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第67話 食えば治る?
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「貴族は貴族以外の人間を見下す傾向が強い。例外は……力を持つ商人と王族ぐらいか? 言っとくが……これに関して嘘を付いてみろ…………殺すぞ」
「「「「「「「「「「ッ!!!!!」」」」」」」」」」
無差別の重圧。
唯一、友や知人だけには向けられてはいなかったが、彼等だけには向けまいとギリギリコントロールした結果、ディムナ含む多くの生徒たちの両肩に重石が乗り……何人かはそのまま地面に膝を付いてしまった。
「イシュド」
「解ってるって、フィリップ」
重圧は直ぐに解かれた。
しかし、この重圧に関して、イシュドは彼等を明確に攻撃するつもりはなかった。
ただ言葉を発する本人であるからこそ知っているだけ。
自分のそういった類の言葉には、言霊と言えるかもしれない力が宿っていると。
「ディムナ・カイス。ガルフにとって、お前の実家なんざ悪魔の巣窟と変わりねぇ。お前の親父さんがガルフが養子になることを認めたとして、他の連中が心の底から納得するか? するわけねぇだろ」
カイス家の人間ではない者が断言した。
だが、これに関してディムナの表情が歪むことはなかった。
「………そうだな」
「解ってんなら、さっさと諦めろ。つか、貴族になるってなら、別にどっかの家の養子にならなくても良いだろ。ガルフがその道に進むのかは知らないがな」
「……なるほど。そういう道も、あるか」
イシュドが何を言いたいのか直ぐに把握したディムナは……それを否定することはなく、可能性はあると考えた。
「邪魔したな」
伝えたいことを伝え、目的達成が無理だと判断したディムナは直ぐに別の場所へと移った。
「あの男が、平民であるガルフも自身の家の養子に誘うとはな…………学年は違うが、俺も大舞台で戦ってみたかったものだ」
「私としても、今目の前で起こった出来事は非常に驚きでしたね」
「同じくっすね~~~~。んで、ガルフ。どうすんだよ」
「え、いや……ど、どどどどうするって言われても……わ、解らないよ」
衝撃過ぎる出来事であったため、まだ上手く脳が処理出来ていなかった。
「い、イシュド……」
「さっきも言ったが、どっかの養子になったとしても、碌な事にはならねぇ。逆境でこそ壁を乗り越える力ってのは、強くなる為には必要な要素だとは思うが、わざわざ何の為にもならねぇ地獄に向かう必要はねぇ……少なくとも、俺はそう思う」
そもそもな話、ガルフは両親が既に亡くなっている孤児ではない。
二人は仮に侯爵家から大金を渡されたところで我が子を売るゲスでもないので、イシュドはここでディムナが引いてくれたことに安心していた。
(喧嘩になったところで負けることはねぇけど、家を潰したってなればなぁ……)
気に入らない奴はぶっ潰すのが信条であるイシュドだが、内乱は良くないよね~~~という常識は持ち合わせていた。
「…………なんか、ちょっと頭痛くなってきた」
「美味い飯食ったら治るぞ」
「うん、そうだね」
全くもって治る話ではないのだが、一旦面倒な事は全て忘れたいと思ったガルフはイシュドに負けず劣らずのペースでパーティーの料理を食べていった。
どれだけ予想外の出来事に頭を悩ませても、一流シェフが作った料理が美味いという事実は変わらない。
その日、ガルフは満腹になるまで高級料理を食べ続け……腹十分目を越えてしまい、イシュドに担がれながら寮に戻ることになった。
「んで、なんの用っすか、バイロン先生」
ガルフを寮部屋まで届けた後、イシュドはバイロンに呼ばれて教員寮を訪れていた。
当然、二人の部屋にはイシュドが学園に来る前に購入していた結界のマジックアイテムを発動しているため、バカが暴走したところで無意味に終わる。
「まぁ座れ」
バイロンの自室に案内されたイシュド。
バイロンは一つのワインを取り出し、グラスに注いでいく。
「とりあえず、乾杯といこう」
「良いんすか? 教師が生徒と呑んで」
「今は勤務時間外だ」
「それじゃ、遠慮なく」
軽くグラスを合わせ、するっと赤ワインを一口。
「……これ、絶対にそこら辺の赤ワインじゃないっすよね」
「解るのだな」
「十四ぐらいからちょいちょい呑んでたんで」
この世界には、何歳からでなければアルコールを含む飲料を吞んではいけない、といった法律はない。
だが、十四というのは……少々早くはあった。
「既に吞みなれているという訳か」
「次男のダンテ兄さん好きなんですよ。夜、偶に誘われて呑みながら色々と話してたんで……それで、何か用があってこんなワインまで出してくれたんですよね」
「ワインはただの祝いだ。用があるのは、お前がガルフをどうするのか、だ」
「…………もしかして、あれがもう耳に入ってるんですか?」
「そうだ。正直なところ、話を聞いたときは自分の耳を疑ったがな」
ディムナ・カイスはフラベルト学園の生徒ではない。
詳しくは知らないが、それでも同じ貴族界隈の中にいる人間であれば、それなりに情報は入ってくる。
「俺もクソびっくりしたっすよ。あれだけガルフを見下してたくせに、どの面で言ってんだって」
「どんな面だった」
「思いっきりぶん殴りたくなるくらい完成された面でしたね」
「……ふふ、イシュドも他人のそういったところに嫉妬するのだな」
「そりゃ年頃の男子生徒なんで…………まだあそこで見下してたなら、労う場であっても殴ってたっすけどね」
嘘でも冗談でもなく、百パーセント本気である。
(仮にそうなっていれば、即座に騎士とイシュドの戦いが起こり……全騎士が、潰されたか?)
その場にいる生徒たちでは歯が立たない。
現役の騎士たちであっても、そもそも三次職に就いていなければ勝ち目はゼロである。
「その場では、断ったのだろ」
「断ったというか、俺がクソ生意気面に現実をもうちょい考えろって伝えたんですよ。クソ生意気でも、そこら辺を考えられる頭はあったんでしょうね。普通に引いてくれましたよ」
「……止めたのではなく、ディムナに現実を教えたのだな。私は、お前なら無理矢理にでも間に入って止めると思っていたが」
「それが良いかなって思いはありましたよ。でも、俺があいつの考えを縛って、こっちの道に進めって強制するのは違う。そんな関係は……ダチとは言えないでしょ。俺が出来るのは、ただ現実とかを教えることだけですよ」
「そうか…………良い判断だ」
教員だからこそ、バイロンは知っている。
(変革の狂戦士、か……まさにそれを体現した男だな)
教師という立場から見て、間違いなく問題児に分類される存在ではあったが……こうして一人の人間同士として話すと、この上なく面白い人物だと感じた。
「「「「「「「「「「ッ!!!!!」」」」」」」」」」
無差別の重圧。
唯一、友や知人だけには向けられてはいなかったが、彼等だけには向けまいとギリギリコントロールした結果、ディムナ含む多くの生徒たちの両肩に重石が乗り……何人かはそのまま地面に膝を付いてしまった。
「イシュド」
「解ってるって、フィリップ」
重圧は直ぐに解かれた。
しかし、この重圧に関して、イシュドは彼等を明確に攻撃するつもりはなかった。
ただ言葉を発する本人であるからこそ知っているだけ。
自分のそういった類の言葉には、言霊と言えるかもしれない力が宿っていると。
「ディムナ・カイス。ガルフにとって、お前の実家なんざ悪魔の巣窟と変わりねぇ。お前の親父さんがガルフが養子になることを認めたとして、他の連中が心の底から納得するか? するわけねぇだろ」
カイス家の人間ではない者が断言した。
だが、これに関してディムナの表情が歪むことはなかった。
「………そうだな」
「解ってんなら、さっさと諦めろ。つか、貴族になるってなら、別にどっかの家の養子にならなくても良いだろ。ガルフがその道に進むのかは知らないがな」
「……なるほど。そういう道も、あるか」
イシュドが何を言いたいのか直ぐに把握したディムナは……それを否定することはなく、可能性はあると考えた。
「邪魔したな」
伝えたいことを伝え、目的達成が無理だと判断したディムナは直ぐに別の場所へと移った。
「あの男が、平民であるガルフも自身の家の養子に誘うとはな…………学年は違うが、俺も大舞台で戦ってみたかったものだ」
「私としても、今目の前で起こった出来事は非常に驚きでしたね」
「同じくっすね~~~~。んで、ガルフ。どうすんだよ」
「え、いや……ど、どどどどうするって言われても……わ、解らないよ」
衝撃過ぎる出来事であったため、まだ上手く脳が処理出来ていなかった。
「い、イシュド……」
「さっきも言ったが、どっかの養子になったとしても、碌な事にはならねぇ。逆境でこそ壁を乗り越える力ってのは、強くなる為には必要な要素だとは思うが、わざわざ何の為にもならねぇ地獄に向かう必要はねぇ……少なくとも、俺はそう思う」
そもそもな話、ガルフは両親が既に亡くなっている孤児ではない。
二人は仮に侯爵家から大金を渡されたところで我が子を売るゲスでもないので、イシュドはここでディムナが引いてくれたことに安心していた。
(喧嘩になったところで負けることはねぇけど、家を潰したってなればなぁ……)
気に入らない奴はぶっ潰すのが信条であるイシュドだが、内乱は良くないよね~~~という常識は持ち合わせていた。
「…………なんか、ちょっと頭痛くなってきた」
「美味い飯食ったら治るぞ」
「うん、そうだね」
全くもって治る話ではないのだが、一旦面倒な事は全て忘れたいと思ったガルフはイシュドに負けず劣らずのペースでパーティーの料理を食べていった。
どれだけ予想外の出来事に頭を悩ませても、一流シェフが作った料理が美味いという事実は変わらない。
その日、ガルフは満腹になるまで高級料理を食べ続け……腹十分目を越えてしまい、イシュドに担がれながら寮に戻ることになった。
「んで、なんの用っすか、バイロン先生」
ガルフを寮部屋まで届けた後、イシュドはバイロンに呼ばれて教員寮を訪れていた。
当然、二人の部屋にはイシュドが学園に来る前に購入していた結界のマジックアイテムを発動しているため、バカが暴走したところで無意味に終わる。
「まぁ座れ」
バイロンの自室に案内されたイシュド。
バイロンは一つのワインを取り出し、グラスに注いでいく。
「とりあえず、乾杯といこう」
「良いんすか? 教師が生徒と呑んで」
「今は勤務時間外だ」
「それじゃ、遠慮なく」
軽くグラスを合わせ、するっと赤ワインを一口。
「……これ、絶対にそこら辺の赤ワインじゃないっすよね」
「解るのだな」
「十四ぐらいからちょいちょい呑んでたんで」
この世界には、何歳からでなければアルコールを含む飲料を吞んではいけない、といった法律はない。
だが、十四というのは……少々早くはあった。
「既に吞みなれているという訳か」
「次男のダンテ兄さん好きなんですよ。夜、偶に誘われて呑みながら色々と話してたんで……それで、何か用があってこんなワインまで出してくれたんですよね」
「ワインはただの祝いだ。用があるのは、お前がガルフをどうするのか、だ」
「…………もしかして、あれがもう耳に入ってるんですか?」
「そうだ。正直なところ、話を聞いたときは自分の耳を疑ったがな」
ディムナ・カイスはフラベルト学園の生徒ではない。
詳しくは知らないが、それでも同じ貴族界隈の中にいる人間であれば、それなりに情報は入ってくる。
「俺もクソびっくりしたっすよ。あれだけガルフを見下してたくせに、どの面で言ってんだって」
「どんな面だった」
「思いっきりぶん殴りたくなるくらい完成された面でしたね」
「……ふふ、イシュドも他人のそういったところに嫉妬するのだな」
「そりゃ年頃の男子生徒なんで…………まだあそこで見下してたなら、労う場であっても殴ってたっすけどね」
嘘でも冗談でもなく、百パーセント本気である。
(仮にそうなっていれば、即座に騎士とイシュドの戦いが起こり……全騎士が、潰されたか?)
その場にいる生徒たちでは歯が立たない。
現役の騎士たちであっても、そもそも三次職に就いていなければ勝ち目はゼロである。
「その場では、断ったのだろ」
「断ったというか、俺がクソ生意気面に現実をもうちょい考えろって伝えたんですよ。クソ生意気でも、そこら辺を考えられる頭はあったんでしょうね。普通に引いてくれましたよ」
「……止めたのではなく、ディムナに現実を教えたのだな。私は、お前なら無理矢理にでも間に入って止めると思っていたが」
「それが良いかなって思いはありましたよ。でも、俺があいつの考えを縛って、こっちの道に進めって強制するのは違う。そんな関係は……ダチとは言えないでしょ。俺が出来るのは、ただ現実とかを教えることだけですよ」
「そうか…………良い判断だ」
教員だからこそ、バイロンは知っている。
(変革の狂戦士、か……まさにそれを体現した男だな)
教師という立場から見て、間違いなく問題児に分類される存在ではあったが……こうして一人の人間同士として話すと、この上なく面白い人物だと感じた。
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