上 下
968 / 985

九百六十六話 求める理由

しおりを挟む
「ッ!! それが、噂の鬼火、かッ!!!」

「……チッ」

ディーナはここぞというタイミングで身体強化と剛腕のスキルを同時に発動。
そして、全身に魔力を纏い……一部の鬼人族だけが使える火、鬼火を四肢に纏った。

(この男も、ほぼ同時に、強化系スキルを発動、しやがった……こいつの眼は、どうなってんだい!!!!)

まだ……手札はある。
それでも、急に身体強化系のスキルを二つ同時に発動し、鬼火まで使えば一気に均衡を崩せると思っていたディーナ。

しかし、アラッドはディーナが自身を強化したタイミングとほぼ同時に、同じく身体強化系のスキルを発動し、魔力を纏い……鬼火に対抗するため、四肢に風を纏った。

ディーナからすれば、絶好のタイミングであり、これで崩せるという自信があった。
それでもアラッドはほぼ同タイミングで自身を強化し、見事対応。
ディーナは自身のどこから発動するタイミングを読まれたのか……ほんの少しだけ考えるも、直ぐに目の前の男に意識を集中させる。

(この男が、咄嗟に反応して、対応された。それが事実だ!!)

実際のところ……アラッドは持ち前の反応速度、もしくは勘でディーナの自己強化に対応したわけではなかった。

眼は雄弁に語る。

どこかしらのタイミングで強化系スキルを発動し、自身のリズムをつくろうとする。
その戦法を行うことは、身体強化による急加速に慣れている者でなければ実行できない戦法ではあるが……アラッドの実家に属する騎士たちの多くはそれが行える。

アラッドに忠誠を誓っているガルシアたちも同じようなことが出来る為、どういったタイミングで発動してくるか……上手く表情を隠していたとしても、目力や呼吸の変化などである程度は予想出来るようになっていた。

(これが、鬼火か…………なんとなく、対抗しようと、して、火を纏わなくて、正解だったな)

鬼人族が扱う火、鬼火に関してアラッドも少しは聞いたことがあった。

鬼の火は……他者の火を喰らうと。

普段のアラッドであれば本当にそうなのかと、喰い尽くせない炎を纏ってやると息巻いていたかもしれない。
だが、結果的にアラッドは火ではなく風を纏うという選択を取り、それで良かったと感じた。

(忌避感、っていうのか? そんな背筋に冷たさを、感じる何かが、あるな……地獄の炎、といったところか?)

幸いにも、鬼火が喰らうのは火のみで、風まで喰らうことはない。
ただ、身体強化だけではなく剛腕という腕力強化スキルまで発動したことで、ディーナの放つ一撃の威力が更に上昇。

アラッドから見て、今のディーナは鬼火という特殊技を除いても、無意識に笑みを零す……そんな攻撃を放っていた。

(スピードに関して、は……まだ、ガルーレの方が、上か? ただ、パワーは、完全にガルーレを、上回ってる、だろうな)

三人の中で、現時点で一番パワーが上なのはアラッドであり、その次にガルーレが入ってくる。
人は見た目によらないという言葉が相応しく、ガルーレは見た目以上のパワーを有しており、そこら辺の巨漢よりも腕力は上。

ただ、ガルーレと出会ってそれなりに模擬戦を行ってきたからこそ、解る。
ペイル・サーベルスというガルーレの切り札を除けば、現時点では間違いなくディーナ方がパワーは上だと。

(それに…………思ったより、中々、決まってくれない、な)

四肢に、脚に風を纏ったことで、アラッドの脚力が強化された。
まだ真正面から打撃戦を行ってはいるが、先程までとは異なり、アラッドはフットワークを生かしながら攻めていた。

それもあって、アラッドの打撃は徐々にディーナにヒットするようになっていったが……未だにクリーンヒットはなく、どれも太ももや腕でガードされている。

(野性の勘か……いや、野性の勘で済ませても良いものか?)

あからさまに左拳を強く握りしめながらハイキック……と見せかけ、ミドルキックを叩き込む。

「ッ!! ジッ!!!!!」

(っ!! また、か)

試合が始まったばかりの頃と比べて、ディーナがアラッドの攻撃を回避することが減るも、やはり未だにクリーンヒットはせず。

(何が違う……戦闘経験数、なら……俺は負けてない、筈だ)

積み重ねてきた努力、実戦の数。
それはアラッドにとって明確な自信である。

ベテラン、四十代に入ってもまだ現役の戦闘者であればともかく、同じ十代や二十代前半の者たちと比べれば、確かにアラッドが積み重ねてきた実戦数は勝っている。

では、アラッドとディーナ……二人にある明確な違いとは何か。
戦闘中であるアラッドは、ふと……何故自分とディーナが戦っているのを思い出し……小さな笑みを零した。

(そうか……そうだな。俺と、こいつとでは……そこが、明らかに違う)

アラッドがこれまで積み重ねてきたものは、他者と比べても分厚い。

だが、その積み重ねてきた理由は……好奇心からくるものが大半の理由だった。
しかし……ディーナは違う。

ディーナは両親の仇である虎竜を殺すという、明確な理由を持ち、強さを求めていた。

「ッ!! フンッ!!!!!!!!」

「っ!!!???」

なるほどなるほどとアラッドが感心していると、ここにきて鬼火の斬撃波を手刀から繰り出すという遠距離攻撃を放ち、アラッドが右側に回避するように誘導。

そのタイミングに合わせ、ディーナの渾身のハイキックが叩き込まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...