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千六話 間違いなく、本物
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休憩が終わった後も、アラッドと騎士たちは手合せを続けた。
「ゥオ、ラッ!!!!!」
「シッ!!!!!!!」
純粋な身体能力と技術だけの戦いとなれば、アラッドと同レベルな者はいる。
(今度は、負けねぇぞッ!!!!!)
数は多くない、身体能力と技術がアラッドに近い騎士。
手合せを行うのは二度目であり、彼はリベンジに燃えていた。
(気合、入ってるなッ!!!!!)
基本的に相手の攻撃を受ける、受け流すのに約三十秒。
そして、反撃を開始し、急所に剣先を突き付けて終わらせるまで約三十秒。
といった流れで手合せを終わらせてきたが、同等の身体能力と技術を持つ者との手合せは、そう簡単に終わらせられない。
そもそも、始まってから一定時間は受けようとはせず、最初から斬り結ぶ。
「ッ、ふっ!!!」
「ぐっ!!!! ッ~~~~~、ああああ!! 負けたぜ、こんちくしょう!!」
斬り結ぶ激しさが増す事数十秒、ここざというタイミングで受け流しを使い、体勢が崩れたタイミングを狙い、心臓部に剣先を添えた。
「ありがとう、ございました」
「あぁ~~~、くっそ…………なぁ、差は……やっぱりあれなんか。経験値なんか?」
アラッドは、騎士の爵位を持ってはいるが、騎士としては活動していない。
ただ、アラッドの兄であるギーラスは現役騎士として活動しているため、流出しても大して問題は無いアラッドの情報がチラホラ騎士たちの耳に入っている。
幼い頃から、普通ではない生活をしていたと。
「どう、でしょうか……そうですね………………その、俺は幼い頃から、分け合って獣人やエルフの方と試合を行えました」
「お、おぅ。そうなんか」
「勿論、実家に仕えている騎士の方々や、父さんや母さんも偶に相手をしてくれました」
「…………騎士や兵士だけじゃなくて、元冒険者や獣人、エルフとか色んなタイプの連中と戦っていたから、ってことか?」
「俺と、あなたの差を上げるとしたら、そこになるかと」
アラッドは、特異な体質の影響で、同レベルの者たちよりも優れた身体能力と魔力量を有している。
代わりに、レベルが上がり辛いという制限があるものの、常に強敵と戦い続け、勝利しているアラッドにとっては、あまり制限と言える制限ではなかった。
対して、今回アラッドと戦った男性騎士は、アラッドより五歳ほど歳上ではあるが、同期の騎士たちよりもモンスターや盗賊と戦う機会が多く、本人が意欲的なこともあって身体能力はアラッドと変わらず、技術も致命的な差はない。
ただ、本人が尋ねた通り、差があるとすれば……そこであった。
「他種族や他職の奴らとの戦闘経験か…………なるほどな。ありがとよ」
「どういたしまして」
騎士という職業上、もっと強くなれるかもしれない手段を知ったからといって、すぐにどうこう出来るとは限らない。
それでも、彼にとって方法があると知れただけでも、収穫は大きかった。
「ふふ、凄いな……君のスタミナは、無尽蔵かな?」
二周、三周、四周と……アラッドは騎士たちと何度も何度も手合わせを繰り返した。
騎士たちもずっとアラッドと再戦する番を待っている訳ではなく、その間にガルーレやスティーム、ヴァジュラと戦っているため、それなりに体力を消耗していた。
ただ……どう考えても、延々と騎士たちの手合せ相手を行っているアラッドの方が疲れているに決まっている。
しかし、アラッドは汗を流しながらも、その表情から笑みが消えることはない。
「そんな事は、ないですよ。ただ……手合せとはいえ、実力のある方たちと、こうして何度も何度も、戦えるのは……非常に楽しいので」
楽しい。
だから、疲れなんて気にしない。
そう口にしながら笑みを浮かべるアラッドを見て、シュルドはぞくりと背筋が震えた。
(強面な顔とは裏腹に優しく、そして当然ながら強い……だが、彼には彼が特異たる要素を持っている……本物だ)
口だけの者、気合だけの者というのは、世の中にごまんと存在する。
シュルドは騎士だけではなく、それなりに多くの冒険者たちとも対面してきたからこそ、アラッドが本物であると解った。
そんな本物の彼に対し……一つ提案をした。
「そろそろ夕食の時間となるが……どうかな。その前に、一つ大きな試合を行わないか」
「大きな試合、ですか………………スキル、魔力の使用ありで、俺と…………二十人から三十人ぐらい、同時で戦うっていうのは、どうですかね」
「「「「「「「「「「ッ!!!!!」」」」」」」」」」
(ふっふっふ、はっはっは!!!!! やはり、本物だ)
何故、アラッドが一対多数の戦いはどうかと口にした理由を、シュルドはなんとなく理解していた。
遠くない内に、戦争が始まる。
戦争が始まれば、多くの者に囲われて戦わなければならない場面に遭遇してもおかしくない。
(アラッド君ほどの実力者であれば、積極的に狙って来てもおかしくない。今回集まっている騎士たちの実力を考慮すれば、良い練習台になるだろう…………さて、先に治癒師たちは呼んでおかなければな)
シュルドは珍しくニヤニヤとした笑みを零しながら、近くにいた者に指示を飛ばした。
「ゥオ、ラッ!!!!!」
「シッ!!!!!!!」
純粋な身体能力と技術だけの戦いとなれば、アラッドと同レベルな者はいる。
(今度は、負けねぇぞッ!!!!!)
数は多くない、身体能力と技術がアラッドに近い騎士。
手合せを行うのは二度目であり、彼はリベンジに燃えていた。
(気合、入ってるなッ!!!!!)
基本的に相手の攻撃を受ける、受け流すのに約三十秒。
そして、反撃を開始し、急所に剣先を突き付けて終わらせるまで約三十秒。
といった流れで手合せを終わらせてきたが、同等の身体能力と技術を持つ者との手合せは、そう簡単に終わらせられない。
そもそも、始まってから一定時間は受けようとはせず、最初から斬り結ぶ。
「ッ、ふっ!!!」
「ぐっ!!!! ッ~~~~~、ああああ!! 負けたぜ、こんちくしょう!!」
斬り結ぶ激しさが増す事数十秒、ここざというタイミングで受け流しを使い、体勢が崩れたタイミングを狙い、心臓部に剣先を添えた。
「ありがとう、ございました」
「あぁ~~~、くっそ…………なぁ、差は……やっぱりあれなんか。経験値なんか?」
アラッドは、騎士の爵位を持ってはいるが、騎士としては活動していない。
ただ、アラッドの兄であるギーラスは現役騎士として活動しているため、流出しても大して問題は無いアラッドの情報がチラホラ騎士たちの耳に入っている。
幼い頃から、普通ではない生活をしていたと。
「どう、でしょうか……そうですね………………その、俺は幼い頃から、分け合って獣人やエルフの方と試合を行えました」
「お、おぅ。そうなんか」
「勿論、実家に仕えている騎士の方々や、父さんや母さんも偶に相手をしてくれました」
「…………騎士や兵士だけじゃなくて、元冒険者や獣人、エルフとか色んなタイプの連中と戦っていたから、ってことか?」
「俺と、あなたの差を上げるとしたら、そこになるかと」
アラッドは、特異な体質の影響で、同レベルの者たちよりも優れた身体能力と魔力量を有している。
代わりに、レベルが上がり辛いという制限があるものの、常に強敵と戦い続け、勝利しているアラッドにとっては、あまり制限と言える制限ではなかった。
対して、今回アラッドと戦った男性騎士は、アラッドより五歳ほど歳上ではあるが、同期の騎士たちよりもモンスターや盗賊と戦う機会が多く、本人が意欲的なこともあって身体能力はアラッドと変わらず、技術も致命的な差はない。
ただ、本人が尋ねた通り、差があるとすれば……そこであった。
「他種族や他職の奴らとの戦闘経験か…………なるほどな。ありがとよ」
「どういたしまして」
騎士という職業上、もっと強くなれるかもしれない手段を知ったからといって、すぐにどうこう出来るとは限らない。
それでも、彼にとって方法があると知れただけでも、収穫は大きかった。
「ふふ、凄いな……君のスタミナは、無尽蔵かな?」
二周、三周、四周と……アラッドは騎士たちと何度も何度も手合わせを繰り返した。
騎士たちもずっとアラッドと再戦する番を待っている訳ではなく、その間にガルーレやスティーム、ヴァジュラと戦っているため、それなりに体力を消耗していた。
ただ……どう考えても、延々と騎士たちの手合せ相手を行っているアラッドの方が疲れているに決まっている。
しかし、アラッドは汗を流しながらも、その表情から笑みが消えることはない。
「そんな事は、ないですよ。ただ……手合せとはいえ、実力のある方たちと、こうして何度も何度も、戦えるのは……非常に楽しいので」
楽しい。
だから、疲れなんて気にしない。
そう口にしながら笑みを浮かべるアラッドを見て、シュルドはぞくりと背筋が震えた。
(強面な顔とは裏腹に優しく、そして当然ながら強い……だが、彼には彼が特異たる要素を持っている……本物だ)
口だけの者、気合だけの者というのは、世の中にごまんと存在する。
シュルドは騎士だけではなく、それなりに多くの冒険者たちとも対面してきたからこそ、アラッドが本物であると解った。
そんな本物の彼に対し……一つ提案をした。
「そろそろ夕食の時間となるが……どうかな。その前に、一つ大きな試合を行わないか」
「大きな試合、ですか………………スキル、魔力の使用ありで、俺と…………二十人から三十人ぐらい、同時で戦うっていうのは、どうですかね」
「「「「「「「「「「ッ!!!!!」」」」」」」」」」
(ふっふっふ、はっはっは!!!!! やはり、本物だ)
何故、アラッドが一対多数の戦いはどうかと口にした理由を、シュルドはなんとなく理解していた。
遠くない内に、戦争が始まる。
戦争が始まれば、多くの者に囲われて戦わなければならない場面に遭遇してもおかしくない。
(アラッド君ほどの実力者であれば、積極的に狙って来てもおかしくない。今回集まっている騎士たちの実力を考慮すれば、良い練習台になるだろう…………さて、先に治癒師たちは呼んでおかなければな)
シュルドは珍しくニヤニヤとした笑みを零しながら、近くにいた者に指示を飛ばした。
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