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九百五十六話 ……数年後には
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「アラッド兄さんを追い詰めるモンスター、か……ワクワクするわね!!!」
シルフィーの反応に対し、アレクは苦笑いを浮かべ、アッシュは軽くため息を吐いた。
シルフィーらしい反応と言えば反応なのだが、兄弟姉妹であるアッシュとしては、もう少し視野を広く持ってほしい。
「シルフィー、おそらくだけどこの闇竜は、君と相性がかなり悪い」
「なんで? 扱う魔力の属性なら……確かに有利とは言えないけど、悪くはない筈よ」
風属性の魔力を扱うのが得意なシルフィーにとって、確かに闇属性のモンスターは可もなく不可もないといったところ。
決して属性相性が不利な相手ではなかった。
「そうだね。でも、この闇竜は物理的ではなく……絡め手ではアラッド兄さんよりも一枚上手だった。これがどういう意味か、解るでしょ」
「むっ…………………………熱くなって、私も狂気? を暴走させられるかもしれないってことね」
令嬢の中では雑、大雑把なところがあるシルフィーだが、戦闘においては一応考えられる頭を持っている。
これまでの自分の戦いっぷりを振り返り、猪突猛進タイプだと自己分析することは出来る。
「狂気を暴走させられるのか、幻覚を見せられるのか……とにかく、シルフィーに気付かれずに実行出来る可能性が高いだろうね」
「……アッシュなら、勝てる?」
「無茶を言うな。無理に決まってるだろ」
即答である。
シルフィーとしても、絶対に勝てるといった感じの答えが返ってくるとは思っていなかったが、それでもここまで即答であり得ないと、無理だと断言されるとは思っていなかった。
「シルフィー……リザード戦った事があるでしょ」
「あったわね」
「亜竜と呼ばれるリザードで、あれだけの強さを持っているんだ」
「でも、アッシュは私より強いじゃない」
悔しさはある。
いつかは勝つと決めているものの、いつかと……今は勝てない現状に対して、確かな悔しさは感じていた。
だが、それでも現実を認められないほど愚かもでもない。
「……数年後には、どうなってるか解らないよ。少なくとも、対モンスターとなれば、シルフィーの方が強くなっててもおかしくないよ」
アッシュにはセンスが……天賦の才があるといっても過言ではない。
だが、そんな自分の戦闘に関する才に興味がなく、あるのは錬金術のみ。
それに対し、シルフィーは兄や姉たちと同様に、興味が戦闘に全振り……はやや言い過ぎではあるが、強い興味を持ち続けている。
興味があるか否か、その差は確実に成長に現れる。
「そ、そう……なんですか?」
自分よりも強いアッシュにそういう事を言われるのは……それはそれで悪くない。
しかし、いまいちまだ自信を持てないシルフィーは経験豊富な教師であるアレクに視線を向ける。
「そうだね……モンスターのタイプにもよるけど、大型タイプのモンスターに関しては、シルフィーの方が安定して討伐出来るようになるだろうね」
シルフィーが主に扱う得物は大剣。
一撃の破壊力が凄まじく、それでいて扱うシルフィーは鈍足ではなく、軽快に戦場を駆け回る健脚を有している。
「そうなん、ですね……」
「とりあえず、僕でもアラッド兄さんが戦った闇竜に勝つのは無理だよ。レイさんたちが全員で挑んだとして…………二割から三割ぐらいなんじゃないかな」
「そんなに低いの?」
中等部と高等部で校舎は違うが、兄であるアラッドの友人たちということもあり、シルフィーはよくレイたちが使っている訓練場にお邪魔し、レイたちと一緒に訓練を……模擬戦を行っている。
レイの実力は勿論、ベルたちの実力も身に染みて知っている。
「駆け引きでアラッド兄さんの一歩上にいったんだ。素の状態で戦うことはないでしょ」
「えっと……あっ、闇竜もマジックアイテムを装備するってことね!!!」
「多分ね。まぁ、それならレイさんたちもマジックアイテムを装備すれば良いじゃんってことになるけど……それでも、可能性はあまり変わらないんじゃないかな」
「…………そうだね。アッシュの言う通りだと思うよ」
アレクはシルフィーの大剣を借り、じっくりと眺める。
(………………闇竜、としか書かれてないから詳しくは解らないけど、一部の能力に関しては、Aランクに片足を踏み込んでるんじゃないかな? 仮に本当にそうなら…………作戦を練りに練って、短期決戦で挑んで……それでも、一割から二割ってところかな)
アレクからすれば、アッシュの二割から三割というのは、やや甘い計算だった。
(もし、逆鱗に触れてしまおうものなら、間違いなく可能性はゼロだね)
早い段階で騎士を引退して教師という職に就いたアレクだが、現役時代は常に最前線で戦い続けるような生活を送っており、過去に逆鱗状態になったドラゴンとの戦闘経験があった。
「…………」
「? アレク先生、どうかしましたか」
「っ、なんでもないよ。ちょっと昔の経験を思い出してね」
思い出すと、今でも身震いしてしまう。
(アラッドなら、今後出会うドラゴンもそうなる前に討伐出来ると思うけど…………でも、アラッドの性格的に、逆に好奇心でその状態を引き起こしてしまうか?)
元教え子ならやりかねないと思い、無意識にため息を零すアレクだった。
シルフィーの反応に対し、アレクは苦笑いを浮かべ、アッシュは軽くため息を吐いた。
シルフィーらしい反応と言えば反応なのだが、兄弟姉妹であるアッシュとしては、もう少し視野を広く持ってほしい。
「シルフィー、おそらくだけどこの闇竜は、君と相性がかなり悪い」
「なんで? 扱う魔力の属性なら……確かに有利とは言えないけど、悪くはない筈よ」
風属性の魔力を扱うのが得意なシルフィーにとって、確かに闇属性のモンスターは可もなく不可もないといったところ。
決して属性相性が不利な相手ではなかった。
「そうだね。でも、この闇竜は物理的ではなく……絡め手ではアラッド兄さんよりも一枚上手だった。これがどういう意味か、解るでしょ」
「むっ…………………………熱くなって、私も狂気? を暴走させられるかもしれないってことね」
令嬢の中では雑、大雑把なところがあるシルフィーだが、戦闘においては一応考えられる頭を持っている。
これまでの自分の戦いっぷりを振り返り、猪突猛進タイプだと自己分析することは出来る。
「狂気を暴走させられるのか、幻覚を見せられるのか……とにかく、シルフィーに気付かれずに実行出来る可能性が高いだろうね」
「……アッシュなら、勝てる?」
「無茶を言うな。無理に決まってるだろ」
即答である。
シルフィーとしても、絶対に勝てるといった感じの答えが返ってくるとは思っていなかったが、それでもここまで即答であり得ないと、無理だと断言されるとは思っていなかった。
「シルフィー……リザード戦った事があるでしょ」
「あったわね」
「亜竜と呼ばれるリザードで、あれだけの強さを持っているんだ」
「でも、アッシュは私より強いじゃない」
悔しさはある。
いつかは勝つと決めているものの、いつかと……今は勝てない現状に対して、確かな悔しさは感じていた。
だが、それでも現実を認められないほど愚かもでもない。
「……数年後には、どうなってるか解らないよ。少なくとも、対モンスターとなれば、シルフィーの方が強くなっててもおかしくないよ」
アッシュにはセンスが……天賦の才があるといっても過言ではない。
だが、そんな自分の戦闘に関する才に興味がなく、あるのは錬金術のみ。
それに対し、シルフィーは兄や姉たちと同様に、興味が戦闘に全振り……はやや言い過ぎではあるが、強い興味を持ち続けている。
興味があるか否か、その差は確実に成長に現れる。
「そ、そう……なんですか?」
自分よりも強いアッシュにそういう事を言われるのは……それはそれで悪くない。
しかし、いまいちまだ自信を持てないシルフィーは経験豊富な教師であるアレクに視線を向ける。
「そうだね……モンスターのタイプにもよるけど、大型タイプのモンスターに関しては、シルフィーの方が安定して討伐出来るようになるだろうね」
シルフィーが主に扱う得物は大剣。
一撃の破壊力が凄まじく、それでいて扱うシルフィーは鈍足ではなく、軽快に戦場を駆け回る健脚を有している。
「そうなん、ですね……」
「とりあえず、僕でもアラッド兄さんが戦った闇竜に勝つのは無理だよ。レイさんたちが全員で挑んだとして…………二割から三割ぐらいなんじゃないかな」
「そんなに低いの?」
中等部と高等部で校舎は違うが、兄であるアラッドの友人たちということもあり、シルフィーはよくレイたちが使っている訓練場にお邪魔し、レイたちと一緒に訓練を……模擬戦を行っている。
レイの実力は勿論、ベルたちの実力も身に染みて知っている。
「駆け引きでアラッド兄さんの一歩上にいったんだ。素の状態で戦うことはないでしょ」
「えっと……あっ、闇竜もマジックアイテムを装備するってことね!!!」
「多分ね。まぁ、それならレイさんたちもマジックアイテムを装備すれば良いじゃんってことになるけど……それでも、可能性はあまり変わらないんじゃないかな」
「…………そうだね。アッシュの言う通りだと思うよ」
アレクはシルフィーの大剣を借り、じっくりと眺める。
(………………闇竜、としか書かれてないから詳しくは解らないけど、一部の能力に関しては、Aランクに片足を踏み込んでるんじゃないかな? 仮に本当にそうなら…………作戦を練りに練って、短期決戦で挑んで……それでも、一割から二割ってところかな)
アレクからすれば、アッシュの二割から三割というのは、やや甘い計算だった。
(もし、逆鱗に触れてしまおうものなら、間違いなく可能性はゼロだね)
早い段階で騎士を引退して教師という職に就いたアレクだが、現役時代は常に最前線で戦い続けるような生活を送っており、過去に逆鱗状態になったドラゴンとの戦闘経験があった。
「…………」
「? アレク先生、どうかしましたか」
「っ、なんでもないよ。ちょっと昔の経験を思い出してね」
思い出すと、今でも身震いしてしまう。
(アラッドなら、今後出会うドラゴンもそうなる前に討伐出来ると思うけど…………でも、アラッドの性格的に、逆に好奇心でその状態を引き起こしてしまうか?)
元教え子ならやりかねないと思い、無意識にため息を零すアレクだった。
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