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第72話 裏切るな、誇れ

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「初のお茶会はどうだった、お二人さん」

三人の令嬢たちとの茶会が終了した後、イシュドは普段通りの顔をしていたが……ガルフの顔にはやや疲れの色が濃く浮かんでいた。

「俺はなんつ~か……向こうが普通に接してくれると、特に疲れねぇな~ってのが感想?」

「色気もクソもない感想だな。んじゃ、ガルフはどうだったよ」

「どうだったって言われても、正直疲れた……かな」

「異性との会話が疲れったってことか?」

「いや、そうじゃなくて……彼女たちって、貴族の令嬢でしょ」

ガルフはそもそも根本的な問題で強い疲れを感じていた。

「……もしかしてガルフ、今更それに緊張してたのか?」

「緊張するに決まってるじゃん、イシュド。僕は平民だよ」

「いやいや、それは解ってるぞ。でも、お前がいつも話してるデカパイだって
一応貴族の令嬢だぜ」

一応どころではなく、立派な侯爵家の令嬢である。

「それはそうなんだけどさ、ミシェラさんと話すのはもう結構慣れてきたから……あまり緊張はしないんだよ」

「友人ぐらいの相手になってくると、緊張しなくなるんだな。まぁ友人相手に緊張するってのは変な話だしな……んでよ、良い子はいたんか?」

「へ?」

「へ、じゃねぇよ。お茶会ってのは、そういう場でもある……んだよな? フィリップ」

「そうだな。その場で婚約云々、結婚云々を決めることはねぇけど、切っ掛けを作る場ではある。あの中にガルフが気になる様な子がいれば、これから交流を重ねてって道は十分にあるんじゃねぇのかな」

「……けど、僕平民だよ」

二人にはあまり解らない平民だからこその劣等感、コンプレックス。

フィリップにはあまり理解出来ない感情だが……前世では一般ピーポーな学生であったイシュドには、何となく解かる部分があった。

「そう思っちまうのが、普通なのかもな。けどな、ガルフ。自分がこれまでどんな功績を積み上げてきたか思い返してみろよ」

「こ、功績?」

「そうだ。平民出身の身でありながら、校内戦で全戦全勝を果たした。三戦や四戦程度の話じゃねぇ。十戦以上も貴族の令息や令嬢を相手に勝ちまくってきたんだ」

いずれ平民が激闘祭に参加する。

それは学園のトップたちの間でも、予想されていた未来。
しかし……学園に入学して数か月しか経っていない平民が出場出来るとは全く予想していなかった。

「そんで激闘祭では第一試合、第二試合で戦った令息、令嬢をぶちのめした。第三試合では、あのクソ生意気面の令息を相手にダブルノックアウトまで持っていった…………ガルフ、これが他の令息や令嬢たちでも出来ると思うか?」

純粋な励まし……ではなかった。

ガルフはあの激闘祭で、ベスト八に入った猛者。
誰がどう見ても、ガルフが運だけで三回戦まで上り詰めたラッキーボーイとは言えない。
仮にそう思う、呼ぶ者がいれば……そいつはただちっぽけな存在である自分を認めたくない愚か者である。

「っ……出来ない、と思う」

「そうだろ」

自分以外の者であっても出来る。
その言葉を口にしてしまえば、それはこれまで努力を重ね続け、イシュドとの訓練や実戦を乗り越えてきた自分に対する裏切りにもなる。

「貴族の令息や令嬢であっても達成できない。そんな功績を、お前は掴み取ったんだ。平民であることに対して感じる部分があるのは仕方ねぇかもしれないが、お前はもうちょいこれまでの自分を、立派な功績を掴み取った自分を誇っても良いと……俺は思う」

「………………っ」

「おいおいガルフ~~~~。あれだぜ、自分はイシュドと出会えたからって思うのはナンセンスってやつだぜ」

「っ、フィリップ……」

口に出そうとしていた言葉を先に言われてしまい、戸惑うガルフ。

「そういうのを言っちゃあ~~、そもそも貴族の子供として生まれてきた俺たちの方が有利っつ~か、恵まれてるよな~~~って話だ」

フィリップの言葉通り、貴族の子供として生まれてきた。
どういった家庭内事情を持つ家なのかはさておき、貴族の家に生まれれば……基本的に飢え死ぬことはない。

基本的に家には教育係がいるため、学ぶ環境に苦労することはない。

「ガルフ、お前がイシュドと出会えたのは、運が良かった」

「う、運?」

「そうだ、運だ。人間、誰しもそこだけは中々コントロール出来ない要素。ある意味、人生の楽しみってやつのかもな。お前はその運で……イシュドとの出会いを手に入れた。運も実力の内って言葉もあるんだし、これ以上変に考える必要はねぇだろ」

「…………」

運が良い。
その言葉に対し、思い当たる節があった。

ガルフは第三試合、ディムナ・カイスとの試合で闘気を会得。
そしてイシュドが言うには最後の最後……更に先の力を発動した。

それらの現象を改めて振り返ると、自分は確かに運が良いと思えたガルフ。

「そうだな……あまり、自信がないのも嫌味になるもんね」

「ふふ、そういこった!!!! んで、ガルフぅ~~~、どの子が気に入ったんだぁ~~」

先日のフィリップと同じく、親父臭い顔になりながらガルフに絡むイシュド。

「そうだぜガルフぅ~~~。さっきのお茶会のメインは、ぶっちゃけお前だったんだからよぉ~~~。誰が気に入ったのか、きっちり聞かせてもらうぜ~~~」

公爵家の令息と辺境伯の令息がおまけというのはおかしな話だが、実際のところお茶会のメインは間違いなくイシュドだった。

話の内容に関してはイシュドの会話内容のインパクトが強かったが、誘った令嬢たちはとにかくイシュドやガルフは当たり前として、ガルフの機嫌を損ねてしまわないように気を付けていた。

「い、いや。その……い、いきなり感想を求められてもぉ……」

友人たちとの会話で色々と認識を改めることは出来た。
ただ、それはそれとしてお茶会の間、イシュドやフィリップと違って常に緊張感を感じていた。

「割と顔のタイプは揃ってだろ。可愛い系、綺麗系、清楚な美人系……誰がタイプだったんだぁ~~?」

二人は婚約者に選ぶなら誰だと聞いてる訳ではない。
ただどの令嬢が好みだった聞いてるだけなのだが……男としての童貞を捨てても、まだ初心なガルフは直ぐに答えられなかった。

「えっと……せ、清楚そうな子? が良かった、かな」

「ほぉ~~~~、なるほどなるほどねぇ……んじゃ、次店に行ったらそういう人を選べ」

「っ!!!!???? ど、どうしてそういう話になるのさ」

「もっとスムーズに話せるようになっておきたいだろ~~。何事も練習あるのみだ」

数日後、結局イシュドのお節介によって、三人は再び夜の街に繰り出すことになった。
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