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九百四十四話 それ相応の物
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「とりあえず、俺はそういった提案をされたとしても、断るつもりだ」
男爵などの、本当の意味で貴族への昇進を提案されたとしても、アラッドは本気で断るつもりだった。
「私は貴族のあれこれに関して詳しくないけど、そういうのって断れるものなの?」
当然のことながら、男爵などの爵位の授与、昇位に関して最終的な決定を下すのは国王陛下である。
そんな国のトップからの提案を断れるのかと思うのは、至極当然の疑問であった。
「アラッドは、国王陛下と面識があるんだったよね」
「一応な」
「それもあって、そういう提案をしても断れるってことかな?」
「別に……特別親しい仲という訳ではない。ただ、俺は既に自分の地位に満足している」
侯爵家の令息であることに加えて、騎士の爵位も持っている。
アラッドからすれば、政治的な観点から自分の身を守るには、本当にそれで十分だった。
「後、俺は…………多くの貴族から好かれるタイプではない」
「それは……どうなの?」
貴族の世界に詳しくないガルーレは首を傾げて周囲を見回すが、スティームやフローレンスたちはなんとも言えない表情をしていた。
「そんな俺が、男爵の爵位まで持ってみろ。面白く思わない奴が増えて、実家にまで迷惑を掛けるかもしれない」
アラッドにとって、それが一番避けたいことである。
基本的に爵位を授与されることを喜ばない者はいないが、アラッドは家族に迷惑が掛かるかもしれないという理由で、拒否したいと思っている。
謙虚な男だと思うべきか、自信過剰な男だと思うか意見が別れるところではあるが……少なくとも、フローレンスたちの感想は前者である。
「な~るほどね~~~~。まっ、男爵とか子爵? とかになって、領地を持ったりしても面倒なだけだもんね~~~」
「そうだな。俺は冒険者として生涯を終えたい」
領地経営を行っている者たちをバカにしているわけではない。
ただ、自分なら執務室で書類仕事を延々と行うなど、絶対に耐え切れないと断言出来る。
(冒険者として生涯を終えたい、ですか…………なんともアラッドらしい答えですね。ですが……そうなると、国王陛下としては少し困るでしょうね)
フローレンスの見立てでは、ゴリディア帝国との戦争が始まれば、絶対にアラッドは強敵と呼べる者たちを倒し、戦果を上げる。
そうなると、既に騎士の爵位を持っており、冒険者とは別の道で大金を稼いでいるとなると……褒美として渡せる物が、基本的に男爵などの爵位になってしまう。
だが、それを要らないと言われてしまう、では何を渡せば良いのかという問題に発展する。
本人が必要なと言っているなら、何も渡さなくても良いのでは? と思うかもしれないが、国を纏める王という立場上……活躍した者に対して褒美を渡さないというわけにはいかない。
(アラッドは冒険者ですから、武器やマジックアイテムを渡すという形も取れますけど…………アラッドレベルの冒険者になると、それ相応の物が必要になりますよね)
アラッドクラスの冒険者が役立つと感じる武器、マジックアイテム。
それは寧ろ、爵位を授与するよりも用意が大変な可能性がある。
「アラッドらしくて良いじゃん。でも、アラッドの兄弟姉妹の中だと、他にもアッシュ君とかも可能性がありそうだよね」
「……可能性はあるかもしれないが、あいつの場合は俺と違って余計な事に首を突っ込もうとしないタイプだからな」
兄であるアラッドの言う通り、アッシュは基本的に余計なことに首を突っ込もうとしない。
仮に……ゴリディア帝国以降、また別の国と戦争が起こったとしても、なんとかして戦争に参加しない様に動く。
そういった人物であり、そもそも騎士や冒険者を目指していないアッシュからすれば、寧ろ当然のムーブであった。
「とにかく、俺もアッシュも今以上の立場を求めたりはしない」
「……であれば、アラッドは何が欲しいのかを決めておいた方が良いですね」
「欲しい物をか?」
「えぇ、そうです。自身で口にした通り、アラッドは自分で余計な事に首を突っ込むタイプでしょう。そうなると、これから先冒険者として更に功績積み重ねていくのは目に見えています」
フローレンスの言葉に、スティームやガルーレはうんうんと、何度も頷き同意する。
「その土地の領主や、冒険者ギルドのギルドマスター、国のトップである国王陛下たちはアラッドにその報酬を渡さなければなりません」
「特に必要ない……って答えるのはあり得ない、か」
「えぇ、その通りです」
現在冒険者として活動しているアラッドではあるが、一応貴族の令息。
その辺りの事情は解らなくはない。
(欲しい物……欲しい物、か)
美味い料理を食べながら、自身が欲しい物を頭の中に浮かべていく。
(武器……つっても、渦雷に羅刹、迅罰があるからな……他にあっても特に問題はないけど、下手に増やし続けるのもなぁ…………そうなると、新しい武器が欲しいと思った時に使える素材か?)
フローレンスに言われた通り、欲しい物リストを頭の中に浮かべていくが、そのどれも容易に手に入る物ではなかった。
男爵などの、本当の意味で貴族への昇進を提案されたとしても、アラッドは本気で断るつもりだった。
「私は貴族のあれこれに関して詳しくないけど、そういうのって断れるものなの?」
当然のことながら、男爵などの爵位の授与、昇位に関して最終的な決定を下すのは国王陛下である。
そんな国のトップからの提案を断れるのかと思うのは、至極当然の疑問であった。
「アラッドは、国王陛下と面識があるんだったよね」
「一応な」
「それもあって、そういう提案をしても断れるってことかな?」
「別に……特別親しい仲という訳ではない。ただ、俺は既に自分の地位に満足している」
侯爵家の令息であることに加えて、騎士の爵位も持っている。
アラッドからすれば、政治的な観点から自分の身を守るには、本当にそれで十分だった。
「後、俺は…………多くの貴族から好かれるタイプではない」
「それは……どうなの?」
貴族の世界に詳しくないガルーレは首を傾げて周囲を見回すが、スティームやフローレンスたちはなんとも言えない表情をしていた。
「そんな俺が、男爵の爵位まで持ってみろ。面白く思わない奴が増えて、実家にまで迷惑を掛けるかもしれない」
アラッドにとって、それが一番避けたいことである。
基本的に爵位を授与されることを喜ばない者はいないが、アラッドは家族に迷惑が掛かるかもしれないという理由で、拒否したいと思っている。
謙虚な男だと思うべきか、自信過剰な男だと思うか意見が別れるところではあるが……少なくとも、フローレンスたちの感想は前者である。
「な~るほどね~~~~。まっ、男爵とか子爵? とかになって、領地を持ったりしても面倒なだけだもんね~~~」
「そうだな。俺は冒険者として生涯を終えたい」
領地経営を行っている者たちをバカにしているわけではない。
ただ、自分なら執務室で書類仕事を延々と行うなど、絶対に耐え切れないと断言出来る。
(冒険者として生涯を終えたい、ですか…………なんともアラッドらしい答えですね。ですが……そうなると、国王陛下としては少し困るでしょうね)
フローレンスの見立てでは、ゴリディア帝国との戦争が始まれば、絶対にアラッドは強敵と呼べる者たちを倒し、戦果を上げる。
そうなると、既に騎士の爵位を持っており、冒険者とは別の道で大金を稼いでいるとなると……褒美として渡せる物が、基本的に男爵などの爵位になってしまう。
だが、それを要らないと言われてしまう、では何を渡せば良いのかという問題に発展する。
本人が必要なと言っているなら、何も渡さなくても良いのでは? と思うかもしれないが、国を纏める王という立場上……活躍した者に対して褒美を渡さないというわけにはいかない。
(アラッドは冒険者ですから、武器やマジックアイテムを渡すという形も取れますけど…………アラッドレベルの冒険者になると、それ相応の物が必要になりますよね)
アラッドクラスの冒険者が役立つと感じる武器、マジックアイテム。
それは寧ろ、爵位を授与するよりも用意が大変な可能性がある。
「アラッドらしくて良いじゃん。でも、アラッドの兄弟姉妹の中だと、他にもアッシュ君とかも可能性がありそうだよね」
「……可能性はあるかもしれないが、あいつの場合は俺と違って余計な事に首を突っ込もうとしないタイプだからな」
兄であるアラッドの言う通り、アッシュは基本的に余計なことに首を突っ込もうとしない。
仮に……ゴリディア帝国以降、また別の国と戦争が起こったとしても、なんとかして戦争に参加しない様に動く。
そういった人物であり、そもそも騎士や冒険者を目指していないアッシュからすれば、寧ろ当然のムーブであった。
「とにかく、俺もアッシュも今以上の立場を求めたりはしない」
「……であれば、アラッドは何が欲しいのかを決めておいた方が良いですね」
「欲しい物をか?」
「えぇ、そうです。自身で口にした通り、アラッドは自分で余計な事に首を突っ込むタイプでしょう。そうなると、これから先冒険者として更に功績積み重ねていくのは目に見えています」
フローレンスの言葉に、スティームやガルーレはうんうんと、何度も頷き同意する。
「その土地の領主や、冒険者ギルドのギルドマスター、国のトップである国王陛下たちはアラッドにその報酬を渡さなければなりません」
「特に必要ない……って答えるのはあり得ない、か」
「えぇ、その通りです」
現在冒険者として活動しているアラッドではあるが、一応貴族の令息。
その辺りの事情は解らなくはない。
(欲しい物……欲しい物、か)
美味い料理を食べながら、自身が欲しい物を頭の中に浮かべていく。
(武器……つっても、渦雷に羅刹、迅罰があるからな……他にあっても特に問題はないけど、下手に増やし続けるのもなぁ…………そうなると、新しい武器が欲しいと思った時に使える素材か?)
フローレンスに言われた通り、欲しい物リストを頭の中に浮かべていくが、そのどれも容易に手に入る物ではなかった。
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