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九百八十話 強者ではあるが
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(虎竜の子供、か…………ガルーレの予想が当たっていれば、チャンスではあるな…………)
虎竜を探し始めて二日目。
アラッドは襲ってきたオークの集団をロングソードで討伐しながら、昨日の夕食時にガルーレが口にした可能性について考えていた。
「お疲れ様、アラッド」
「おぅ」
「……もしかして、昨日ガルーレが言った事を考えてたのかな」
「あぁ、そうだ」
オークからすればふざけるなと怒号を上げたいところだが、既に全員首を切断されており、それは不可能だった。
「ねぇ、あれだよ。本当にあれは偶々思い付いただけだよ。アラッドちかみたいにこう……根拠のある推察? じゃないって」
「結果的に、ガルーレが思い付いた内容は、根拠が無きにしも非ずになった」
今回の戦闘も、オークの数は四体と……決して少なくはないが、それでもアラッドたちを相手に挑むには、かなり戦力が足りない。
それでも、オークたちの瞳から闘志が失われてはおらず、最後まで本気でアラッドを殺すつもりで戦った。
「…………何もない状態であれば、心配も薄かったんだがな」
「? 仮に私の推察が当たってたとしても、チャンスなのはチャンスなんでしょ」
「あぁ、そうだな。ディーナさんからしても、チャンスであるのは間違いないだろう。ただ……奴らまでそれを知ってるとなると、話は変ってくる」
奴ら、というのはゴリディア帝国の者たち。
何故彼らにそれを知られると面倒なのか……スティームは直ぐに察し、表情を歪めた。
「なるほど……そうだね。それは、知られたくないね」
「操られやすくなるから?」
「そうだな、確かにそうとも言える。身籠っていて体に気を遣わなければならない状態だと、洗脳の類による支配を行いやすくなる可能性が高くなるかもしれない。ただ……仮に既に生まれていた場合、奴らが子を人質に取るかもしれない」
「っ!! なるほど……そっか。そうね……うん、それはちょっと、あれだね」
何故知られてはいけないのかという理由を理解したガルーレは、スティームと同じ様に怒りで顔を歪めた。
「だろ。だから、なるべく早目に見つけておきたいんだが……今日も視線すら感じないな」
感知力はそこまで優れている自信はないアラッドだが、強者が向けてくる視線の種類に関して把握出来るようになっていた。
しかし、既に時刻は昼過ぎだが、今日もそれらしい視線を一度も感じない。
「……虎竜の子供なら大丈夫じゃないって思ったけど、生まれたばかりの赤ちゃんじゃあ無理よね」
「…………多分な」
虎竜というイレギュラーなドラゴンの子。
まだ例がないため、確かな事は語れないアラッド。
しかし、他のモンスターたちとあまり変わらないのであれば……強者は生まれながらにして強者だと、捕食者だと言える。
だが、それは成体まで成長したらの話。
まだ体は小さく、身に宿る魔力も十分に扱えず、実戦経験もないとなれば、卑劣な手段をも厭わない人間には……敵わない。
まだ決まった訳ではないが、それでもアラッドたちは仮定の話を考えながら……モヤモヤしたまま少し遅めの昼食準備を行う。
「……ねぇ、アラッド」
「なんだ、ガルーレ」
「私が思い付いた推察はさ、ディーナに伝えない方が良いんじゃないかな」
「どうし、て…………そうか。そうだな……まだ、確定ではないからな」
虎竜が身籠っている、もしくは子供がいるかもしれない。
だからといって、アラッドたちはディーナに虎竜を討伐するのを止めろとは言えない。
子供がいるのだから見逃すべき?
仮に全てのモンスターたちがそういった行動を取っているのであればともかく、モンスターは親であろうが子であろうが、親子が揃っていようとも、容赦なく人間を殺し、食らう。
であれば、人間側もそこに容赦をする必要はない。
容赦をする必要はない……それは解っている。
ディーナも解っているが、人間はモンスターとは違い、相手の立場に立って考えられる思いやりの心を持っている。
「知っちゃったら、やっぱり躊躇っちゃうのかな」
「……ちゃんと、人の心を持っている人だ。その可能性は十分にある…………そうだな。ガルーレ、伝えない方が良いと言ってくれたありがとう」
「急にどうしたの?」
「俺は……伝えておいた方が良いと思っててな。でも、そのせいでディーナさんが戦ってる最中に拳が鈍って、て思うと、な」
「なるほどね~~~。ディーナはなんも言わなそうだけど、そうなったらなったでアラッドは責任感じるよね~~」
オークの焼肉を頬張りながら、ガルーレはもし自分ならと、ふと考え込んだ。
(……ディーナは虎竜に両親を奪われたんだよね……自分は同じ事をするのか、もしくは自分がされたんだからしても当然、って思うのかな…………ん~~~~、そこまでは解らないな~~~)
復讐というものを体験したことがない三人。
対して……元から自然界という、殺し殺されの世界で生きてきた従魔三体。
三人とも人間の言葉を理解出来るからこそ、主人たちが悩んでるのであればと、自分たちも考え始めた。
虎竜を探し始めて二日目。
アラッドは襲ってきたオークの集団をロングソードで討伐しながら、昨日の夕食時にガルーレが口にした可能性について考えていた。
「お疲れ様、アラッド」
「おぅ」
「……もしかして、昨日ガルーレが言った事を考えてたのかな」
「あぁ、そうだ」
オークからすればふざけるなと怒号を上げたいところだが、既に全員首を切断されており、それは不可能だった。
「ねぇ、あれだよ。本当にあれは偶々思い付いただけだよ。アラッドちかみたいにこう……根拠のある推察? じゃないって」
「結果的に、ガルーレが思い付いた内容は、根拠が無きにしも非ずになった」
今回の戦闘も、オークの数は四体と……決して少なくはないが、それでもアラッドたちを相手に挑むには、かなり戦力が足りない。
それでも、オークたちの瞳から闘志が失われてはおらず、最後まで本気でアラッドを殺すつもりで戦った。
「…………何もない状態であれば、心配も薄かったんだがな」
「? 仮に私の推察が当たってたとしても、チャンスなのはチャンスなんでしょ」
「あぁ、そうだな。ディーナさんからしても、チャンスであるのは間違いないだろう。ただ……奴らまでそれを知ってるとなると、話は変ってくる」
奴ら、というのはゴリディア帝国の者たち。
何故彼らにそれを知られると面倒なのか……スティームは直ぐに察し、表情を歪めた。
「なるほど……そうだね。それは、知られたくないね」
「操られやすくなるから?」
「そうだな、確かにそうとも言える。身籠っていて体に気を遣わなければならない状態だと、洗脳の類による支配を行いやすくなる可能性が高くなるかもしれない。ただ……仮に既に生まれていた場合、奴らが子を人質に取るかもしれない」
「っ!! なるほど……そっか。そうね……うん、それはちょっと、あれだね」
何故知られてはいけないのかという理由を理解したガルーレは、スティームと同じ様に怒りで顔を歪めた。
「だろ。だから、なるべく早目に見つけておきたいんだが……今日も視線すら感じないな」
感知力はそこまで優れている自信はないアラッドだが、強者が向けてくる視線の種類に関して把握出来るようになっていた。
しかし、既に時刻は昼過ぎだが、今日もそれらしい視線を一度も感じない。
「……虎竜の子供なら大丈夫じゃないって思ったけど、生まれたばかりの赤ちゃんじゃあ無理よね」
「…………多分な」
虎竜というイレギュラーなドラゴンの子。
まだ例がないため、確かな事は語れないアラッド。
しかし、他のモンスターたちとあまり変わらないのであれば……強者は生まれながらにして強者だと、捕食者だと言える。
だが、それは成体まで成長したらの話。
まだ体は小さく、身に宿る魔力も十分に扱えず、実戦経験もないとなれば、卑劣な手段をも厭わない人間には……敵わない。
まだ決まった訳ではないが、それでもアラッドたちは仮定の話を考えながら……モヤモヤしたまま少し遅めの昼食準備を行う。
「……ねぇ、アラッド」
「なんだ、ガルーレ」
「私が思い付いた推察はさ、ディーナに伝えない方が良いんじゃないかな」
「どうし、て…………そうか。そうだな……まだ、確定ではないからな」
虎竜が身籠っている、もしくは子供がいるかもしれない。
だからといって、アラッドたちはディーナに虎竜を討伐するのを止めろとは言えない。
子供がいるのだから見逃すべき?
仮に全てのモンスターたちがそういった行動を取っているのであればともかく、モンスターは親であろうが子であろうが、親子が揃っていようとも、容赦なく人間を殺し、食らう。
であれば、人間側もそこに容赦をする必要はない。
容赦をする必要はない……それは解っている。
ディーナも解っているが、人間はモンスターとは違い、相手の立場に立って考えられる思いやりの心を持っている。
「知っちゃったら、やっぱり躊躇っちゃうのかな」
「……ちゃんと、人の心を持っている人だ。その可能性は十分にある…………そうだな。ガルーレ、伝えない方が良いと言ってくれたありがとう」
「急にどうしたの?」
「俺は……伝えておいた方が良いと思っててな。でも、そのせいでディーナさんが戦ってる最中に拳が鈍って、て思うと、な」
「なるほどね~~~。ディーナはなんも言わなそうだけど、そうなったらなったでアラッドは責任感じるよね~~」
オークの焼肉を頬張りながら、ガルーレはもし自分ならと、ふと考え込んだ。
(……ディーナは虎竜に両親を奪われたんだよね……自分は同じ事をするのか、もしくは自分がされたんだからしても当然、って思うのかな…………ん~~~~、そこまでは解らないな~~~)
復讐というものを体験したことがない三人。
対して……元から自然界という、殺し殺されの世界で生きてきた従魔三体。
三人とも人間の言葉を理解出来るからこそ、主人たちが悩んでるのであればと、自分たちも考え始めた。
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