上 下
107 / 246

第107話 興味を持たれる嬉しさ

しおりを挟む
(っ……本当に、底の見えない方ですね)

長い長いタッグ戦の試合を終えたイブキたちは、今日は夕食前にシャワーを浴びることができ、体に鞭を打って夕食後の訓練も行う。

そんな中、イシュドはガルフたちの相手をする……もしくは夜の森に入って狂暴性が増しているモンスターと戦うわけではなく、一人別の訓練場で瞑想を行っていた。

「ん? イブキか。何か用か」

「いえ、その…………イシュドも、瞑想などをするのですね」

「はっはっは! 驚いたか?」

「正直に言うと、驚きました。あなたと、あなたの曾お爺様が戦うところを見ましたので」

鬼神、という言葉を彷彿とされるオーラ、覇気を全力で開放しながら戦う姿は、今も脳裏に焼き付いている。

「だからこそ、あなたが瞑想を行う光景は、とても珍しいものに感じました」

「だろうな。個人的な感想だが、戦いの最中……何も考えず、最適な攻撃を繰り出せるのが一番良いと考えてる。だからこそ、無心になるのも強くなる為の一つに繋がる……って、俺は思ってるけど、こういう考えを持ってんのはレグラ家の中でも珍しいっぽいんだよな~」

「……私は、イシュドの考えに賛同します。よければ、私も一緒に瞑想しても良いでしょうか」

「おっ、マジ? 良いぜ良いぜ、一緒に瞑想しようぜ」

こうしてイシュドと一緒に瞑想を行うことしたイブキだが……瞑想を始めてから数分後、先程よりもイシュドの存在感が増している事に気付いた。

(っ、闘志や戦気、覇気が零れている、わけではない。ただただ……先程よりも、存在感が増してる)

考え事をしてはならない。
ただ精神を統一させるのが目的の瞑想。

にもかかわらず……イブキは徐々に増すイシュドの存在感に気を取られてしまう。

(いけない!! 瞑想一つとて、強くなる為の修行。中途半端になっては、ならない)

心を落ち着かせ、己の中心部に……腹部に、丹田と呼ばれる部分に意識を集中させる。

ここで、普段であればイブキの変化に関心を寄せるイシュドだが……既に瞑想、その一つに完全集中していたため、その変化に気付くことなく……瞑想が終わる時間まで、精神を統一し続けた。

「ふぅ~~~~~。座禅ってのは、脚が痛くなるな」

「慣れれば、そこまで苦に感じなくなりますよ。それにしても……座禅まで知ってるのですね」

イブキの記憶が正しければ、この大陸にはない言葉である。

「へへ、まぁ色々と大和のことが気に入ってるんだよ。まだ料理には出してねぇけど、米や漬物だってあるんだぜ」

「っ!!! そ、それは真か!!!!!」

「お、おぅ。勿論真だぜ」

いきなり顔が近くなり、思わず「やっぱ大和撫子な美人は良いな~」と思いながら目を逸らす。

「そうでしたか……で、ではまた別の機会に、食べても」

「おぅ。つか、どうせなら夜食に食べるか?」

「や、夜食に……」

先日、イシュドが夜の森で狩ってきたモンスターの肉料理を、夕食を食べお終えた後の訓練後に食べた味が口の中に広がり……涎を零しそうになった。

「はっはっは、良い顔なんじゃねぇの?」

「っ、失礼しました」

「良いって良いって、普通に考えればこっちにいる間は、大和で食ってた飯が食えないと思ってたろ」

「え、えぇ」

大和以外の大陸に行けば、今まで食べたことがない料理を食べられる。
それはそれでイブキの楽しみではあるが、それでもいざ今まで食べてきた当たり前の料理が食べられないとなると……それはそれで寂しいものがある。

「んじゃ、食いに行くか」

イシュドは他の訓練場で訓練を行っている者たちに声を掛けるのを忘れ、厨房へと向かう。
イブキも久しぶりに大和の料理……和食が食べられることに夢中になっており、ミシェラたちを誘うことをすっかり忘れていた。

「よし、まずは米を炊かねぇとな」

慣れた手つきで米を洗い、釜に入れ……火を付けてスタート。

「今、もっと楽に米を炊くマジックアイテムを弟と考えてるんだよ」

「もっと楽に、ですか」

「そうそう。こうやって釜で炊くのも良いんだけど、その時々によってちょいちょいムラがあるだろ。そのムラをなくそうと思ってな」

「なるほど……それは確かに、画期的なマジックアイテム、ですね」

「だろ~~。つっても、ちゃんとした奴が造れるのはまだまだ先になるだろうけどな~~~」

前世の知識こそあるイシュドだが、前世の細かい知識まではない。
加えて、レグラ家の人間にそれらの知識を伝えたところで、理解、把握、なんとなく解る者は殆どいない。

「……イシュドは学園を卒業した後、どうするつもりなのですか」

「学園を卒業したら、か? ……まっ、こっちに戻ってくるだろうな。理由は全然解ってねぇけど、相変わらずモンスターの出現数はバカ多いし強ぇ。あんな圧倒的な強さを持つロベルト爺ちゃんがいても、まだその原因を突き止めるまでには至ってないからな」

「そうですか」

「つってもなぁ~~~、ぶっちゃけ大和には行ってみてぇ気持ちはあるんだよな」

「大和に、ですか」

「おぅ。他だと超階層数が多いダンジョンとか、まだ全貌が明らかになってない遺跡とかな。そういうのと同じぐらい、大和に行ってみたいって気持ちはある」

超階層数が多いダンジョン、そしてまだ全貌が明らかになってない遺跡。
そのどちらも、強力なモンスターや地下深くに眠っている宝物が気になっている。
まだ関わり始めて半年も経ってないイブキでも解る。

だが……大和に行ってみたいという言葉には、純粋に大和に対する強い興味が宿っている、とイブキは感じた。

(な、何と言うか……う、嬉しいものだな)

故郷愛てきなところは、多少ある。
しかし、ここまで侍という存在に強い興味と敬意を持っており、加えて大和という国自体に強い興味を持ってくれている人物が目の前にいれば……自然と嬉しさが増してしまうというもの。


「っと、そろそろ出来上がりそうだな……そうだ。米と漬物だけだと、ちょっと味気ねぇよな」

椅子から立ち上がったイシュドはコンロのマジックアイテム前に移動し、保管している卵をと塩、砂糖を使って玉子焼きを作り始めた。

「っと、こんなところか」

職人に造ってもらった、玉子焼きを作る様のフライパンを使用し、綺麗な玉子焼きが完成。

「んじゃ、食べようぜ」

サラッと一品作ってしまうイシュドの姿に、イブキはポカーンとした表情をしながら驚き固まってしまっていた。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

処理中です...