スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
933 / 1,058

九百三十一話 枠に収まらない変化

しおりを挟む
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、っつ……はぁ、はぁ…………随分と、面倒な事、してくれたな」

「…………」

「なんで、俺が……元に? 戻ったか解らねぇ、って顔だな」

そう言いながら、アラッドは隠すことなくアイテムバッグの中からポーションを取り出した。
自分で刺した傷ではあるが、当然痛い。

先程まで、そんな隙を晒せば闇竜に邪魔されると確信していた。

だが……何故かデネブはその場から動くことはなく、アラッドが回復するのを許してしまった。

「そうだね……君は、僕がダークランスに混ぜ合わせた幻惑系の闇で、狂気に飲まれる筈だった」

「なるほどな。そういうのを仕込んでたのか……本当に頭が回る個体だな」

ポーションで傷は塞がったものの、脚を突き刺した際に流れた血までは戻らないため、少しふらつくアラッド。

「っと、ふぅーーーー……お前がダークランスに何かを仕込んだ靄が俺の体に浸食して来る際……嫌な予感がした。最も近い経験で言えば、初めて狂化のスキルを得て、発動した時か」

自分の意思じゃないのに、体が動こうとする。
別の何かが、自分の体を乗っ取ろうとする……そんな感覚に近かった。

だからこそ、アラッドは咄嗟にあるスキルを発動した。

「にしても、なんでそういう技を発動した? まぁ、確定で相手を暴走させることが出来るなら、使わない手はないと思うけど」

「……君は、狂化のスキルを持っているでしょう。僕は過去に、見た目が異なるモンスターと人間に出会った事があるんだけど、二人とも醸し出す雰囲気は同じだったんだ」

「狂化を持ってる奴の空気、か……俺は持ってる側だから解らないが、感覚の鋭い奴は、そういう違いに気付くのか……それで、俺を使ってスティームたちを殺させようとしたって訳か」

「そうだね」

デネブは、一切悪びれることなく、その通りだと答えた。
自分は労力を消費せず、厄介な残りの人間たちをアラッドに始末させようと考えていた。

だが、アラッドはその選択肢を取った闇竜デネブに対し、特に怒りを爆発させることはなかった。

行っていた戦いは、野性の殺し合い。
基本的に卑怯もクソもない戦いであるため、今回デネブが取った行動に難癖を付けるのはナンセンス過ぎた。

「そうか。で、俺がどうやってお前の技に抗ったかだが、身に迫っている危険がどういう危機なのかなんとなく察せたからこそ、意識が飛ぶ前に手を打つことが出来た」

スキル糸、マリオネット。

相手の体内に侵入して操る糸は、相手の体だけではなく、自分の体にも入れて操ることが出来る。

本来、アラッドは自分の体を使う際には、腕や脚が砕けた場合の補助に使う予定だった。
今回は狂気による暴走が強く、直ぐに実行するには至らなかったが、それでも使い手から命を受けた通り……糸はアラッドの右手を操り、渦雷を自身の脚に突き刺すことが出来た。

「どういったスキルか気になるところだけど、さすがに教えてくれないよね」

「そういうものだからな」

二人が行っているのがガチな模擬戦ではなく、本気の殺し合い。

ただ、自分の体を操ることが出来る。そこまでしか言えなかった。

「はぁ~~~~~~~~…………もう少し、あまり臆病になり過ぎず、どうにかして人間たちの情報を集めておくべきだったかな。君ぐらいの冒険者なら、直ぐに集まりそうだしね」

「かもしれないな」

今、冒険者の中で誰が一番ホッと冒険者かと聞かれれば、同業者たちの多くはアラッドだと答える。

だが……アラッドはあまり糸という存在を知らしめてはおらず、糸に関しては多少調べただけでは得られない可能性が高かった。

「何はともあれ、企みは失敗したわけだが……どうする」

「逃がしてくれ、と言えば逃がしてくれるのかい」

冗談交じりに笑うデネブに対し……アラッドは渦雷をしまい、代わりに亜空間から羅刹を取り出した。

「いいや、そんな訳ないだろ」

帯刀、そして抜刀……静かに狂化を発動するアラッド。

「……ふっ、ふっふっふ……あっはっは!!!!!!!! 凄いね、君は……君よりも長く生きてる筈なんだけど、君みたいな人間を見たことはないよ」

額の片側から角が生えている。
そんな人間は見たことがあるも、その人間はオーガと人間のハーフであり、そうなることもあると、多くの人間が知っており、知恵を……高い思考力を持つモンスターも知っている個体はいる。

だが、アラッドは間違ないく、狂化を発動してから、額の片側から角が生えた。

「そうか。長く生きるドラゴンが見たことないってのは、割と褒め言葉なのかもな。でもあれだぞ、俺の知人には、獣人の特徴を持たないのに、獣心を解放することが出来る奴もいる。祖先に人族以外の種族がいれば、割と俺みたいな人間はいるのかもしれないぞ」

「なるほど。可能性とし絵はあり得るだろうね……ただ、やはり僕は、君をただの人間とは思えないよ」

才能が違う、積み重ねてきた努力や経験の数が違う、そもそもそこまで鍛錬を積み重ねられる異常性が異なる……そのどれもが、違う。

(片方に、もしくは二つの角が生えるまでなら解る。しかし、その瞳はなんだい、アラッド君)

狂化を発動したと同時に、アラッドの方眼は……金色と化していた。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...