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第61話 心情は理解出来ない
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「「「「「「「「「「っ!!!!????」」」」」」」」」」
今日一番の衝撃音が闘技場中に響き渡った。
三種の属性が合わさった一撃と狂戦士の拳が激突し、煙が巻き起こる。
幸いにも既にイシュドが登場時に壊していた結界は元通りになっており、観客席に被害が出ることはなかった。
ただ、もし自分たち方に衝撃が来ていたらと思うと……震えが止まらない。
クリスティールたちが放った一撃とイシュドの拳の威力、そしてそれらがぶつかり合った衝撃音……同じ戦闘者であっても、思わずぶるりと震えてしまう光景であった。
「煙が、晴れるぞ……」
観客の一人が呟いた通り、徐々に煙が晴れていく。
まず……クリスティール、ダスティン、フィリップの三人が無事であることが確認された。
放たれた岩斧は粉々に砕け散り、その破片が彼らに襲い掛かりはしたが、魔力を纏っていたお陰でなんとか耐え切れた。
「はっはっはッ!!!!!! お前ら、最高過ぎるぜ!!!!!!!!」
「「「「「「「「「「っ!!!!!?????」」」」」」」」」」
突然の笑い声。
その声には一切の疲れがなく、もしや無傷なのではと観客たちやクリスティールたちが疑うのも無理はなかった。
しかし、それでも各学年のトップたちの力を集結させた一撃。
イシュドが力をセーブしながら戦っていたこともあり、三人のトップが力を合わせた一撃に向けて放たれた拳は砕け、この試合の間は完全に使い物にならなくなっていた。
だが、そこはやはり狂戦士。
特徴として、まだこの世界には脳内麻薬、エンドルフィンという言葉などは生まれていないが、気分高揚によってそれらが体内で発生した時、狂戦士という職に就いている者たちは完全に痛みを感じなくなってしまう。
「いやぁ~~、こりゃ殴ったり貫手で突いたり出来ねぇな。まっ、そんでも両足はまだまだ全然動くし、左手は無事なんだし問題ねぇか。んじゃ、第二ラウンドといこうかっ!!!!!!!」
絶句である。
右手の骨が完全に砕かれ、使い物にならなくなったにもかかわらず、まだ戦おうとする。
多くの一般客たちは、その光景が色々と理解出来なかった。
全身に大ダメージを負いながらも、リングに戻る為に必死で体を起こそうとする……とかであれば解る。心情的にも理解出来る。
しかし、現在リングに立つ狂戦士は右手が使い物にならなくなった。
明白に手数が減ったであるにもかかわらず、まだ戦おうとしている。
そんな理解不能過ぎる存在を……戦闘者である冒険者や騎士等の観客たちは、やはりこういうタイプだったか、といった顔を浮かべていた。
モンスターや盗賊といった存在と戦う際、怪我なんか気にしてられない、何が何でも勝つ……もしくは生き残る。
そういった体験を乗り越えて今この場にいる者としては、まだイシュドが戦おうしている…………その理屈は解る。
ただ、心情までは理解出来ない。
(……ここまでですね)
一瞬だけ諦めに近い表情を浮かべると、クリスティールはフィリップとダスティンの襟を掴んだ。
「おわっ!!??」
「ぬわっ!!??」
そして審判がいる方向へと投げ飛ばした。
「彼等はもう動けません。リングの下におろしてください」
「な、何を言うか!!! 俺はまだ戦えっ!!??」
即座に立ち上がろうとするダスティンであったが、膝を付いてしまい、上手く起き上がれない。
「っ……おっけ~~~。んじゃ、会長さん、後はよろしくっす」
「フィリップ!!!」
「いやいやいや、もう無理だってダスティンぱい先。動けたとしても、立ってるのがやっとっしょ。無理に戦おうとしたところで、撫でられて終わりっすよ」
フィリップは先輩のお言葉に甘え、ゆっくりとリングから降りた。
「ほらほら、邪魔になっちゃうっすよ」
「ぐっ…………致、し方なしか」
まだ戦える者の足を引っ張る。
それだけは絶対にしてはならない愚行だと認め、ダスティンもゆっくりとリングから降りた。
「へっへっへ、流石会長さんだな。ここまで見極められてたってことか」
「あの一撃のメインはダスティンさんでしたからね」
イシュドが誰よりも普通ではないと把握していたからこそ、クリスティールは先程の一撃を放つ際、決して手は抜いていないが、それでも攻撃後……まだ動けるように消費する魔力の量を完璧に調整していた。
「片腕が使えなくなったからといって、あなたが私よりも格上であることは間違いありません。ですので……殺るつもりでいかせてもらいます」
「……やっぱ、トップに立つ人はそうでなくちゃな」
クリスティールの姿勢に敬意を感じたのか……イシュドは王都を訪れた際に購入した短剣を取り出し、左手で持って構えた。
「最後まで、本気で来てくださいよ」
「えぇ、勿論です」
最後は同じ学園の生徒会長と一年生の一騎打ちとなった特別試合。
元々超短期決戦を想定してクリスティールが動いたこともあり、第二ラウンドは一分とかからず終わったが……試合終了後、両者の顔に非常に満足気な笑みが浮かんでいた。
「だっはっは!!!! いやぁ~~~~、バチクソ楽しかったぜ!!!!」
「ふんっ!」
「おわっ!!!??? 何すんすかバイロン先生! 一応怪我人っすよ!!」
「拳が砕けたにもかかわらず悲鳴の一つ上げるどころか、顔に苦痛の色を浮かべなかった奴が怪我人だと? 寝言は寝てから言うんだな」
治療室に向かう途中、ガルフたちが駆け付け……一緒に観戦していたバイロンから拳骨が飛んでくるも、良い戦いが出来てまだ集中力がびんびん状態のイシュドはあっさりと躱した。
「い、イシュド、その右手……だ、大丈夫なの?」
「おぅ、大丈夫大丈夫。マジで大丈夫だからそんな顔すんなって。実家で戦ってりゃあ、骨が砕けるとかしょっちゅうあったしな!!!!」
あっはっは!!! と右手が砕けたことに関して笑い飛ばすイシュドであるが、ガルフたちからすれば、あまりにも非日常過ぎる出来事であるため、若干引いていた。
「全く……あんな登場の仕方をする必要はなかったであろう」
「結界を破壊したあれっすか? パフォーマンスじゃないですか、パフォーマンス。あれだけでも俺が、俺の実家が普通じゃないって解ってくれるでしょ」
何故レグラ家の令息であるイシュドが学園に入学したのか……事情を多少知っているバイロンにとって解らなくもないが……それでも彼の表情から渋さが消えることはなかった。
今日一番の衝撃音が闘技場中に響き渡った。
三種の属性が合わさった一撃と狂戦士の拳が激突し、煙が巻き起こる。
幸いにも既にイシュドが登場時に壊していた結界は元通りになっており、観客席に被害が出ることはなかった。
ただ、もし自分たち方に衝撃が来ていたらと思うと……震えが止まらない。
クリスティールたちが放った一撃とイシュドの拳の威力、そしてそれらがぶつかり合った衝撃音……同じ戦闘者であっても、思わずぶるりと震えてしまう光景であった。
「煙が、晴れるぞ……」
観客の一人が呟いた通り、徐々に煙が晴れていく。
まず……クリスティール、ダスティン、フィリップの三人が無事であることが確認された。
放たれた岩斧は粉々に砕け散り、その破片が彼らに襲い掛かりはしたが、魔力を纏っていたお陰でなんとか耐え切れた。
「はっはっはッ!!!!!! お前ら、最高過ぎるぜ!!!!!!!!」
「「「「「「「「「「っ!!!!!?????」」」」」」」」」」
突然の笑い声。
その声には一切の疲れがなく、もしや無傷なのではと観客たちやクリスティールたちが疑うのも無理はなかった。
しかし、それでも各学年のトップたちの力を集結させた一撃。
イシュドが力をセーブしながら戦っていたこともあり、三人のトップが力を合わせた一撃に向けて放たれた拳は砕け、この試合の間は完全に使い物にならなくなっていた。
だが、そこはやはり狂戦士。
特徴として、まだこの世界には脳内麻薬、エンドルフィンという言葉などは生まれていないが、気分高揚によってそれらが体内で発生した時、狂戦士という職に就いている者たちは完全に痛みを感じなくなってしまう。
「いやぁ~~、こりゃ殴ったり貫手で突いたり出来ねぇな。まっ、そんでも両足はまだまだ全然動くし、左手は無事なんだし問題ねぇか。んじゃ、第二ラウンドといこうかっ!!!!!!!」
絶句である。
右手の骨が完全に砕かれ、使い物にならなくなったにもかかわらず、まだ戦おうとする。
多くの一般客たちは、その光景が色々と理解出来なかった。
全身に大ダメージを負いながらも、リングに戻る為に必死で体を起こそうとする……とかであれば解る。心情的にも理解出来る。
しかし、現在リングに立つ狂戦士は右手が使い物にならなくなった。
明白に手数が減ったであるにもかかわらず、まだ戦おうとしている。
そんな理解不能過ぎる存在を……戦闘者である冒険者や騎士等の観客たちは、やはりこういうタイプだったか、といった顔を浮かべていた。
モンスターや盗賊といった存在と戦う際、怪我なんか気にしてられない、何が何でも勝つ……もしくは生き残る。
そういった体験を乗り越えて今この場にいる者としては、まだイシュドが戦おうしている…………その理屈は解る。
ただ、心情までは理解出来ない。
(……ここまでですね)
一瞬だけ諦めに近い表情を浮かべると、クリスティールはフィリップとダスティンの襟を掴んだ。
「おわっ!!??」
「ぬわっ!!??」
そして審判がいる方向へと投げ飛ばした。
「彼等はもう動けません。リングの下におろしてください」
「な、何を言うか!!! 俺はまだ戦えっ!!??」
即座に立ち上がろうとするダスティンであったが、膝を付いてしまい、上手く起き上がれない。
「っ……おっけ~~~。んじゃ、会長さん、後はよろしくっす」
「フィリップ!!!」
「いやいやいや、もう無理だってダスティンぱい先。動けたとしても、立ってるのがやっとっしょ。無理に戦おうとしたところで、撫でられて終わりっすよ」
フィリップは先輩のお言葉に甘え、ゆっくりとリングから降りた。
「ほらほら、邪魔になっちゃうっすよ」
「ぐっ…………致、し方なしか」
まだ戦える者の足を引っ張る。
それだけは絶対にしてはならない愚行だと認め、ダスティンもゆっくりとリングから降りた。
「へっへっへ、流石会長さんだな。ここまで見極められてたってことか」
「あの一撃のメインはダスティンさんでしたからね」
イシュドが誰よりも普通ではないと把握していたからこそ、クリスティールは先程の一撃を放つ際、決して手は抜いていないが、それでも攻撃後……まだ動けるように消費する魔力の量を完璧に調整していた。
「片腕が使えなくなったからといって、あなたが私よりも格上であることは間違いありません。ですので……殺るつもりでいかせてもらいます」
「……やっぱ、トップに立つ人はそうでなくちゃな」
クリスティールの姿勢に敬意を感じたのか……イシュドは王都を訪れた際に購入した短剣を取り出し、左手で持って構えた。
「最後まで、本気で来てくださいよ」
「えぇ、勿論です」
最後は同じ学園の生徒会長と一年生の一騎打ちとなった特別試合。
元々超短期決戦を想定してクリスティールが動いたこともあり、第二ラウンドは一分とかからず終わったが……試合終了後、両者の顔に非常に満足気な笑みが浮かんでいた。
「だっはっは!!!! いやぁ~~~~、バチクソ楽しかったぜ!!!!」
「ふんっ!」
「おわっ!!!??? 何すんすかバイロン先生! 一応怪我人っすよ!!」
「拳が砕けたにもかかわらず悲鳴の一つ上げるどころか、顔に苦痛の色を浮かべなかった奴が怪我人だと? 寝言は寝てから言うんだな」
治療室に向かう途中、ガルフたちが駆け付け……一緒に観戦していたバイロンから拳骨が飛んでくるも、良い戦いが出来てまだ集中力がびんびん状態のイシュドはあっさりと躱した。
「い、イシュド、その右手……だ、大丈夫なの?」
「おぅ、大丈夫大丈夫。マジで大丈夫だからそんな顔すんなって。実家で戦ってりゃあ、骨が砕けるとかしょっちゅうあったしな!!!!」
あっはっは!!! と右手が砕けたことに関して笑い飛ばすイシュドであるが、ガルフたちからすれば、あまりにも非日常過ぎる出来事であるため、若干引いていた。
「全く……あんな登場の仕方をする必要はなかったであろう」
「結界を破壊したあれっすか? パフォーマンスじゃないですか、パフォーマンス。あれだけでも俺が、俺の実家が普通じゃないって解ってくれるでしょ」
何故レグラ家の令息であるイシュドが学園に入学したのか……事情を多少知っているバイロンにとって解らなくもないが……それでも彼の表情から渋さが消えることはなかった。
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