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第27話 その気になってただけ

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「レグラ家に属する人間は全員、何かしらの強さを求めている。珍しいタイプの弟も生まれたが、そいつも物理的な強さは最低限持っている……そして、レグラ家に集まる人間たちも種類は様々であれど、何かしらの強さを持った者が集まる」

次期当主筆頭であるアレックスや三男のミハイルに四男のイシュド。

大ぶりな武器などを使うのがメインである者が多い中……己の最大の武器が何なのかを理解し、違う未知の強さを手に入れた次男、ダンデ。

「うちには……どの道であろうと、強くなる環境が整ってるんだよ。俺の兄さんの一人、ダンデ兄さんはこういう得物を扱うのが大得意なタイプでな。自分の得意な武器だからか、俺に勧めてくることも少なくなかった」

とはいえ、イシュドのメイン武器は戦斧や体技。
しかし……息抜きとして、そういった武器を使ってみるのも悪くないと思い、偶に実戦でも扱っていた。

「だから、空いてる時間とかにちょこちょこ鍛錬してたってわけだ」

「ッ……ふ、ふ……ふざけるなっ!!!!!!!!!」

今日一番の怒鳴り声が炸裂。

観客席に居る一年生たちの多くはぶるりと震えるものの、イシュドの顔は特に変わらず、ハスティーを見下ろしていた。

「ちょこちょこの、鍛錬で……こんな、このような結果がっ!!!!!!!」

「そんなこと言われてもなぁ~~~~。メガネ先輩の細剣技が子供のチャンバラに思える人とちょいちょい模擬戦してたんだぜ? あと、うちには直ぐ実戦で学べる環境があった訳だし……まっ、あれだよ。メガネ先輩は本気で細剣技に人生を捧げてた気になってたってことじゃないっすか」

「ッ!!!!!!!!!」

ブチッ、と…………イシュドや審判の教師だけではなく、観客席に居るガルフやバイロンや他の観客たちにも……確かに、何かが切れる音が聞こえた。

「ガァァアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!!」

咆哮と共に纏われるは圧倒的な速度で螺旋回転する豪水。

槍技のスキルと同名の技……螺旋突きと共に放たれた必殺の刺突。
鋼の鎧を容易に貫く必殺技であり、食らえば確実に体に風穴が空く。

そう……当たれば、この戦闘で初めてダメージを与えられる。

「それなりに良い技だけど、そういう技は当てるまでのプロセスをちゃんと考えないと」

「なッ!!!!!????? き、貴様は…………貴様は、いったいなんなのですかッ!!!!!!!!」

戦闘中に問う内容ではないが、ハリスがそう叫んでしまうのも無理はなかった。

放った必殺の刺突……螺旋突きはただ魔力を纏ったイシュドの細剣の剣先で受け止められていた。

一つのミスも許されない絶技、離れ業、神技……それらのどの言葉にも当てはまる対処法で、螺旋突きを完全に受け止めていた。

「何って……いつもあんたらが言ってるだろ、辺境の蛮族だって」

それを最後の言葉とし、ハスティーの細剣を弾き……袈裟斬り一閃。
内臓には届いていないものの、皮と肉……骨が見事に切断され、大出血。

「っ!!!!!?????」

「そこまで!! 勝負あり!!! 勝者、イシュド・レグラ!!!!!」

「どうも」

審判が勝者の名を上げた。
普通なら、ここで観客席から歓声が上がるものだが、その勝者がイシュドということもあり、観客席から歓声や拍手が生まれることはなく……ただただ静寂が支配していた。


「お、お疲れ様、イシュド」

「おぅ。つっても、普段通り疲れる試合にならなかったけどな」

「そ、そっか……ね、ねぇイシュド。あの凄い突き……螺旋突き、だったかな? あういう攻撃、どうやって止められるようになったの?」

自身の職業的に、細かいテクニックを身に付けるには不向きだと解っていても、訊かずにはいられなかった。

「あれか? そりゃ勿論、実戦で同じことをやりまくったんだよ。俺は就いてる職業的に防御力は高いからな。失敗しても大抵は何とかなるんだよ」

「……呆れた奴だな、全く」

「毎回あざっす、バイロン先生」

「構わん。バカは何をするか分からんからな。しかし……あのハスティーを細剣で打ち破った、か……」

「面倒なことが起こるっすか?」

ある程度予想はしていたため、イシュドは面倒ではあると思いながらも、驚いてはいない。

「同じ細剣で歳上……現役の騎士などに負けたのであればまだしも、一応まだ世間的にお前の実力は知れ渡っていない」

「そんな辺境の蛮族に、同じ細剣を使った勝負で負けたとなれば、あのメガネ先輩の実家が黙ってないと」

「そうなる可能性は高いだろう」

「ん~~~~……でも、ぶっちゃけ大前提の話としてあれぐらいの学生が俺に勝つとか、そもそも無理な話っすけどね」

ハスティーがこの場に居れば、怒りが爆発し過ぎるあまり、憤死してもおかしくない。

ただ……既に三次職に就いているイシュドからすれば、特に悪気を含んだ発言ではなかった。

「それもそうだな……まぁ、お前に細剣同士の勝負で負けたことを恥じだと判断し、パリスロン家自ら、既に確約していた騎士団入団の話を白紙にするかもしれないな」

「へぇ~~~~~、良いんじゃないっすか。俺の実力を冷静に見極めようとする気もなかったみたいだし、きっとどっかの戦場で早死にしてましたよ」

自業自得。

イシュドからすれば、その言葉がピッタリと当てはまるため、ハスティーの事を一ミリも可哀想だとは思わない。

「辛辣な評価だな。とはいえ、既に過酷な実戦を身を持って体験しているお前からすれば、当然の評価か……ひとまず、イシュドへの試合や決闘の申し込みは一旦落ち着くだろう」

「そうなんすか? 俺としては、別に十日に一回ぐらいのペースで申し込んでくれても良いんすけどね」

「これまで基本的に身体能力を、力をメインに挑んで来た同級生達を潰してきただろ。それらの光景を見ても、学生たちの中には魔法や技術といった面であれば自分たちに分があると思っていたことだろう」

「つまり、イシュドが細剣の名門出身であるパリスロン先輩を細剣で倒してしまったことで、もう自分たちが勝っている面はないのだと思い知った……ということですか?」

「その通りだ。言ってしまえば、心が折れたのだろう」

貴族という立場上、礼儀作法や戦闘力以外の面も重要視されるが……この学園から旅立つ者は基本的に戦闘職に就く。
そういったカリキュラムを学園も組んでおり……強さこそ正義、といった面がある。

そんな環境でイシュドは短期間の間に優れた一年生と二年生の中でトップクラスの実力を持つ生徒を一切顔に焦りを浮かべることなく倒し……格の違いを見せつけた。
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