941 / 1,023
九百三十九話 二つの財布から
しおりを挟む
「どうやら、間に合ったようだな」
そろそろ査定も終わりそうな頃、解体倉庫に一人の男性が訪れた。
(……元冒険者って感じの人だな)
アラッドはその人物が偉いか否かを考えるのではなく、まず身に纏う空気がやや自分たち冒険者に似ていると感じた。
「ギルドマスター、どうされましたか?」
「どうもこうも、報告を受けてな。脅威を始末してくれた英雄たちに直接感謝を伝えなければならないというものだろう」
ガッチリ体型の男性は、ゴルドスの冒険者ギルドのギルドマスター。
彼が言う事はもっともであるが……なにより、立場的にも彼は直接礼を伝えなければならない。
現在、アラッドは冒険者ギルドという組織に属する一冒険者ではあるが、今でも侯爵家の令息という立場は変わらない。
それはフローレンスも同じであり、現在は優秀な一騎士として活動しているが、公爵家の令嬢という事実は消えていない。
といった理由もあり、彼はわざわざ直接礼を伝えに来た。
「アラッド君、フローレンスさん。そして共に戦った方々……闇竜とその配下を討伐して頂き、本当に感謝している」
「……感謝の言葉、確かに受け取りました」
「私も同じく」
アラッドは侯爵家の令息云々は置いておき、自分よりも立場が上に当たるで人物に長い間頭を下げられるのは気分が悪く、とりあえず感謝の言葉は受け取ったから早く頭を上げてくれと思っていた。
「本当に、感謝しているよ」
頭を上げてからも、再度感謝の言葉を伝えるギルドマスター。
彼は……特にアラッドたちに感謝していた。
「アラッド君、スティーム君、ガルーレ君。よくこの時期に、フローレンスさんたちと同じタイミングでゴルドスに来てくれた」
情報源の元はアラッドたちではあるが、フローレンスさんたちが闇竜を討伐する為に派遣されることは、相性的にもほぼ確定であった。
だが、アラッドに関してはまだ雪竜グレイスに教えてもらった、ヤバい竜リストには他のドラゴンもいるため、今回ゴルドスを訪れたのは本当に偶々運が良かったという話。
アラッドはそんな感謝されても困るというのが正直なところではあるが、ギルドマスターからすれば本当に感謝しかない。
「ギルドマスターの言う通りですね。私たちにとっても、アラッドたちがこの時期に来てくれて本当に良かったです」
ギルドマスターが言えない事を、サラッと言ってくれたフローレンス。
闇竜やその他の黒色モンスターの数や強さを知った上で、ギルドマスターはフローレンスたちだけでは討伐が不可能……最悪、部下たちを逃がす為に一人で闇竜たちを相手にし……そのまま戦死という可能性もあった。
騎士が戦場で死ぬ。
それは何処でも、どの戦場で起こりうる可能性がある。
だが、公爵家の令嬢であり、騎士としてもその将来を期待されている人物が死んだとなれば……色々と面倒なことになっていた。
「偶々ですよ」
「だとしても、本当に助かった。これは、その気持ちだ。特別報酬として、是非受け取って欲しい」
「特別報酬、ですか……俺たちとしては嬉しいですけど、ギルドの財布……もしくはギルドマスターの財布的に大丈夫なんですか?」
「あぁ、勿論だ。それに、英雄たちがそんな事を気にするものではないよ。では」
クールに執務室へ戻って行ったギルドマスターだが、特別報酬にはギルドの財布からと、ギルドマスターのこういった時の為に貯めていた財布の両方から取り出していたため、実際のところ内心では汗をかいていた。
「…………本当に大丈夫なのか気になるけど、まぁ、もう貰ってしまったからな」
袋の中身を確認すると、中には多数の金貨だけではなく、白金貨まで入っていた。
「わぉ!! あのギルドマスター、随分太っ腹ね」
「場合によっては、最寄りの街であるゴルドスが最初の犠牲になっていたかもしれないからね。その危険性を考えると、妥当なんじゃないかな」
白金貨はたった数枚ではなく、十枚と少し入っていた。
Bランクモンスターを複数討伐したとはいえ、特別報酬としては中々破格の額である。
「だな……それじゃあ、何を売って何を残すか決めないとな」
アラッドたちがギルドマスターと話している間に、素材の査定は全て終了。
だが、アラッドたちは全ての素材を売却するとは決めていない。
「フローレンス、お前たちもお前たちで決めろよ。別に全部売りたかったらそれでも良いけどな」
「私は少し考えます。ソルたちも、自分たちで討伐したモンスターの素材に関してどうするか、各々の判断に任せます」
騎士たちも己の得物や防具を店で買うこともあるが、鍛冶師に直接オーダーメイドすることもある。
ソルたちがウィリアスを除いて六人で討伐したのに対し、相手をしたモンスターはオークジェネラル、ブラックウルフ、コボルトナイトにガーゴイル、スケルトンメイジやヒポグリフ、ホワイトスネークとオーガウォーリアーにリザードと種類が豊富。
闇の力を授かり、それなりに体に馴染んでいたこともあり、同じ種のモンスターよりも素材の価値が高い。
スティームたちも含め、その辺りをじっくり考え、何を売って何を残すか決めていった。
そろそろ査定も終わりそうな頃、解体倉庫に一人の男性が訪れた。
(……元冒険者って感じの人だな)
アラッドはその人物が偉いか否かを考えるのではなく、まず身に纏う空気がやや自分たち冒険者に似ていると感じた。
「ギルドマスター、どうされましたか?」
「どうもこうも、報告を受けてな。脅威を始末してくれた英雄たちに直接感謝を伝えなければならないというものだろう」
