転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai

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第94話 夢や希望だけでは足りない

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「お疲れさん。疲れたとは思うけど、次の試合を始める前に、そのボードに反省点を書いておけ」

訓練場の端っこに木製のボードが大量に並べられていた。

「あまり深く考える必要はない。直感的に、今の試合でこの部分が良くなかった、もっとあぁいった動きが出来れば、って感じで書いてくんだ」

木製ボードは少し加工されており、非常に縦横斜めに削りやすくなっている。

これはこれで凄い……と思いながら、ガルフたちはダンベルを持ちながらスクワットを続けるイシュドに視線を奪われていた。

(もしかして、この連続試合が終わるまで、ずっと続けるつもりですの?)

アホか、バカかとツッコミたいところだが……イシュドが連続試合に参加しないのは、自分たちが本当の意味でイシュドの訓練相手にならないからだと理解しているため、余計な事を口走らなかったミシェラ。

彼女も多少成長しており、そういった考えを口にしてしまうと、必ず倍になって返ってくると解っていた。

「そんじゃ、次はフィリップとヴァルツが入って……ガルフとリュネが抜けてくれ」

休憩時間は、規定試合時間の五分が終わってから、三分。

その間に彼らは自身の反省点を書きだしながら、完全に呼吸を整える。

「……どうしたんだ、ガルフ? 会長パイセンに負けたのがショックだったか?」

「それに関しては、少しだけ悔しさがあるかな。僕は一年生で、クリスティール会長は三年生。当たり前の結果かもしれないけど、悔しさはある」

「それで良いんだ。強くなる為に必要なのは……夢や希望とか、目標だけじゃないからな」

転生者であるイシュドには、確かに大きなアドバンテージがある。

だが、ここはレグラ家が治める魔境……その気がある者は、直ぐに強さを求め始める。
イシュドであっても、これまで何度も負けを、泥の味を体験してきた。

「……そうなのかもしれないね。でも、それより今は闘気の力を全く上手く扱えてない自分に苛立ちを感じたかな」

「なるほどな。まぁ、闘気を得てまだ半年も経ってない……って、慰めは必要ないか」

「うん、嬉しいけど必要ないかな」

(正直なところ、割とコントロール出来てる方だとは思うんだけどなぁ)

イシュドは先程行われていた試合、全てをある程度観ていた。

ガルフがクリスティールに負けてしまった理由は……主に技術の差。
寧ろ闘気を纏うことでガルフはクリスティールとの間にある身体能力の差を殆ど埋めていた。

(一朝一夕の差がある。力の受け流しもミシェラと比べてよっぽど上手い。今のままのガルフだと……やりやすい相手、かもな)

ガルフも正確には技巧派ではあるものの、闘気を会得したことで一気にパワープレイが出来るようになった。

とはいえ、そこだけに意識が向いてしまうと強味を潰してしまうことになるが、クリスティールも技巧派よりであるため、先程の戦い方は決して間違ってはいない。

「………………」

(けど、わざわざ細かく教える必要はなさそうだな)

悔しさを感じ、自分に苛立ちもしている。
けれど腐ることなく現在試合を行っている友人たちの戦いぶりを注視していた。

「リュネはどうだった?」

「ミシェラさん、でしたよね」

「通称デカパイだな」

「……私も将来、あれぐらい大きくなるでしょうか」

「ありゃ巨乳の中の巨乳だからなぁ……まっ、母さんもデカいんだし、リュネもいずれデカくなるだろ。姉さん達もデカいし」

「将来に期待、ですね。それでミシェラさんですが……何故か、強引に攻められた気がします。勿論、私は負けてしまったので、あの鬼気迫る顔? について何も言えませんが」

(鬼気迫る顔、ねぇ……そりゃあ、技量だけなら激闘祭で戦った同じ魔導士タイプのエステル・トレイシー? とニコニコデカパイの……フルーラ・ストーレ、だったか? あいつらと同等だったからだろうな)

イシュドは色々と頭おかしい。
そんな事はもう、嫌と言うほど解かっているミシェラ。

それでも……まだレグラ家の人間、レグラ家全体がどれほど強く、厚いのか解っていなかった。

「別にありゃあ、お前に思うところがあるとか、そういうのじゃねぇよ。単純にお前の実力に驚いて、そこから絶対に負けられないって思いが湧き上がっただけだろ」

「私がミシェラさんより歳下だからですか?」

「ん~~~……一割二割ぐらいはありそうだけど、大半の理由はそうじゃないだろうな」

そのレベルの技術力を持つ同級生たちとの激闘を越えてきた。

苦戦しても、その壁に阻まれる訳にはいかない。
傲慢に思えるかもしれないが、それは意味のあるプライドでもあった。

「っと、そろそろ終わる試合が出てきたな」

今回も規定の五分になる前に全ての試合が終了した。

「んじゃ、さっきと同じく反省点を自分のボードに書いてくれ」

試合をして反省点を書きだし、少しの間休み、また試合を開始。

当然ながら一試合目のダスティンだけではなく、昼食の時間になるまで少なくとも十本以上の手足が飛んだ。


「ぃよぉ~~~~し、んじゃここで一旦訓練は終わり。昼飯にしようか」

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

ゾンビの様に死にかけているガルフたち。
今回の訓練方法をこれまで行っていたヴァルツ、リュネの二人も訓練が始まってから昼間で連続で行い続けるのは初めてであり、疲労が色濃く出ていた。

そんな中……基本的に観てるだけだったイシュドに対して、愚痴や文句を零す者は……誰一人いなかった。

「イシュド様、さすがに昼食前に軽く汗を流した方がよろしいかと」

「ん? ……それもそうだな。んじゃ、昼食前に汗を流したい奴は大浴場に行こう」

何故なら、イシュドは訓練が始まってから……試合を観戦してる間、ずっと筋トレをし続けており、足元には大量の汗が零れていた。

(いくらレベルが俺らより上で、普通じゃない筋トレグッズ? を使ってるつっても、マジでずっと動き続けられるとか……はぁ~~~~。あれが小さな積み重ねってやつか)

自分もこれからはイシュドの様に重ねていこうか……と決心はしないが、更に尊敬の念は深まった。
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