転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai

文字の大きさ
上 下
2 / 320

第2話 可能性の塊

しおりを挟む
「儂はお前の曾爺ちゃんだ、イシュド」

「は、はい……えっと、イシュドです、よろしくお願いします」

事前に従者から連絡を受けていたため、曾祖父にあたる人物……ロベルトが自分の元を訪れることは知っていた。

ただ、その威圧感に圧倒されていた。
既に異世界での生活が始まって、早四年。

屋敷の中には実力者たちが多くいるため、なんとなく……雰囲気で強さが解るようになってきた。
そんな中で……まるでその圧を抑えていないロベルトの雰囲気は、あまりにも跳び抜けていた。

「ふふ、儂の強さがスキルなしで解るか」

「その、細かく解りませんけど、色々とぶっ飛んでることだけは解ります。なんというか……俺からすれば、半神に近い存在ですね」

「ほぅ……半神か。面白い表現をするな。とはいえ、もう少し強くなることが出来れば、確かに半神の領域に踏み込めるかもしれんな」

冗談を言っているようには聞こえない。
イシュドはそれらの情報だけで、ロベルトがもう直ぐレベル百という領域に到達するのを察した。

(れ、レベル百って確か、歴史上で数えるほどの人数しか到達してない領域、なんだよな? ……えっ、マジかよ。化け物って言うか怪物って言うか……最終兵器?)

イシュドの頭が混乱するのも無理はない。

「さぁ、稽古を始めるぞ」

「は、はいっ!!!!!」

最終兵器、ロベルトが指導を行う……とはいっても、内容としては殆ど今までイシュドが行っていることと変わらない。

(こ奴は、儂の後を継げる可能性がある)

その様な思いを持っているため、武器の訓練に入るとイシュドに大剣や戦斧、もしくは大戦斧やハルバードの使用を勧める。

「イシュド、お前には狂戦士を極められる可能性がある」

「ッ!!!」

地上最強とも噂されている人物からそう評価されては、思考が揺れるというもの。
イシュドとしても、ロベルトが提示した武器に興味はある。

一通り体力が持つ限りロベルトの指導を受け……一時間もしない内にぶっ倒れる。
当然と言えば当然の状態であり、寧ろ数十分も持ったイシュドがやはり異常。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ふぅーーーーーー」

偶に飛んでくる指導内容を反復を繰り返して修正。

四十代程までは超感覚派のロベルトだったが、いつからかある程度は自身の伝えたい事を言語化出来るようになっていた。

(儂に言われるまでもなく、体力の限界が来たら座禅を組み、体内の魔力を循環しながら瞑想を始めおった……ふっふっふ、五歳になったら直ぐに戦場に向かえそうじゃな)

伝えたい事を言語化出来るようになっても、やはり彼は脳筋だった。
五歳というあまりにも若過ぎる年齢でモンスターと戦わせる……ハッキリ言って虐待である。

五歳という年齢になれば、職業という恩恵を神から得られる。
職業の種類は個人の才能、歩んで来た道なりによって変わる。

(戦士、槍士、剣士……いや、これだけの魔力操作技術があるなら、魔法使いを得てもおかしくないか……ふっふっふ、この子の可能性が恐ろしいな)

ロベルトはイシュドの戦闘訓練に対する考えや姿勢だけに驚いてるのではない。

イシュドはレグラの者たちが、ほぼ遺伝的に嫌うであろう勉学にもそれなりの興味を持っている。
加えて明らかに接近戦の才を持っていながらも、魔法や錬金術といった分野にも興味津々。

挙句の果てには料理にまで興味を持っている。

(これがあの子の考えたハンバーグという料理か……うむ、美味いな)

実際にはイシュドが考えたわけではないが、ハンバーグの美味さにもしイシュドが料理人の道に進んでしまう未来が、脳内に浮かんでしまった。

(いかんいかん、それはいかん。いや、決めるのはイシュドじゃが……あり得るか?)

レグラ家に生まれた者たちは、例外なく戦闘系の職業を選ぶ、そこからステップアップしていく。
誰一人他の道に逸れた者はいない。

だが……今日一日、ほぼイシュドと共に過ごしたロベルトには解ってっしまう。
イシュドにはあまりにも多くの可能性が眠っている。
そしてその可能性に対する姿勢は、戦闘訓練に対する姿勢と殆ど変わらない。
それ故にもしやという不安が過る。

「他の道ですか? 興味はありますけど、兄さんや姉さんたちと同じく、戦士の道に進むことだけは決めてますよ。その他のことは趣味で十分です」

マンツーマンの指導が始まってから二日目、ロベルトは自然を装い、将来どの様な道に進みたいのかと尋ねた。

この時、イシュドはほんの数秒ほど考え込んだが、直ぐに戦士としての道以外には興味はないと伝えた。
趣味は趣味であるからこそ、疲れた体に癒しを与えてくれる。
それがイシュドの持論であった。

本当にまだ体は幼いが……本当に体力の限界が来るまで動き続けられる謎の自信がある。
そんな根拠のない自信が継続していることもあって、イシュドとのマンツーマン指導が始まってからも戦闘訓練が嫌いになることは全くない。

そんなイシュドも……遂に五歳の誕生日を迎えた。

「イシュド、どういった職業を選べそうだ?」

父からの問いに、イシュドは一つの紙に就くことが出来る職業を書いていく。

(剣士、短剣士、槍士、戦士、武道家、魔法使い、料理見習い、錬金術師見習い、丁稚……恐ろしいほどの候補数だな)

結果として、イシュドが初めて就くことが出来る職業の数は……十。
これは半神に届きうる戦闘力を持つロベルトと同じく、歴史上数えるほどの者しか持ちえない可能性の塊。

「父さん、俺はとりあえずこの職業を選ぼうと思います」

「……うん、良いんじゃないか」

イシュド指さした職業名は……魔戦士。
職業候補に戦士と魔法使いがあれば、可能性としては十分あり得る話ではある。

そう、可能性としてはあり得なくないのだが……それはレベルが二十五に達し、二次転職を行えるようになってからの場合である。

(魔戦士か……うん、全然ありだ。寧ろイシュドの可能性を考えるとそれしか……って、なにッ!!!!????)

アルバは息子が選択したい候補を聞いてから約十秒後、ようやくそのあり得なさに気付いた。

「い、イシュド……その職業は、本当に選択できる、のか?」

「はい、候補欄にあります」

「そうか……それなら、お前の考えた通りそれを選ぶと良い」

こうしてイシュドはたった五歳という年齢ながら、魔戦士という……なんとも年齢に似合わない職業に就くことになった。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

気が付けば丸々とした令嬢でした。

ミント
ファンタジー
前世の記憶が戻った瞬間、婚約者に婚約破棄されてました。 でも私的には全然ショックじゃない! むしろ私の体型がショックでした。 こんなに太ってるなんて許せない! 令嬢の私はダイエットします!  恋愛要素に繋がるかまだわからないためファンタジーにさせていただきました🙋‍♀️ 皆様に役立つ?情報が入っているかもしれない小説です🙋‍♀️(本人談) 文の最後に私の呟き?入ってることがあります。 ご了承くださいm(_ _)m

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...