ガッチリ体型の男性は、ゴルドスの冒険者ギルドのギルドマスター。
彼が言う事はもっともであるが……なにより、立場的にも彼は直接礼を伝えなければならない。
現在、アラッドは冒険者ギルドという組織に属する一冒険者ではあるが、今でも侯爵家の令息という立場は変わらない。
それはフローレンスも同じであり、現在は優秀な一騎士として活動しているが、公爵家の令嬢という事実は消えていない。
といった理由もあり、彼はわざわざ直接礼を伝えに来た。
「アラッド君、フローレンスさん。そして共に戦った方々……闇竜とその配下を討伐して頂き、本当に感謝している」
「……感謝の言葉、確かに受け取りました」
「私も同じく」
アラッドは侯爵家の令息云々は置いておき、自分よりも立場が上に当たるで人物に長い間頭を下げられるのは気分が悪く、とりあえず感謝の言葉は受け取ったから早く頭を上げてくれと思っていた。
「本当に、感謝しているよ」
頭を上げてからも、再度感謝の言葉を伝えるギルドマスター。
彼は……特にアラッドたちに感謝していた。
「アラッド君、スティーム君、ガルーレ君。よくこの時期に、フローレンスさんたちと同じタイミングでゴルドスに来てくれた」
情報源の元はアラッドたちではあるが、フローレンスさんたちが闇竜を討伐する為に派遣されることは、相性的にもほぼ確定であった。
だが、アラッドに関してはまだ雪竜グレイスに教えてもらった、ヤバい竜リストには他のドラゴンもいるため、今回ゴルドスを訪れたのは本当に偶々運が良かったという話。
アラッドはそんな感謝されても困るというのが正直なところではあるが、ギルドマスターからすれば本当に感謝しかない。
「ギルドマスターの言う通りですね。私たちにとっても、アラッドたちがこの時期に来てくれて本当に良かったです」
ギルドマスターが言えない事を、サラッと言ってくれたフローレンス。
闇竜やその他の黒色モンスターの数や強さを知った上で、ギルドマスターはフローレンスたちだけでは討伐が不可能……最悪、部下たちを逃がす為に一人で闇竜たちを相手にし……そのまま戦死という可能性もあった。
騎士が戦場で死ぬ。
それは何処でも、どの戦場で起こりうる可能性がある。
だが、公爵家の令嬢であり、騎士としてもその将来を期待されている人物が死んだとなれば……色々と面倒なことになっていた。
「偶々ですよ」
「だとしても、本当に助かった。これは、その気持ちだ。特別報酬として、是非受け取って欲しい」
「特別報酬、ですか……俺たちとしては嬉しいですけど、ギルドの財布……もしくはギルドマスターの財布的に大丈夫なんですか?」
「あぁ、勿論だ。それに、英雄たちがそんな事を気にするものではないよ。では」
クールに執務室へ戻って行ったギルドマスターだが、特別報酬にはギルドの財布からと、ギルドマスターのこういった時の為に貯めていた財布の両方から取り出していたため、実際のところ内心では汗をかいていた。
「…………本当に大丈夫なのか気になるけど、まぁ、もう貰ってしまったからな」
袋の中身を確認すると、中には多数の金貨だけではなく、白金貨まで入っていた。
「わぉ!! あのギルドマスター、随分太っ腹ね」
「場合によっては、最寄りの街であるゴルドスが最初の犠牲になっていたかもしれないからね。その危険性を考えると、妥当なんじゃないかな」
白金貨はたった数枚ではなく、十枚と少し入っていた。
Bランクモンスターを複数討伐したとはいえ、特別報酬としては中々破格の額である。
「だな……それじゃあ、何を売って何を残すか決めないとな」
アラッドたちがギルドマスターと話している間に、素材の査定は全て終了。
だが、アラッドたちは全ての素材を売却するとは決めていない。
「フローレンス、お前たちもお前たちで決めろよ。別に全部売りたかったらそれでも良いけどな」
「私は少し考えます。ソルたちも、自分たちで討伐したモンスターの素材に関してどうするか、各々の判断に任せます」
騎士たちも己の得物や防具を店で買うこともあるが、鍛冶師に直接オーダーメイドすることもある。
ソルたちがウィリアスを除いて六人で討伐したのに対し、相手をしたモンスターはオークジェネラル、ブラックウルフ、コボルトナイトにガーゴイル、スケルトンメイジやヒポグリフ、ホワイトスネークとオーガウォーリアーにリザードと種類が豊富。
闇の力を授かり、それなりに体に馴染んでいたこともあり、同じ種のモンスターよりも素材の価値が高い。
スティームたちも含め、その辺りをじっくり考え、何を売って何を残すか決めていった。
493
お気に入りに追加
6,108
あなたにおすすめの小説
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
スキルを極めろ!
アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作
何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める!
神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。
不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。
異世界でジンとして生きていく。
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる