94 / 270
第94話 夢や希望だけでは足りない
しおりを挟む
「お疲れさん。疲れたとは思うけど、次の試合を始める前に、そのボードに反省点を書いておけ」
訓練場の端っこに木製のボードが大量に並べられていた。
「あまり深く考える必要はない。直感的に、今の試合でこの部分が良くなかった、もっとあぁいった動きが出来れば、って感じで書いてくんだ」
木製ボードは少し加工されており、非常に縦横斜めに削りやすくなっている。
これはこれで凄い……と思いながら、ガルフたちはダンベルを持ちながらスクワットを続けるイシュドに視線を奪われていた。
(もしかして、この連続試合が終わるまで、ずっと続けるつもりですの?)
アホか、バカかとツッコミたいところだが……イシュドが連続試合に参加しないのは、自分たちが本当の意味でイシュドの訓練相手にならないからだと理解しているため、余計な事を口走らなかったミシェラ。
彼女も多少成長しており、そういった考えを口にしてしまうと、必ず倍になって返ってくると解っていた。
「そんじゃ、次はフィリップとヴァルツが入って……ガルフとリュネが抜けてくれ」
休憩時間は、規定試合時間の五分が終わってから、三分。
その間に彼らは自身の反省点を書きだしながら、完全に呼吸を整える。
「……どうしたんだ、ガルフ? 会長パイセンに負けたのがショックだったか?」
「それに関しては、少しだけ悔しさがあるかな。僕は一年生で、クリスティール会長は三年生。当たり前の結果かもしれないけど、悔しさはある」
「それで良いんだ。強くなる為に必要なのは……夢や希望とか、目標だけじゃないからな」
転生者であるイシュドには、確かに大きなアドバンテージがある。
だが、ここはレグラ家が治める魔境……その気がある者は、直ぐに強さを求め始める。
イシュドであっても、これまで何度も負けを、泥の味を体験してきた。
「……そうなのかもしれないね。でも、それより今は闘気の力を全く上手く扱えてない自分に苛立ちを感じたかな」
「なるほどな。まぁ、闘気を得てまだ半年も経ってない……って、慰めは必要ないか」
「うん、嬉しいけど必要ないかな」
(正直なところ、割とコントロール出来てる方だとは思うんだけどなぁ)
イシュドは先程行われていた試合、全てをある程度観ていた。
ガルフがクリスティールに負けてしまった理由は……主に技術の差。
寧ろ闘気を纏うことでガルフはクリスティールとの間にある身体能力の差を殆ど埋めていた。
(一朝一夕の差がある。力の受け流しもミシェラと比べてよっぽど上手い。今のままのガルフだと……やりやすい相手、かもな)
ガルフも正確には技巧派ではあるものの、闘気を会得したことで一気にパワープレイが出来るようになった。
とはいえ、そこだけに意識が向いてしまうと強味を潰してしまうことになるが、クリスティールも技巧派よりであるため、先程の戦い方は決して間違ってはいない。
「………………」
(けど、わざわざ細かく教える必要はなさそうだな)
悔しさを感じ、自分に苛立ちもしている。
けれど腐ることなく現在試合を行っている友人たちの戦いぶりを注視していた。
「リュネはどうだった?」
「ミシェラさん、でしたよね」
「通称デカパイだな」
「……私も将来、あれぐらい大きくなるでしょうか」
「ありゃ巨乳の中の巨乳だからなぁ……まっ、母さんもデカいんだし、リュネもいずれデカくなるだろ。姉さん達もデカいし」
「将来に期待、ですね。それでミシェラさんですが……何故か、強引に攻められた気がします。勿論、私は負けてしまったので、あの鬼気迫る顔? について何も言えませんが」
(鬼気迫る顔、ねぇ……そりゃあ、技量だけなら激闘祭で戦った同じ魔導士タイプのエステル・トレイシー? とニコニコデカパイの……フルーラ・ストーレ、だったか? あいつらと同等だったからだろうな)
イシュドは色々と頭おかしい。
そんな事はもう、嫌と言うほど解かっているミシェラ。
それでも……まだレグラ家の人間、レグラ家全体がどれほど強く、厚いのか解っていなかった。
