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九百九十五話 その権利は、ない
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(そう、だな……すっかり、忘れてしまっていた。虎竜はディーナの両親以外の冒険者も殺していたんだ……そんなモンスターを従魔にすれば…………反対は、必至か?)
過去に似た様な事を体験したアラッドたち。
ただ、その際はヴァジュラがあまり冒険者たちを殺しておらず、当事者であるアラッドたちの言葉もあって、問題らしい問題にならずに済んだ。
しかし……虎竜は遭遇した冒険者の殆どを殺している。
当然ながら、自身と虎竜の戦力差に恐怖を感じるも……憎悪を持つ冒険者は少なからず存在する。
そういった冒険者たちにとって、虎竜の子というのは、まだ生まれたばかりの子供だろうと関係無く、殺さなければならない存在と認識してしまう恐れがある。
「ねぇ、アラッド。これって……結構不味くない?」
「そうだな。すっかりその可能性を忘れていた…………いや、でも……そうか」
「もしかして、良い打開策を思い付いた?」
「打開策というほど大層なものではないが、今回虎竜の子であるブローズを従魔にしたのは俺たち三人の部外者ではなく、因縁のあるディーナさんだ。今回の件に関して、誰よりも痛みを知っている人だ」
両親がまだ若くして亡くなった。
冒険者として活動していれば、そういったこともある。
その覚悟の上で活動している者が大半であり、過度な憐みは侮辱とも捉えれられるが……それでも、残された者に対して悲しむなというのは、無理な話である。
「そのディーナさんが、許したんだ。であれば、他の物たちが不平不満を口にすることは……状況を考えれば、出来ない筈だ」
「そういうもの……なのかな」
「少なくとも、理屈の上ではそうだと思うぞ」
「あれよね、虎竜を倒したのもディーナだから、そもそも虎竜討伐に積極的に関わらなかった奴らがギャーギャー喚いてんじゃねぇよ!!!!! ってことね!!」
「大雑把に言うと、そういう事だな」
両親を、もしくは親しい者を殺されたとなれば、その相手に対して殺意や憎しみを抱くのは当然のこと。
だが、虎竜と……虎とドラゴンの特徴を併せ持つモンスターだと耳にすれば、どうしても足がすくんでしまう。
それもまた、なんなら珍しい事ではない。
ディーナも当時、そもそも自分よりも強かった両親が殺されたことで、その差を否が応でも感じさせられた。
しかし……それでも彼女は、諦めず目標へ……高みへ歩み続けた。
そして幸運が重なったとはいえ、ソロで虎竜という怪物に打ち勝つことが出来た。
「だから、まぁ…………大丈夫だとは思う」
「……僕も大丈夫だとは思うけど、それでも万が一があったらどうする」
「ないとは、言えないな………………そうだな、そうなれば実家の力を使えば良いだろう」
「「っ!!!」」
アラッドの発言に、スティームとガルーレは少なからず驚き、その感情を隠せなかった。
「二人とも、なに面白い顔をしてるんだ」
「い、いや……だって、アラッドがこう……実家に力を使うって、物凄く珍しいというか……い、今までなかったよね?」
「私は一回も聞いたことがなかった気がするし、なんならアラッド的にはそういうの嫌ってると思ってたから」
二人の言う事は最もであった。
アラッドは本当に実家の、侯爵家の力は使ったことがなく、それを使って何かを解決しようとするのも嫌っている。
「誰かを守る為なら、別に使っても構わないとは思ってる……それぐらいなら、父さんも許してくれるだろう」
「…………そういえば、アラッドの実家は侯爵家だったな」
虎竜を討伐する為に鍛えて鍛えて鍛え続けていたディーナは、多少はアラッドの噂に関して耳にしていたが、大きな人生の目標を持っていたが故に、全くもって興味を持っていなかったため、今になってようやく思い出した。
「ふふ、そうなんだよ。今は冒険者として活動しているが、決して追い出されたわけではないんだ」
「でもさ、やっぱり超珍しい部類だよね~~~。そう宣言してたからあれだったかもしれないけど、アラッドを自分の騎士団にって入団させようと考えてた人たちは一杯いたでしょ」
「ん~~~、どうだろうな。俺は殆ど社交界に参加しない人間だった。付き合いが悪い人間だと思われていた可能性もある。それに、俺が学園側から出された条件を達成して騎士の爵位を得る際、俺の戦い方や存在が気に入らなかった騎士たちが試合を申し込んできたからな」
実際のところ、アラッドが騎士団の団長などの重役に就いている者たちからは、元副騎士団長だったフールから度々話を聞いていることもあって、アラッドの事は割気に入っていた。
部下の騎士たちを纏める隊長格の人間たちも、アラッドの試合を見て人を率いるカリスマを有しているタイプだと判断し、トーナメントが終われば上に是非ともスカウトするべきだと進言しようと考えていた者は決して少なくなかった。
「とりあえず、そういう訳だからギルドや同業者たちから何かを言われたとしても、それはこっちで対処しておく。だから、ディーナさんは何も気にせず、その子とこれからも冒険者として活動しても大丈夫だ」
「…………本当に、何から何まで助けてもらい、本当に……感謝する」
深々と、丁寧に腰を折り、ディーナは心の底から感謝の気持ちを伝えた。
過去に似た様な事を体験したアラッドたち。
ただ、その際はヴァジュラがあまり冒険者たちを殺しておらず、当事者であるアラッドたちの言葉もあって、問題らしい問題にならずに済んだ。
しかし……虎竜は遭遇した冒険者の殆どを殺している。
当然ながら、自身と虎竜の戦力差に恐怖を感じるも……憎悪を持つ冒険者は少なからず存在する。
そういった冒険者たちにとって、虎竜の子というのは、まだ生まれたばかりの子供だろうと関係無く、殺さなければならない存在と認識してしまう恐れがある。
「ねぇ、アラッド。これって……結構不味くない?」
「そうだな。すっかりその可能性を忘れていた…………いや、でも……そうか」
「もしかして、良い打開策を思い付いた?」
「打開策というほど大層なものではないが、今回虎竜の子であるブローズを従魔にしたのは俺たち三人の部外者ではなく、因縁のあるディーナさんだ。今回の件に関して、誰よりも痛みを知っている人だ」
両親がまだ若くして亡くなった。
冒険者として活動していれば、そういったこともある。
その覚悟の上で活動している者が大半であり、過度な憐みは侮辱とも捉えれられるが……それでも、残された者に対して悲しむなというのは、無理な話である。
「そのディーナさんが、許したんだ。であれば、他の物たちが不平不満を口にすることは……状況を考えれば、出来ない筈だ」
「そういうもの……なのかな」
「少なくとも、理屈の上ではそうだと思うぞ」
「あれよね、虎竜を倒したのもディーナだから、そもそも虎竜討伐に積極的に関わらなかった奴らがギャーギャー喚いてんじゃねぇよ!!!!! ってことね!!」
「大雑把に言うと、そういう事だな」
両親を、もしくは親しい者を殺されたとなれば、その相手に対して殺意や憎しみを抱くのは当然のこと。
だが、虎竜と……虎とドラゴンの特徴を併せ持つモンスターだと耳にすれば、どうしても足がすくんでしまう。
それもまた、なんなら珍しい事ではない。
ディーナも当時、そもそも自分よりも強かった両親が殺されたことで、その差を否が応でも感じさせられた。
しかし……それでも彼女は、諦めず目標へ……高みへ歩み続けた。
そして幸運が重なったとはいえ、ソロで虎竜という怪物に打ち勝つことが出来た。
「だから、まぁ…………大丈夫だとは思う」
「……僕も大丈夫だとは思うけど、それでも万が一があったらどうする」
「ないとは、言えないな………………そうだな、そうなれば実家の力を使えば良いだろう」
「「っ!!!」」
アラッドの発言に、スティームとガルーレは少なからず驚き、その感情を隠せなかった。
「二人とも、なに面白い顔をしてるんだ」
「い、いや……だって、アラッドがこう……実家に力を使うって、物凄く珍しいというか……い、今までなかったよね?」
「私は一回も聞いたことがなかった気がするし、なんならアラッド的にはそういうの嫌ってると思ってたから」
二人の言う事は最もであった。
アラッドは本当に実家の、侯爵家の力は使ったことがなく、それを使って何かを解決しようとするのも嫌っている。
「誰かを守る為なら、別に使っても構わないとは思ってる……それぐらいなら、父さんも許してくれるだろう」
「…………そういえば、アラッドの実家は侯爵家だったな」
虎竜を討伐する為に鍛えて鍛えて鍛え続けていたディーナは、多少はアラッドの噂に関して耳にしていたが、大きな人生の目標を持っていたが故に、全くもって興味を持っていなかったため、今になってようやく思い出した。
「ふふ、そうなんだよ。今は冒険者として活動しているが、決して追い出されたわけではないんだ」
「でもさ、やっぱり超珍しい部類だよね~~~。そう宣言してたからあれだったかもしれないけど、アラッドを自分の騎士団にって入団させようと考えてた人たちは一杯いたでしょ」
「ん~~~、どうだろうな。俺は殆ど社交界に参加しない人間だった。付き合いが悪い人間だと思われていた可能性もある。それに、俺が学園側から出された条件を達成して騎士の爵位を得る際、俺の戦い方や存在が気に入らなかった騎士たちが試合を申し込んできたからな」
実際のところ、アラッドが騎士団の団長などの重役に就いている者たちからは、元副騎士団長だったフールから度々話を聞いていることもあって、アラッドの事は割気に入っていた。
部下の騎士たちを纏める隊長格の人間たちも、アラッドの試合を見て人を率いるカリスマを有しているタイプだと判断し、トーナメントが終われば上に是非ともスカウトするべきだと進言しようと考えていた者は決して少なくなかった。
「とりあえず、そういう訳だからギルドや同業者たちから何かを言われたとしても、それはこっちで対処しておく。だから、ディーナさんは何も気にせず、その子とこれからも冒険者として活動しても大丈夫だ」
「…………本当に、何から何まで助けてもらい、本当に……感謝する」
深々と、丁寧に腰を折り、ディーナは心の底から感謝の気持ちを伝えた。
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