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九百七十一話 止はしない

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「そうですね。俺らは目的通りそいつを探します。ただ、ディーナはディーナでそいつを探し続けてるでしょうから、どっちが先に見つけるかまでは解りませんよ」

「「「「「っ!?」」」」」

アラッドの言葉を聞いて、ディーナを含めてその場にいた冒険者たちの表情を崩れた。

そこまで驚くことなのか? と思われるかもしれないが、同業者たちはてっきりその権利を賭けて戦っているとばかり思っていた。
でなければ……あそこまで激しい戦いを行うことに意味はあるのかと、首を傾げてしまう。

「ちょ、ちょっと待て……どういう、事だ」

「どうもこうも、言った通りだ。俺たちは俺たちで探すが、ディーナはこれまで通り探せば良い」

「………………私としては、それは有難い。ただ、それなら…………」

色々と口にしたい言葉が溢れてくるも、思わず荒ぶりそうになってしまうため、口を噤む。

「色々と、言いたい事はあるかもしれない。ただな、俺は……まだ幸いなことに、家族や実家で俺を慕ってくれている者たち、貴族界隈で俺と仲良くしてくれた数少ない者たちや、冒険者として活動を始めてから知り合った者たちの死を体験したことがない」

もしかしたら既に……という可能性はある。
だが、本人の言う通り、まだその知らせを聞いたことはない。

「だからこそ、俺はディーナさんの気持ちを理解出来るなんて、軽々しく言えない」

「………」

「まぁ、個人的には話を聞いた限り、バカみたいに強いらしいので無謀な挑戦をしようとしている者がいれば制止の声ぐらいは掛けようかなと思いますけど……今日ディーナさんと戦ってみて、決して無謀な挑戦ではないと思いました」

虎竜に挑む。
その行動に対し、無謀な挑戦だとは思わない。

その言葉に、先程行われた試合を観ていたスティームたちは直ぐに頷いていた。
まだディーナが今より若い頃から知っている冒険者たちも、今のディーナならと、感慨深く頷いた。

「だからこそ、止めようとは思いません」

「そ、そうか……だが、それなら私と試合をした意味は?」

アラッドの考え、その考えに至った理由も理解出来る。

ただ、ディーナが零したようにそれはそれで、では何故試合を行ったのかという疑問が残る。

「俺たち三人の内、誰かと条件を交わして試合を行わなければ、ディーナさんとしてはもやもやを抱えたまま動くことになるでしょう」

「……そう、だな。それは否定出来ない」

「それと…………俺としては、ディーナさんの実力が気になったというのもあります」

実力が気になったからというアラッドの理由の一部を聞いて、直ぐに笑い出す冒険者、思わず固まってしまう者。
反応は様々であり、ディーナはまさかの理由に固まってしまった。

「それが……主な理由だったのか」

「ですね。それと、さっき言った様に本当に無謀だと断言出来るなら、一応制止の言葉を掛けたいです。ただ、やはり実際に手合わせしてみなければ解らない部分がありました」

アラッドはディーナの事を嘗めていた訳ではない。

ガルーレが試合を行えば、結果的に死闘になると思える相手を嘗めるなんてあり得ない。
しかし、集中して戦い続けることが出来れば、受けるダメージは全て打撲程度に抑えられると思っていた。

だが、結果として打撲や青痣だけではなく、右拳が思いっきり骨折するほどのダメージを負った。

(視ていれば結果は変っていたかもしれないが、それは言い訳にしかならない。それに…………ディーナさんには、まだまだ可能性を感じる)

観戦中にガルーレたちが感じていた違和感は、アラッドも同じく感じ取っていた。

「手を貸すという事は出来ませんが、それでもディーナさんがあれを探し、挑むことを止めようとは思えません」

まだ実際に虎竜の姿、戦闘光景を観たことがないため、絶対に勝てると……勝率はおそらくこれくらいと断言は出来ない。

だが、決して勝ち目がないとも断言出来ない。

「……そうか、ありがとう」

ディーナとしては、アラッドの優しさに甘えてしまったという罪悪感がある。

結果として二人とも脚や腕が切断される、折れる、粉砕骨折に至るほどの重傷を負うことはなかったが、それでも普段冒険者たちが行っている模擬戦と比べれば、ずっとハードな試合を行った。

にもかかわらず、試合に勝利したアラッドは得る者がない。

ディーナは、自分の獲物を短期間の間ではあるが、奪われずに済む。
それだけで十分であった。

しかし、勝者となったアラッドは結果的に自分は何もいらないと断言した。

「…………何か、困ったことがあれば、言ってくれ。出来る限り、助けになろう」

まだ出会ったばかりということもあり、アラッドが何を欲しているのか分からない。
だからこそ、ディーナは困った事があれば助けになると返した。

「……それなら、死なないでくれると助かる」

「? それは……どういう事だ」

「あれに挑むなと言ってるわけじゃない。ただ、いずれ必要になる。ディーナさんたちの様な猛者たちの力が」

その言葉から、詳細まで汲み取れた者はいなかった。
ただ、察しの良い者たちは、その願いは決してアラッドにとってメリットになる頼みではないことは解った。
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