「別にありゃあ、お前に思うところがあるとか、そういうのじゃねぇよ。単純にお前の実力に驚いて、そこから絶対に負けられないって思いが湧き上がっただけだろ」
「私がミシェラさんより歳下だからですか?」
「ん~~~……一割二割ぐらいはありそうだけど、大半の理由はそうじゃないだろうな」
そのレベルの技術力を持つ同級生たちとの激闘を越えてきた。
苦戦しても、その壁に阻まれる訳にはいかない。
傲慢に思えるかもしれないが、それは意味のあるプライドでもあった。
「っと、そろそろ終わる試合が出てきたな」
今回も規定の五分になる前に全ての試合が終了した。
「んじゃ、さっきと同じく反省点を自分のボードに書いてくれ」
試合をして反省点を書きだし、少しの間休み、また試合を開始。
当然ながら一試合目のダスティンだけではなく、昼食の時間になるまで少なくとも十本以上の手足が飛んだ。
「ぃよぉ~~~~し、んじゃここで一旦訓練は終わり。昼飯にしようか」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
ゾンビの様に死にかけているガルフたち。
今回の訓練方法をこれまで行っていたヴァルツ、リュネの二人も訓練が始まってから昼間で連続で行い続けるのは初めてであり、疲労が色濃く出ていた。
そんな中……基本的に観てるだけだったイシュドに対して、愚痴や文句を零す者は……誰一人いなかった。
「イシュド様、さすがに昼食前に軽く汗を流した方がよろしいかと」
「ん? ……それもそうだな。んじゃ、昼食前に汗を流したい奴は大浴場に行こう」
何故なら、イシュドは訓練が始まってから……試合を観戦してる間、ずっと筋トレをし続けており、足元には大量の汗が零れていた。
(いくらレベルが俺らより上で、普通じゃない筋トレグッズ? を使ってるつっても、マジでずっと動き続けられるとか……はぁ~~~~。あれが小さな積み重ねってやつか)
自分もこれからはイシュドの様に重ねていこうか……と決心はしないが、更に尊敬の念は深まった。
訓練場の端っこに木製のボードが大量に並べられていた。
「あまり深く考える必要はない。直感的に、今の試合でこの部分が良くなかった、もっとあぁいった動きが出来れば、って感じで書いてくんだ」
木製ボードは少し加工されており、非常に縦横斜めに削りやすくなっている。
これはこれで凄い……と思いながら、ガルフたちはダンベルを持ちながらスクワットを続けるイシュドに視線を奪われていた。
(もしかして、この連続試合が終わるまで、ずっと続けるつもりですの?)
アホか、バカかとツッコミたいところだが……イシュドが連続試合に参加しないのは、自分たちが本当の意味でイシュドの訓練相手にならないからだと理解しているため、余計な事を口走らなかったミシェラ。
彼女も多少成長しており、そういった考えを口にしてしまうと、必ず倍になって返ってくると解っていた。
「そんじゃ、次はフィリップとヴァルツが入って……ガルフとリュネが抜けてくれ」
休憩時間は、規定試合時間の五分が終わってから、三分。
その間に彼らは自身の反省点を書きだしながら、完全に呼吸を整える。
「……どうしたんだ、ガルフ? 会長パイセンに負けたのがショックだったか?」
「それに関しては、少しだけ悔しさがあるかな。僕は一年生で、クリスティール会長は三年生。当たり前の結果かもしれないけど、悔しさはある」
「それで良いんだ。強くなる為に必要なのは……夢や希望とか、目標だけじゃないからな」
転生者であるイシュドには、確かに大きなアドバンテージがある。
だが、ここはレグラ家が治める魔境……その気がある者は、直ぐに強さを求め始める。
イシュドであっても、これまで何度も負けを、泥の味を体験してきた。
「……そうなのかもしれないね。でも、それより今は闘気の力を全く上手く扱えてない自分に苛立ちを感じたかな」
「なるほどな。まぁ、闘気を得てまだ半年も経ってない……って、慰めは必要ないか」
「うん、嬉しいけど必要ないかな」
(正直なところ、割とコントロール出来てる方だとは思うんだけどなぁ)
