転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai

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第115話 それで役目は終わり

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「ちなみにだが、二人はどんな褒美がありゃ、この案を受けても良いと思う?」

クリスティールが本気で悩んでいる。

それを察した二人も、真剣に悩み始めた。

「俺は……やっぱり、強い武器とか?」

「…………私も、優れた効果が付与されている、魔術師関連のマジックアイテムを頂けるなら」

レグラ家が治める街には優れた技術者が多いものの、全てが手に入る訳ではない。
付け加えるのであれば、両親に頼めばなんでも購入してもらえるわけではない。

これはヴァルツやリュネに限った話ではない。

兄弟姉妹たちの中で、子供の頃から自由に……好きな様にお金を消費出来ていたのは、イシュドただ一人である。

「まっ、そうなるよな。てなわけだが、会長パイセン……用意出来そう?」

「…………毎年、は難しそうですが、不可能ではありませんね」

「はっはっは!!!! 良かったな、二人とも。なんなら、来年あたりにでも始めるか? 確か、高等部や中等部だけじゃなくて小等部もあるんだろ」

「……早いうちから挫折を体験しておいた方が良い。この理屈は解りますが、果たしてあまりにも早い段階で絶対的な差を見せられた場合……どれだけの子たちが前を向くことができるか」

(ん~~~~~、人を纏める立場の人間ってのは、色々と考えなきゃなんねぇんだな~~)

面倒で大変そうだな~~~と思いはするものの、それならこうすれば良いんじゃないか? という事までは考えない。
そこに関しては、明らかにイシュドが力を貸す範囲外である。

「クリスティールパイセンはごちゃごちゃ考え過ぎなんじゃないっすか? そこで折れるなら、あんたが望む様な騎士は生まれないっしょ」

「フィリップ……まさかあなたの口からその様な言葉が零れるとは」

「やめろやめろ、マジで止めてくれって。別に俺は今更騎士の道に進むつもりはねぇっての。ただ思った事を口にしただけだっての」

本気で嫌そうな表情を浮かべるフィリップ。
イシュドやガルフと共に行動することに面白さを感じているため、こういった実戦にも付き合っているだけであり、幼く純粋だった頃のように立派な騎士を目指そうと……そんな気持ちが再熱することはない。

絶対にないと断言出来る。

「イシュドもそう思わねぇか?」

「さぁ、どうだろうな。どう考えても二人が勝つ未来しか想像出来ないが……まっ、そこは教師たちの腕の見せどころじゃないか? ヴァルツやリュネは現実として存在する差を、壁の厚さを教えた。その現実に挫けたガキたちをどう再起させ、導くか。そういうのも教師の役割だろ」

イシュドの言葉に、差はあれど納得するフィリップたち。

「フィリップの言う通り、会長パイセンはちょっと考え過ぎなんじゃねぇの? 卒業後から直ぐに教師になるならまだしも、そうじゃねぇんだろ」

「えぇ。一応……入団する騎士団はほぼ決まっています」

「そりゃおめでとさん。だったら、尚更あんたはガキたちに、世界の広さを知る機会を与えた。それで役目を終えたって思っても良いと思うぜ」

「…………」

再び考え込むクリスティール。
彼女は物心ついた時から、人を纏めることが多かった。

女が人を纏める?
その事に単純なオスとしてのプライドが刺激されたバカもいたが、クリスティールの実家は武家に分類される家。

幼い頃から英才教育を受けていた彼女に、ただのバカたちが叶う訳がなかった。

(そう、ですね…………さすがにそこまで考えるのは、お節介が過ぎるというものでしょうか)

未来の騎士候補たち。
そんなまだ殻を破っていない卵たちを心配するのは当然だが、それを心配しなければならないのは学園の教師、上層部の大人達。

クリスティールも……ガキたちからすれば大人ではあるが、まだ一応騎士すらなっていない。

「っと、そろそろ向こうも終わりそうだな」

「みてぇだな…………へへ、やっぱ良いね、あの人」

視線の先にあるのは、勿論サイクロプスと殴り合っているダスティン。

最初は大斧を振るっていたが、サイクロプスが冒険者から奪って手に入れたのか、同じく振るっていた大斧とぶつかり……同時に手元から離れた。

思考が似ていたのか、ダスティンとサイクロプスはダッシュで自身の得物を取りに行くのではなく、そのまま素手での殴り合いに転じた。

総合的な身体能力では……やはりサイクロプスの方が勝っていた。
しかし、その差は決して絶望的な、思わず逃げ出したくなるような差ではない。
並みのモンスターとは違い、人間には考える力がある。

現在ダスティンが激闘を演じているサイクロプスは、別の地域に生息している個体よりも強靭で巨体ではあるが、それでも思考まで特殊な個体ではない。

「ぬぅゥゥゥアアアアアアアアッ!!!!!!!」

ダスティンは自身の拳よりも大きな拳を持つサイクロプスに対し、指を潰すように殴り、両拳を半壊させることに成功。

まだ両脚が残っている……それはサイクロプスも分かっており、直ぐに蹴りを繰り出すが、闘志を熱く燃え滾っていても、頭まで煮えたぎってどろどろにはなっていなかった。

「シッ!!!!!!!!!!」

「ゴっ!!!??? ォ、ァ……ォ、ガ」

どういった蹴りの軌道が来るか解かっていた。
ダスティンが取った行動は、ほんの少し下がって蹴りを完全に躱し……全力ダッシュ。

そして喉元に蹴りを……そう、ライダーキックを叩き込んだ。

焦り、蹴りを行った後のことを全く考えていなかったサイクロプスは防御が遅れ、ライダーキックは見事喉を陥没させた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………ふ、ふっふっふ。どうやら、勝てた、ようだな」

そのまま喉を貫くことはなかったが、それでも足裏に首の骨を砕いた感触もあった。

サイクロプスは再生というスキルを有しておらずとも、それなりに高い回復力を持っている個体ではあるが、首の骨を折られては……もう、何も出来ることはなかった。

「お疲れさん、ダスティンパイセン」

「イシュドか……すまない、時間を掛けてしまった」

「そうっすか? 全然悪くない討伐時間だったと思うけどな。っと、そういう話はまた後で、ほい!」

「っ、ふふ。すまないな」

ダスティンは受け取ったポーションを一気に煽った。

相変わらず慣れない苦さだと思いながらも、休息にサイクロプスの攻撃によって受けた傷が癒えるのを感じ……思わずニヤッと笑ってしまう。

「良いポーションだな」

「制作者に伝えておくよ」

激闘を終えた。
しかし、これで今日一日が終わった訳ではなかった。
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