上 下
953 / 1,023

九百五十一話 どうだったの

しおりを挟む
「……アラッド、最後に一つお聞きしても良いですか」

「? 何を聞きたいんだ」

もうそろそろフローレンスたちが泊っている宿に到着する。
そんなタイミングで、フローレンスは真剣な表情でアラッドに一つ尋ねた。

「アラッドは……戦争に対して、どのように思いますか」

「…………訊きたい事が、山ほどあるって感じだな」

「ふふ、そうとも言えますね」

アラッドの言う通り、フローレンスはアラッドに尋ねてみたいことがまだまだ他にもあった。
だが、もうそろそろ宿に着くと解っているからこそ、一つだけ尋ねることにした。

「基本的に、民がそれ望ことではない。勿論、俺たち貴族や権力者たちの中にも、望まない者はいる」

ハッキリと、権力者たちの児戯……とはさすがに言わなかったアラッド。

「とはいえ、今回俺たちは流れ的に攻められる側だ。であれば、受けて立つしか道はない」

「そう、なりますね」

「…………俺は、少しでも早く終わらせるために動く」

「なるべく敵と遭遇せずに、ですか?」

「物事は、そう上手くいかないだろう。だからこそ、遭遇した者たちは、基本的に殺す」

躊躇うことはなく、アラッドは戦場で遭遇した同業者や騎士を殺すと口にした。

「そこを躊躇えば……逃げた者たちが、知り合いたちを殺すかもしれない」

アラッドには冒険者の知り合いだけではなく、騎士の知り合いたちもいる。

手負いの獣は恐ろしく、アラッドの知人たちであっても、殺られる可能性は決して低くない。

「多分、良い気分ではないだろうな。それでも、それは早く終わらせることでしか、不満を解消することは出来ない」

盗賊という人間を殺すのとでは訳が違う。

ここまで平然とした表情で語っているアラッドではあるが、思うところが全くないわけではない。

「……ですね」

「フローレンス、お前は……殺れるか?」

「勿論、殺れます」

アラッドの問いに、フローレンスは真っすぐ……凛とした表情で答えた。

フローレンスも同じく、戦場と言う場とはいえ、罪もない者を殺すことに関して、思うところはある。
だが、その思いが……弱さが、民を……同僚を殺してしまうかもしれない。
それが解らない程、愚かではなく、脳内がお花畑でもなかった。

「ふふ、そうか」

あれこれ話している内に、フローレンスたちが泊っている宿に到着した。

「では、また」

「……そうだな。またな」

また近いうちに会う。
それを解っているからこそ、アラッドは素直にまたなと返し、自身が泊っている宿へと向かった。




「で、どうだったの」

「何がだよ」

翌朝、朝食を食べている際、ガルーレは身を乗り出しながら尋ねた。

昨日……フローレンスと何かなかったのかと。

「アラッドのことだから、フローレンスさんを宿まで送ってってあげたんでしょ」

「そうだな。あいつに勝てる男なんて殆どいないだろうが、一応夜道ではあるからな」

実際に本気でぶつかり合った事があるアラッドだからこそ、本当にフローレンスに敵う男など、殆どいないと思っている。

「で、どうだったのさ」

「どうだったって……何がだ。言っておくが、ただ話しながら、あいつを泊っている宿まで送っていっただけだぞ」

「……ちぇっ、な~~~んだ。つまんないの」

なんとなくアラッドは噓を付いてにないと解り、ガルーレは本当につまらなさそうにため息を吐いた。

「お前な~~~……俺とあいつは、なんもないんだよ」

「本当~~? ぶっちゃけ、お風呂上がりのフローレンスにドキっとしたりしたんじゃないの?」

「あいつが風呂上がりでも綺麗なのは認めるが、そういう感覚はなかったな」

アラッドは基本的にこれまで社交界に殆ど参加せず、他の貴族たちと比べて腹芸が得意ではない。

だが、全く噓が付けないという訳ではなく、堂々と風呂上がりのフローレンスにドキっとしたことを隠した。

「ふ~~~~ん? あっ、そういえば昨日スティームに聞いたんだけど、次は虎竜を探しに行くんだって?」

「そうだ。ワクワクしてくるだろ」

「勿論!!!」

満面の笑みを浮かべるガルーレに釣られ、アラッドとスティームも笑みを零す。

風竜ルスト、闇竜デネブの討伐に関しては、本当に依頼を受けた上での討伐……使命といった感覚が近かった。
しかし、虎竜……この特殊なドラゴンに関しては、探す上で冒険という感覚が強い。

だからこそ、三人とも冒険者としての血が騒いでいた。

「今回アラッドが戦った闇竜も強かったけど、多分虎竜はもっと強いよね!!」

「まぁ……かもしれないな」

虎竜を探す、討伐する。
その事に関してワクワクしているのは間違いなく、否定出来ない。

しかし、実際に本気になった闇竜デネブと戦った事があるアラッドからすると……闇竜デネブは、本当に強かった。
だからこそ、あれ以上強いとなると……自分たちが遭遇するまでに起こるであろう被害が心配になる。

(自己責任とはいえ、デネブより強いとなるとなぁ………………いや、でも……うん、強いだろうな~~~~~~)

竜虎相まみえる……といった言葉として、強者の存在として用いられる竜と虎。

そんな二つの存在の特徴を併せ持つモンスターなど、強くないわけがなかった。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...