イシュドは先程行われていた試合、全てをある程度観ていた。
ガルフがクリスティールに負けてしまった理由は……主に技術の差。
寧ろ闘気を纏うことでガルフはクリスティールとの間にある身体能力の差を殆ど埋めていた。
(一朝一夕の差がある。力の受け流しもミシェラと比べてよっぽど上手い。今のままのガルフだと……やりやすい相手、かもな)
ガルフも正確には技巧派ではあるものの、闘気を会得したことで一気にパワープレイが出来るようになった。
とはいえ、そこだけに意識が向いてしまうと強味を潰してしまうことになるが、クリスティールも技巧派よりであるため、先程の戦い方は決して間違ってはいない。
「………………」
(けど、わざわざ細かく教える必要はなさそうだな)
悔しさを感じ、自分に苛立ちもしている。
けれど腐ることなく現在試合を行っている友人たちの戦いぶりを注視していた。
「リュネはどうだった?」
「ミシェラさん、でしたよね」
「通称デカパイだな」
「……私も将来、あれぐらい大きくなるでしょうか」
「ありゃ巨乳の中の巨乳だからなぁ……まっ、母さんもデカいんだし、リュネもいずれデカくなるだろ。姉さん達もデカいし」
「将来に期待、ですね。それでミシェラさんですが……何故か、強引に攻められた気がします。勿論、私は負けてしまったので、あの鬼気迫る顔? について何も言えませんが」
(鬼気迫る顔、ねぇ……そりゃあ、技量だけなら激闘祭で戦った同じ魔導士タイプのエステル・トレイシー? とニコニコデカパイの……フルーラ・ストーレ、だったか? あいつらと同等だったからだろうな)
イシュドは色々と頭おかしい。
そんな事はもう、嫌と言うほど解かっているミシェラ。
それでも……まだレグラ家の人間、レグラ家全体がどれほど強く、厚いのか解っていなかった。
「別にありゃあ、お前に思うところがあるとか、そういうのじゃねぇよ。単純にお前の実力に驚いて、そこから絶対に負けられないって思いが湧き上がっただけだろ」
「私がミシェラさんより歳下だからですか?」
「ん~~~……一割二割ぐらいはありそうだけど、大半の理由はそうじゃないだろうな」
そのレベルの技術力を持つ同級生たちとの激闘を越えてきた。
苦戦しても、その壁に阻まれる訳にはいかない。
傲慢に思えるかもしれないが、それは意味のあるプライドでもあった。
「っと、そろそろ終わる試合が出てきたな」
今回も規定の五分になる前に全ての試合が終了した。
「んじゃ、さっきと同じく反省点を自分のボードに書いてくれ」
試合をして反省点を書きだし、少しの間休み、また試合を開始。
当然ながら一試合目のダスティンだけではなく、昼食の時間になるまで少なくとも十本以上の手足が飛んだ。
「ぃよぉ~~~~し、んじゃここで一旦訓練は終わり。昼飯にしようか」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
ゾンビの様に死にかけているガルフたち。
今回の訓練方法をこれまで行っていたヴァルツ、リュネの二人も訓練が始まってから昼間で連続で行い続けるのは初めてであり、疲労が色濃く出ていた。
そんな中……基本的に観てるだけだったイシュドに対して、愚痴や文句を零す者は……誰一人いなかった。
「イシュド様、さすがに昼食前に軽く汗を流した方がよろしいかと」
「ん? ……それもそうだな。んじゃ、昼食前に汗を流したい奴は大浴場に行こう」
何故なら、イシュドは訓練が始まってから……試合を観戦してる間、ずっと筋トレをし続けており、足元には大量の汗が零れていた。
(いくらレベルが俺らより上で、普通じゃない筋トレグッズ? を使ってるつっても、マジでずっと動き続けられるとか……はぁ~~~~。あれが小さな積み重ねってやつか)
自分もこれからはイシュドの様に重ねていこうか……と決心はしないが、更に尊敬の念は深まった。
469
お気に入りに追加
1,797
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる