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第43話 終われば始まる

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「勝てたみてぇだな、ガルフ」

「うん、危なかったけどね」

(危なかった、ねぇ……見た感じ、まだまだ余裕がありそうだけどな)

ガルフが二回戦を突破した。
この報告にフィリップやミシェラだけではなく、他のまだ残っている面子もガルフが平民だということなど関係無く、その勝利を祝った。

「相手は誰でしたの?」

「ライザード学園の、メイセルさんという女子生徒だったよ」

「メイセルさんでしたか……よく発勁を食らわずに済みましたね」

ミシェラもメイセル・トレイシーの事は良く知っている。
令嬢の中でも珍しく、接近戦の職業の中でも超接近戦を得意とする徒手格闘をメインとする職業を選び進む女子生徒。

双剣を使うミシェラの方が武器のリーチは長いものの、彼女の反応速度には何回か面食らった覚えがある。

「……ミシェラさんが嫌いな人のお陰だったね」

ガルフのこの言葉で、ミシェラの顔は令嬢がしていい歪み方をする。

「ぶはっはっは!!! み、ミシェラ……お前、歪み過ぎだろ!!!」

「っ!!!!」

フィリップの言葉で、ミシェラはハッと気づいて直ぐに表情を戻す。

だが、普段のミシェラを知っている面子からは……あのミシェラもあの様な顔をするのだと、物珍しい何かを見る眼を向けられた。

「と、とりあえずイシュドの助言のお陰で、紙一重で発勁を躱してなんとか勝てたんだ」

「発勁なぁ。あれを食らったら完全に朝食をリバースするから嫌なんだよな」

イシュドやガルフと出会うまで訓練に殆ど興味がなかったフィリップだが、幼い頃に……まだそれなりに真面目だった時、一度腹に食らって思いっきり吐いてしまったことがある。

「……それは同感ですわね」

ミシェラの実家にも発勁を使用出来る騎士がおり、その騎士に本気の試合を申し込んで戦った際……騎士に悪意はなく、ただ頼まれた通り……問題無い本気で挑んだ結果、腹に発勁を叩き込んだ。

そして見事、ミシェラは令嬢にあるまじき醜態を晒した。

強くなる為には仕方ない、自分から頼んだことだと理解はしているものの……ミシェラにとって苦い経験であることに変わりはない。

「これで三回戦に参加出来るな……そうなるとあれだな。争奪戦の始まりだな」

「……へ?」

争奪戦。
その言葉の意味は解る。

ただ、ガルフは直ぐに誰が争奪されるのか解らなかった。

「そうなるでしょうね」

「えっと……誰が、争奪されるの?」

「「お前に(あなたに)決まってるだろ(でしょう)」」

「…………」

友人たちから自分が争奪されると伝えられても、その本人はまだ上手く理解……脳が処理出来なかった。

「おいおいガルフ、当然だろ? 何をそんなに驚いてんだよ」

「そうですわ。まだ学園に入学して数か月の平民が激闘祭の三回戦に進出。基本的に欲しがらない騎士団はありませんわ」

「え…………え?」

平民出身の騎士はいる。
冒険者から騎士に転職する者もいる。

珍しいケースではあるが、それでもどれだけ前に進んで手を伸ばしても掴めない奇跡……という流れではない。

「二人の言う通りですわ、ガルフ君」

「せ、生徒会長さん」

「一年生の時点で激闘祭に進出。目敏いスカウトであれば、その時点で気に留めるでしょう。ただ……君は彼とのたゆまぬ努力の積み重ねもあって、三回戦に進出を果たした。ミシェラの言う通り、これで声を掛けないスカウトはただの愚か者です」

「えっと、ありがとう、ございます」

褒められた。
とりあえず褒められたことだけは解る。

(僕が……騎士団から、スカウト……スカウト…………ほ、本当?)

友からそう言われた。
生徒たちの長である生徒会長も同じ事を……見惚れる笑みを浮かべながら伝えてくれたが、その笑顔に見惚れる余裕はなく、ただ伝えれた内容を飲み込むことに必死だった。

「つっても、入ったら入ったでなぁ……実際どうなんよ?」

「……そこまで詳しいことは解りませんが、可能であれば武闘派の貴族の騎士団に入った方が良いでしょうね」

「?????」

フィリップとミシェラが何を話しているのか、全く付いていけてないガルフは、なんとも間抜けな顔を浮かべていた。

「あぁ~~~、あれだよ、ガルフ。最近俺らと過ごしてて、生徒会長様はまともだから、ちょっと感覚が狂い始めたかもしれねぇな」

「別に僕はおかしくなってないと思、ぅ………………もしかして、そういう事、なの?」

「おっ、伝わったみたいだな。ミシェラの言うように、武闘派貴族の騎士団ならまともだろうけど、王国に属する……もっと深く言えば、王族が保有する騎士団とかからスカウトが来たとしても、入団しない方が俺は賢明だと思うぜ?」

「…………そうですわね。こいつの意見に同意ですわ」

二回戦を突破し、三回戦に進出したガルフ。

今待機室には……二回戦に出場できる者しか残っていない。
そんな彼らは大なり小なり差はあれど、同じフラベルト学園の代表ということもあって、ガルフの実力を認めていた。

だが、騎士団に入団すれば……貴族である自分より強い平民など許せない!!!! という愚かな思考を持つ者は決して少なくない。

協力者、コネ、バックとなる存在などがいなければ……簡単に言ってしまうと、虐めが行われる。

「世の中、平民だからうんたらかんたらって見下す連中は多いからなぁ…………俺としてはな、ガルフ。戦力だけならこのまま上がれば、正直やべぇと思ってる」

「そ、そうかな……あ、ありがとう」

訓練時に模擬戦の戦績はフィリップの方が高いこともあり、褒められると素直に嬉しい。

「バカな連中は、そういう力関係? が許せないだろうな……今はイシュドが一緒にいるからバカが馬鹿な行動を実行することはなさそうだけど、離れればどうなるか解らねぇ」

「……申し訳ないが、フィリップの言葉を否定することは出来ない」

クリスティールがガルフに謝る必要は全くない。

それは確かにそうなのかもしれないが……多くの貴族の上に立つ公爵家の人間として、その現状はとても認められるものではなかった。

「せ、生徒会長さんが謝ることじゃないですよ」

とはいえ、自分より色々と知っている、感じている者たちから現実を突き付けられたことに変わりはない。

元々騎士になって活躍することを夢見てフラベルト学園に入学したガルフ。

入学初日からその洗礼を受けた。
直ぐにイシュドという初めてできた貴族の友人に助けられたが、それでも……先の未来に地獄を見たのは間違いなかった。

(……そうだ、今は関係無い。ただ、勝つことだけを考えないと)

問題を先延ばしにすることはあまり良くはないが、それでも……今のガルフには目の前の戦い以外に深く考える余裕はなかった。
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