転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai

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第30話 下げる相手が違う

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「ちょっとよろしくて!!!」

「……よろしくないんで、さよなら~~~」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

一日の授業が終了後、二人はいつも通り直ぐに教室から出た。

そして王都の外に出て訓練をしようと思っていると、一人の女子生徒が声を掛けてきた。

「……なんだよ、金髪縦ロール」

「なっ!? 私の名前はミシェラ・マクセランだと以前自己紹介をしたでしょう!! なんですか、その変な呼び名は!!」

「別に俺はお前と友達じゃないんだし、金髪縦ロールで十分だろ」

「ぐっ!」

イシュドの言う通り、二人は決して友人ではなく、親同士の繋がりが殆どないと言っても良い。

「……んで、いったい俺に何の用だよ、金髪縦ロール。指輪なら、会長さんから貰っただろ」

「っ……そうですわね。ただ、今回はそれ以外に用事があって声を掛けましたの」

「ふ~~~~ん。手短に頼むわ」

「…………わ、私もあなたが行っている訓練に参加させなさい!!!!」

ミシェルの頼みを耳にした生徒たちは驚愕と不安の表情を浮かべた。

イシュド・レグラという人物は……確かに強い。
相変わらず礼儀などは下の下ではあるものの、その強さは上級生にも負けず劣らずの強さということが前回の試合で証明された。

しかし、強さは証明されたが、それ以外の部分は相変わらず辺境の蛮族という認識が強い。
そんな人物が行っている訓練に高貴な令嬢が参加するとなれば、同じ令嬢や令息たちが不安に思うのは当然と言える。

「はっ? なんで?? 嫌に決まってるだろ」

「なっ!? 理由も無しに断るなんて、理不尽ですわ!!!」

「いや、だってなぁ…………さっきも言ったけど、別に俺お前と友達じゃないだろ。友達じゃない奴にそういう感じで頼まれ、受けようってなると思うか?」

理由は他にもあるが、友人ではないから頼みを受けるつもりがないという思いもある。

しかし……ミシェラとしては、試合で負けた相手に対して一緒に訓練を行いたいと頼む行為は……恥を忍んで頭を下げたのと同義。
故に、自分の申し出が断られるとは全く予想していなかった。

「お前、もうちょい自分が俺に負けた立場ってのを理解したらどうだ?」

「っ!!!!!!!! ……お、お願いしますわ」

イシュドの言い方に再度頭が沸騰しそうになるものの、強制的に自分が何も出来ずに負けたことを思い出し、今度は明確に頭を下げて頼み込んだ。

(へ~~~~? 結構マジみたいだな。普通、頭を下げるにしても場所を選ぶだろうに……けど、まだ俺の事を理解してないみたいだな)

ジェスチャーで顔を上げろと伝えるイシュド。
ミシェラはイシュドが自分の頼みを了承してくれたのだと思い、表情に笑みが零れるも……まだ了承はされていない。

「金髪縦ロール、頭を下げる相手が違うだろ」

「へっ? ……それは、いったい……どういうことですの」

ミシェラはイシュドが行っている訓練に参加すれば、自分は今よりも更に強くなれると思い、恥を忍んで頼み込んだ。

そう……イシュド以外に、頭を下げなければならない人物などいるわけがないと思っていた。

「お前が頭を下げる相手は、お前の親父さんだろ」

「私の、お父様……ま、まさか!!!???」

「そのまさかだ。んじゃ、話が通って金が入ったらまた声を掛けてくれ」

イシュドはミシェラに頭を下げてもらいたいわけではなく、単純に金を払ってくれる……もしくは高級料理店の料理を奢ってくれるのであれば訓練に参加させても良いと考えている。

「おっす、イシュド。なんだか面倒な奴に絡まれてたみたいだな」

「んだよフィリップ。見てたなら助けてくれても良いだろ」

「無理無理、別にあいつと仲が悪い訳じゃねぇけど、俺が何か言ったところで納得して引くような奴じゃないんだよ」

「まっ、それもそうか」

「ところでよ……本当にあいつがマクセラン侯爵に話を通して金を用意したら、本当に俺らの訓練に参加させるのか?」

まだ友人としての付き合いは一年もない。
しかし、それなりにイシュドの性格や考えが解ってきたフィリップは……イシュドが真面目にミシェラへ何かを教えるとは思えなかった。

「まぁ~~、ちゃんと親父さんに頭を下げて用意出来たんなら、訓練には参加させても良いかもな……訓練には、な」

「……へへ、悪い顔してんな~~」

「そうか? まぁ、そうかもな。でも……それはあの場でキッチリ確認しなかったあいつが悪いだけだ」

(ん~~~……貴族って、皆賢いと思ってたけど、ミシェラさんって……あんまり駆け引きとかは得意じゃないのかな? イシュドの様子を見てると、完璧に掌の上で転がされてるって感じだけど)

これまで社交界に出た経験はなく、イシュド自身……前世も含めてそういったやり取りが出来ないタイプではない。

ただ……相手が深く考えられない相手であれば、反論し辛い言葉を返すことは出来なくもない。

ガルフはほんの少しだけ同情しながらも……激闘祭に参加するのであれば、同じ一年生であるミシェラはライバルとして戦う可能性が高いと認識しており、イシュドにもう少し優しくしても良いんじゃないか……なんて進言することはなかった。


「イシュドよ、どうしても激闘祭には出てくれんか?」

「そうっすね。激闘祭には出ないっす。出たところで、あんまり楽しくない気がするんで」

数日後……休日二日目の夜、実戦訓練から戻って来たイシュドの前にいるのはフラベルド学園の学園長。
学園長自ら淹れた紅茶を飲みながら、再度頼まれた内容を断る。

学園長はそもそも激闘祭は楽しむものではないとツッコミたかったが……そういった認識がある以上、本当にイシュドに参加する気がないのだと思い知らされる・

(どうしたもんか……入学するなら、是非とも激闘祭にも参加してもらおうと思っておったんだが……ふむ)

生徒会長であるクリスティールから提案された内容は悪くないと思った。

同じく三次転職を終えている者と戦わせれば、実質の最強はイシュド・レグラだと一応証明出来なくはない。

しかし、実際に激闘祭トーナメントに参加していない以上、それに反論する者は現れる。

「……むっ!!!!! イシュドよ、こういった戦いならどうだ」

名案を思い付いた学園長は直ぐにイシュドへその名案を伝える。

「へぇ~~~、それは……ふふふ、悪くないんじゃないですか? こういった戦いなら、参加しても良いですよ」

「そうかそうか。では、決まりだな」
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