上 下
81 / 246

第81話 平等なチャンス

しおりを挟む
「す、少し良いかな」

「「「「「?」」」」」

まだ夏休みという長期休暇に突入する前、一人の令息がイシュドたちに声を掛けてきた。

その令息たちは特にイシュドと仲が良い人物ではなく、ミシェラやフィリップと関わりのある令息という訳でもない。

(ん? あぁ~~~……はいはい、そういう事ね)

数日前にいずれ起こるだろうな~とイシュドが考えていた事が、ようやく目の前で起こった。

「誰の客だけ、ちゃんと教えてもらっても良いか? じゃねぇと、こっちも誰に用があるのか解らねぇし」

「あ、うん。そうだね。その……イブキさんに話があって」

「? 私ですか」

現在は昼休みであり、既に昼食を食べ終えてる。
まだ昼休みが終わるまで時間があるため、多少の会話ぐらいは問題無い。

「んじゃ、俺ら教室で待ってるか」

「えぇ、分かりました」

イシュドはそれ以上深くイブキに何の用があるのかと尋ねず、その場から離れた。

「なぁ、イシュド。もしかしなくても、そういう事だよな、あれ」

「そうだな、フィリップ。もしかしなくてもそういう事だろうな」

二人の会話に疑問符を浮かべるガルフとミシェラ。
しかし、ミシェラは数秒後には納得のいった表情を浮かべた。

「なるほど、そういう事ですのね」

「???? え、えっと……どういう事なの?」

「はっはっは、まぁガルフらしい反応ではあるか」

「ガルフはこういうの鈍いしな」

既に事情を把握しているフィリップが耳打ちし、ガルフもようやくいきなり知らない令息が自分たちに声を掛けてきた理由に納得した。

「そ、そういう事だったんだね。だから視線がイブキさんの方を向いてたんだね」

「でも意外ですわね。あなたがあっさりと許すなんて」

「そうか? だってよ、イブキはダチであって、別に俺の恋人や婚約者じゃねぇんだぜ?」

既に友人と言える関係にはなったイシュドとイブキ。

しかし、友人以上恋人未満というある意味深い関係ではなく、どちらかが片方に好意を抱いている訳でもない。

(別にクソみたいな下心を持ってるタイプでもなかったわけだし、チャンスは平等にあるべきだよな~~~)

今世では貴族の家に生まれ、両親も美男美女ということもあって顔に恵まれた。

だが、イシュドの前世は……ブ男ではなかったが、特に恵まれた面という訳ではなかった。
顔面偏差値五十のザ・普通男子学生。

そういった過去もあり、こういった面に関しては平等にチャンスがある方が良いという……イシュドとしての面しか知らない者にとっては、珍しく感じる考えを持っていた。

「でもあいつ、どうするんだろうな」

「……確かに、どうするんだろうな? いきなり告ると思うか?」

「普通にリスク高くねぇか?」

「けど、それならどうやって興味を持たれるつもりって話じゃね」

「イブキさんにいきなり告白…………どう考えても無理があると思いますわ」

ミシェラも恋バナというのは嫌いではないため、積極的に参加。

「何にも釣り合ってねぇからか?」

「……言い方を変えれば、そうなるでしょう。ただ、私はイブキさんが彼に興味を持てる部分がないと思っただけですわ」

「イシュドと同じ考えって訳だな。けど、それを解ってたら……逆に奇跡に懸けていきなり告白するんじゃねぇか? 無謀でも、一つの手ではあるだろ」

「普通はまず友達から、と距離を縮めていくものではなくて?」

ミシェラには大して恋愛経験というものはないが、実家の従者たちとは良好な関係を築いており、特にメイドたちと恋バナに関しては盛り上がっていたため……経験は無くとも知識はあった。

「まだ俺らが超ガキの時で、場所が社交界とかなら話は別なんじゃねぇの? 貴族ならその家によりけりかもしれなぇけど、初対面の相手でも友達になりやすくね?」

「……ってことはあれか。結局大人一歩か二歩手前? になった今の状態だと、簡単に友達にはなれねぇってことか」

「多分な。だってよ、今だからそう思うのかもしれねぇけど、興味がない相手とダチになれるか?」

「なれねぇな」

即答のフィリップ。
フィリップはイシュドという学園内の異端児に興味を持ったからこそ声を掛け、友人となった。
ガルフも同じであるが…………ミシェラはただの腐れ縁といったところであった。

「ガルフもどうよ。ちょっと難しいだろ」

「そう、だね……うん。難しいかな」

「ミシェラは?」

「そう、ですわね………私が体験したわけではありませんが、友人ならと仲良くした人物にストーカーされたメイドがいたのを考えると、容易に仲良くなるのはよくありませんわね」

「うげ、そんな事あったのかよ……優しさが仇になった典型的な例だな」

友人としてならと仲良くした結果、友人がストーカーに大変身。

その話を聞き、イシュドはもしイブキにそんな粘着質な面倒野郎が付き纏ったら……と考えたが、その先をどうイメージしても、粘着質野郎が綺麗に両断される未来しか見えなかった。

「まっ、そういう事だからまずは友達から距離を縮めようとしても、ぶっちゃけ最終目標にまで行き着くのが難しいんじゃねぇかって話だ」

「……理屈は分かりましたわ。けれど、恋愛をする……目標に手を伸ばそうとするのであれば、それ相応の努力をしなければならない。常識ではなくて?」

「そりゃお前が珍しく真っ当な貴族だからだろ。この学園に在籍してるってのを考えれば、全く努力してこなかったとは思わねぇけど、泥臭くても構わないって思いながら前を向いて歩いてきた訳じゃねぇだろ? 多少甘やかされて育ってきた部分とかを考えりゃ、叶うかも解らねぇ目標に関してそんなにマジになれるか?」

「叶うかも解らない目標というのは、全ての事に言えるのではなくて?」

「…………例えが悪かったな。イブキが留学してきてから、多くの野郎たちが気になる視線をイブキに向けてた。そう……イブキにな」

「……っ、そういう事、ですか」

「俺の言いたい事が伝わってなによりだ」

騎士になりたい、商人になりたい、鍛冶師になり、錬金術師になりたい……努力は必要だが、席に限りがある訳ではない。

しかし、恋愛的な意味でイブキの隣というのは、一席しかない。

「俺はあの令息がいきなり……デートに誘ったに金貨一枚」

「んじゃ、俺はいきなり告白したに金貨一枚だ」

「あ、あなた達。人の恋愛をなんだと思ってるのかしら」

「負けるのが怖いなら、別に賭けなくて良いぜ」

「っ!!!!!」

相変わらずイシュドには煽られ弱く、結局ミシェラも賭けに乗ってしまった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

処理中です...