上 下
69 / 246

第69話 ちょっと何言ってるか解らない

しおりを挟む
「簡単に言っちまえば、今お前は婿候補として狙われてるんだよ」

「……僕、平民なんだけど」

「俺たちに声を掛けて来た令嬢は、多分準男爵とか男爵……子爵らへんの令嬢だろ。長女でなければ、平民と結婚するケースは……ゼロじゃないんじゃねえの?」

イシュドの言葉に、フィリップが同意するように頷く。

「イシュドから話を聞いたけど、大活躍したんだろ。それも一回戦でじゃなくて、三回戦で。もう今一番の注目株って言っても過言じゃねぇんじゃないか」

「フィリップの言うとりだぜ、ガルフ。お前が昨日、最後に戦った生徒……あのクソ生意気面の奴、強かったろ」

「うん、本当に強かった。ダブルノックアウトまで持っていけたのは、正直運が良かったからだと思ってる」

令嬢に自分が狙われている。
それに関してはまだいまいち理解していないガルフだが、第三試合で戦った対戦相手、ディムナ・カイスが強かったことに関しては即答出来た。

「運が絡んだとはいえ、そんな強ぇ奴に勝ったんだ。注目されるのは当然……それは解るだろ」

鈍いところがあるガルフだが、それは解らなくもなかった。

「んで、どうするんだ?」

「え、えっと……お、お茶会の事?」

「おぅ。俺はぶっちゃけ興味ない」

「同じく~~」

イシュドとフィリップ、共に令嬢とのお茶会など興味はない。

令嬢と茶を飲むぐらいなら、夜の街でお姉さん達と酒を呑む方がよっぽど楽しい。

「だから、お前がどうしたいか次第だ」

「ど、どうしたいかって言われても……わ、解んないよ」

(……そういえば、ガルフって村出身の平民だったか?)

何を思ったのかイシュドは学園内で、人気のない場所に移動してから話を再開。

「なぁ、ガルフ。お前って童貞か?」

「っ!!!!!????? い、いや……っ……そ、そりゃあ……今まで、彼女とか、いなかったし」

「そっか。まっ、しゃあないよな~~~。街じゃねぇと、歓楽街とかねぇしな」

「ふ、二人は童貞じゃないん、だよな」

「俺は良い歳になったら、父さんからどの人で卒業したいんだって聞かれ、より取り見取りなメイドたちの中から自分で選んだ」

「あっ、俺も似たような感じ」

「…………」

ガルフは二人が何を言ってるのか、ちょっと良く解らなかった。

「つっても、今考えると男としての童貞を捨てる前に戦闘者としての童貞を捨ててたってのは笑ったな~~」

「俺も似た様な感じだったな」

「…………」

話の次元が違うと感じた。
というより、何故いきなり童貞が否かの話になったのかが疑問である。

「っと、まぁあれだよガルフ。俺が何を言いたいかっていうとだな。恋愛云々でもじもじしたり、自信がないなら、先に童貞を捨てちまったらどうだって話だ」

「……そ、それは、さ。その……ど、どうなの?」

ガルフの常識としては、恋愛を経験してからそういう行為が行われる。

なので、今友人が提案してくれた内容は、非常識な内容であるのだ。

「どうって、別にそんな気にすることとかねぇと思うぞ。仮にガルフがしっかり恋愛してさぁ本番ですってなった時、不手際が原因で振られたとか嫌だろ」

「それは嫌だけど……えっ、そんなフラれ方も、あるの?」

「あるらしいぞ。うちの平民出身の騎士から聞いた話だし、嘘じゃねぇと思うぞ」

このイシュドが平民出身の騎士から聞いた話は、決して盛られた話ではなかった。

(つっても、前世ではお店とかで卒業した場合……素人童貞、って言うんだったか?)

素人童貞だと何か不都合があるのかと考えるが…………そこまで人生経験が豊富でもないイシュドは特に思い浮かばなかった。

「どうせなら、ささっと卒業しちまうか?」

「そ、卒業って……」

「ガルフ~~~~、そんなに難しく考えなくて大丈夫だってぇ~~~。本当に好きな人とやる為の予行練習みたいなもんって思え」

顔が非常に親父臭くなるフィリップ。

ガルフの中では相変わらず好きな人とそういう事をするもの、といった考えだが……そもそも歳頃の男子学生。
そういう行為自体に興味はあった。

「フィリップの言う通りだと思うぜ。ガルフはそもそも、これまで女と接する機会が少なかったろ」

「そう、だね」

ガルフの周囲に女性がいなかったわけではないが、そもそも騎士になることに憧れていたガルフは……その時点で積極的に関わろうという気持ちがなく、喋る機会も多くなかった。

「そういう意味でも、そういった店で女と……まっ、店だと女性か。喋ればそれだけで耐性が付くってもんだ。これから、お前を狙ってハニートラップを仕掛けてくるやつも現れるかもしれねぇ」

「それはさすがに、ないんじゃないかな?」

「…………自分じゃあ、解らねぇもんか」

本人が謙虚過ぎるのではない。
ただ、自覚していない。

(闘気を会得している騎士は、珍しくはない。個人の才能、センス……それらを前提として、たゆまぬ鍛錬が必要。ただ……そっから先ってなると、何かしらの切っ掛けがねぇと会得出来ないって聞くからなぁ…………VIPルームで観戦してた連中なら、気付いてる奴は既に気付てんだろうな)

やはり、ある程度のところまでは自分が守らなければならないと思ったイシュド。

「んで、どうするんだ? 良い店に行けば、ちゃんとした人が相手してくれると思うぞ」

「っ……で、でも僕お金ないし」

これまでモンスターを討伐して手に入れた金額を考えれば、夜の街で多少散財しても問題はない。

ただ、平民出身のガルフからすれば、もしもの為にしっかり貯金しておきたい。

「ば~~~か。んな金、俺が出してやるに決まってんだろ」

「えっ!!?? い、いや。さすがにそれは悪いよ」

「気にすんな気にすんな。金なんて、溜めてるだけだと意味がねぇ。使う時に使うべきもんなんだよ」

「で、でもぉ……」

「んじゃ、稼げるようになった俺に美味い飯でも奢ってくれ。そんでちゃらだ」

「決定か。んじゃ、晩飯食い終わったら出発だな」

決定してしまった。


夕食を食べ終えた後、三人は変装用のマジックアイテムを使い、普段着で外出。
青年……とはいえ、学生三人で夜の街に外出するのは危険ではあるが、一人は亜神の玄孫。

小さな怪獣であるため、酔っ払いに喧嘩を売られようとも、身ぐるみ剥がされる心配は一切なかった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

処理中です...