぁ……)

イシュドにとってガルフ、フィリップ、イブキは友人。
ミシェラは……良く解らないが、根性はある奴認定。

クリスティールとダスティンに関してはエキシビションマッチで戦い、それなりに気に入った。

だからこそ、実家に来るかと誘ったのである。

アドレアスとディムナに関しては、実力は知っているがその他の細かい部分は知らず、正直なところ……金を用意しようが、あまり心は揺さぶられない。

そんなイシュドの態度に、最初は申し訳ないという気持ちが多少なりともあったが、徐々に少し態度が大き過ぎないか? という思いが湧き上がって来た護衛の者たち。

どうせなら、彼らを怒らせて自分と同じく三次職に転職しているであろう者たちと本気で戦うのもありか……なんて考えていると、ディムナがいきなり立ち上がった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

処理中です...