上 下
37 / 246

第37話 うん、しょぼい

しおりを挟む
「おいおい、どうした? もう終わりか? 大層な口叩いてた割には、あんまり鍛えてねぇのか?」

「っ!! あなたこそ、いつまで逃げ回っているのですか!!!!!」

フィリップとジェスタの戦闘が始まってから数分が経過していた。

戦況は……二対八でジェスタの方が果敢に攻めてはいるが、そのどれもがフィリップに掠りもしない。
紙一重で躱した刺突、斬撃もあるにはあるが、結果的に一度も掠らずに戦いが進んでいるのは間違いない。

ジェスタは逃げてばかりとフィリップを罵るが、フィリップも全ての動作を回避に費やしている訳ではなく、攻撃できるタイミングには攻撃を行っている。

その攻撃は確かにフィリップの戦意が全て乗せられた一撃とは言えないものだが……避けられなければ、決して小さくないダメージを負ってしまうのは必至。

故に、観客の中にはフィリップの消極的な姿勢をそこまで責める者はいなかった。

「お前の攻撃が、当たらねぇだけだろ。つ~~かよぉ~~~……やっぱあれだな。その得物、レイピアの扱いに相当な自信があるのかは知らねぇけど、こうやって対峙してよ~~~~く解ったわ」

「勝利宣言するには早いですよ」

「誰もそんな事言ってねぇだろ。ただ、お前の腕はお前が蛮族ってバカにしてる奴よりもしょぼいなと思ってな」

「……………………は?」

ジェスタの目が光が消えた。

「今……なんと言いましたか」

「んだよ、耳にゴミが詰まる歳じゃねぇだろ。面倒だから二度も言わねぇよ」

「…………取り消してもらいましょうか」

ジェスタが振るうレイピアはただのレイピアではなく、いわゆる魔剣の類に当てはまる物。

氷属性の効果が付与されており、刃にはレイピアの軽さを殺さない程度に氷が纏われている。
魔剣の効果によって多少ではあるがジェスタの身体能力も強化されているのだが……やはりどの攻撃も当たらない。

(ぐっ!!! 何故……どうして、どうしてここまで私の攻撃が!!!)

時おりただ刺突を放つだけではなく、刃に纏った氷を発射して虚を突こうとするも、そういった攻撃も全て対応されてしまっている。

(まぁ、こいつも決して弱くはないんだろうけど……って考えると、やっぱりあの狂戦士が変態過ぎるんだろうな)

変態過ぎる狂戦士とは、勿論イシュドのこと。

イシュドは現在三次職、変革の狂戦士という職業に就いていながら、ミシェラに良い格好を見せようと賭け試合を申し込んで来た二年生の実力者を同じ細剣を使用して圧倒した。

そんなイシュドはガルフとフィリップの為にと、森の中で模擬戦を行う際に様々な武器を使って戦った。
一応……ミシェラとの模擬戦でも好んで使用する得物以外も使用して戦ったが、ミシェラからすればやや戦い方が適当だった気がしなくもない。

といった具合で、イシュドと共に行動するようになってから一応安全? にモンスターと戦えてレベルアップ出来るだけではなく、様々な武器に対して自分なりの対応が行えるようになった。

(レイピアどころか、槍や双剣も扱えるし……思い出しても無茶苦茶だよな~~)

さすが自分が興味を持った友人だと思い、薄っすらと笑みがこぼれる。

「っ!!! なにを、笑っているのですか!!!!」

「いや、やっぱりお前はさっきみたいにイシュドの奴を蛮族って呼べるほど、強くもなく、当然偉くもねぇよな~って、思っただけだ」

「っ!!!???」

そこからは早かった。
約五分ほどジェスタと戦い続けていたフィリップは完全に動きにリズムを見切り、刺突が放たれるタイミングを完全に把握し、急接近。

「ほれ、終わりだ」

伸ばした腕を引き戻す前にがっしりと掴み、得物である短剣の剣先をジェスタの喉元に突き付けた。

「そこまで! 勝負あり!! 勝者、フィリップ・ゲルギオス!!!!」

「なっ!!!!! …………くっ!!!!!!」

ただカウンターとして短剣の剣先を喉元に突き付けるだけではなく、伸びた腕を戻さないように掴んだ。

その完璧な形を観ていた冒険者が大きな拍手を送ったことで、一気に会場を埋め尽くす拍手が鳴り響く。

「っしゃ!!!!!!!! ナイスカウンターだ、フィリップ!!!! そのままぶっ刺しても良かったんだぜ!!!!!!!」

(ば~~か。それじゃ反則負けになっちまうだろ)

歓声の中でも良く耳に入る友人の言葉にツッコみを入れながら、フィリップは来る時と変わらずゆったりとした足取りでリングから降りて控室へと向かった。

(……まっ、イシュドに出会ってなかったら、それなりに苦戦してたかもな)

再度思う。
ジェスタ・ノルアルガは決して弱くはなかった。
サンバル学園のフェルノ・サンターキと同じで、この激闘祭に参加するだけの実力は有している。

ただ…………確かに、貴族の出身の者であることを考えれば、その態度や言動などは少々野蛮かもしれない。

先程の「そのままぶっ刺しても良かったんだぜ!!!!」など、チンピラが言う様な言葉である。

しかし、実力……実戦で同じ人、盗賊、モンスター……それらに対する戦闘力に関しては明らかにずば抜けている。

同年代の中では、という話ではない。
大人を含めても並ではない戦闘力と……異質な何かを有している。

(あの真面目君も、イシュドと実際に話してみれば、見る眼が変わるかもな…………まっ、その前にあの真面目君が喧嘩を売ってボコボコにされる方が先か)

「何ニヤニヤしてるのですか。もしや、わざと負けてきたのではないでしょうね」

「さすがに面倒に感じてきても、そんな真似はしねぇっての。ちゃんと勝ってきたに決まってんだろ」

待機室に入ると、いの一番にミシェラが称賛の言葉……ではなく、まさかの自滅の疑いを掛けた。

「そう、それは良かったですわ」

「おめでとう、フィリップ!!!!」

「おぅ。ありがとな、ガルフ」

お前もガルフぐらい素直に褒め言葉を出せねぇのかよ……と嫌味を口にしようと思ったフィリップ。

(……いや、それはそれで気持ち悪ぃか)

自分の勝利を素直に褒める、称賛するミシェラをイメージしたフィリップは……それはそれでミシェラらしくなく、少々気持ち悪かった。

「っ……フィリップ、今あなた私に対して失礼な事を考えませんでした」

「い~~や。特に何にも考えてねぇぜ」

女の勘は恐ろしいと思いながらも、ポーカーフェイスが上手いフィリップはあっさりと追求を躱した。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

処理中です...