スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

九百二十五話 謝れば良い

「あんた達！　もっと根性見せなさい！！！！」

戦場に、光の人型精霊であるウィリアスの声が響く。

彼女たちの戦場にはソルたち六人の騎士、魔術師たちがいる。
基本的にCランクモンスターの群れが相手でも、それなりに戦える戦力なのだが……彼女たちが戦っているモンスターたちは、全員闇竜デネブから闇の力を授かった個体。

（思ってた以上に、厄介な集団ね）

オークジェネラル、ブラックウルフ、コボルトナイト、ガーゴイル、スケルトンメイジ、ヒポグリフ、ホワイトスネーク、オーガウォーリアー、リザード。
合計、九体のモンスターと戦闘中。

モンスターたちの中にはDランクのモンスターも混ざっているが、半分程闇の力が馴染んでおり、決して油断出来ない戦力を有してる。

（人型、素早い獣、空中から攻撃が出来る個体、地を這う蛇にブレスが得意な亜竜……またギリギリのラインと言うか）

一応……一応、ウィリアスたちの後ろにはクロという戦力を控えている。
Aランクの怪物であり、この場にいるモンスターの中では、彼らのトップである闇竜デネブよりも上のランクを持つ絶対強者。

それでも、そんな怪物が目の前にいても、オークジェネラルたちは逃げなかった。

闇の力を授かった代償？　それとも忠誠心……個体差はあれど、それぞれ闇竜への恩は感じていた。
しかし、クロを無視し続けて戦うのには、別の理由があった。

デネブから授かった闇の力は、時間が経てば個体差はあれど、体に馴染み続ける。
時間は掛かるが、何もせずとも徐々に……徐々にではあるが、闇の力を使えるようになる。

だが、他にも体になじませる方法があった。
それは……刺激的な戦いを行うことである。

「ガアアアアアアッ！！！！」

「キィエエエアアアアッ！！！！」

「ガルルゥアアアッ！！！！！」

オークジェネラルたちにとってソルたちとの戦いは、まさに闇の力を馴染ませるのに最高の刺激的な戦いだった。

弱くない。
寧ろ精霊の力を借り、自分たちにとっては致命傷になりうる攻撃を仕掛けてくる。

だが……全体を見た時の平均値が、足りてない。

当れば不味い。
それなら、当たらなければ良い。
当ってしまうにしても、最小限のダメージに抑えれば、まだまだ戦える。

（ったく！！！　あっちこっち忙しいわね！！！！！）

オーガウォーリアー、オークジェネラル、ヒポグリフ。
ウィリアスから見て、その三体が揃って闇の力に馴染んでいると感じた。

馴染めば馴染むほど、戦闘力が全体的に向上する。
その分、光属性の攻撃を食らえば受けるダメージは大きくなるも、これまで通り……当たらなければ良い話。

元々七対九と数も負けており、思ってた以上に向こうは向こうで連携が取れている。
空を飛べるモンスターが二体もいるということもあって、ウィリアスは攻撃ではなく主に防御とサポートに徹していた。

（そろそろ一体ぐらい、倒してくれると嬉しいかな！！）

クロの助けを借りれば、直ぐに終わる。
そんな事はウィリアスも解っている。

こうして直に対面するのは二度目ではあるが、トーナメントの決勝戦でた対面した一度目から……とんでもないモンスターであることには気づいていた。

殺されても、消されてもおかしくない強者。
クロが参戦すれば、本当にあっという間に終わってしまう。

（…………ッ！！　あの子たちが無理なら、私が無理してでも、潰せば良いだけでしょッ！！！！）

特に……ライバル視してるわけではない。
ただ、情けない姿を見せられない、安易に力を借りたくない……そんな気持ちがあった。

「破ッ！！！！」

サポート、防御。それらをこなしながら、戦場の定石として、弱い奴から殺す。
ウィリアスは一本の薄い薄い……それでも、貫通力だけはある光の針を投げ飛ばした。

「ガ、バ、ッ……」

狙われた標的はコボルトナイト。
脳を貫かれ、じゅわっと……熱が広がる、どころではない地獄の痛みを数秒……たった数秒ではありながら味わい、膝から地面に崩れ落ちた。

「あんた達！　あんた達の上司が、フローレンスが、あんた達なら、やれるって、任せてくれたのよ！！！　全部私に頼りっきりで、良いのかしら！！！！！！」

「「「「「「ッ！！！」」」」」」

当然、疲れたからといって手を抜くつもりは一切ない。

それでも……オークジェネラルたちが成長するように、今回の戦場は……ソルたちにとっても成長する、一皮剥けるチャンスである。

「良いわけ、ないじゃないッ！！！！！！！！」

先陣を切ったのは、やはりソルだった。

（ウィリアスの言う通り……でも、だからって、言い訳は、もう使わないッ！！！！！！）

戦闘が始まってから今まで、ソルはまだ狂化を使用していなかった。

理由は単純。
まだ完全にコントロール出来る気がしないという事に加え、七対九という非常に戦場にいる人数が多い場で、味方の邪魔をせず……万が一にも傷付けない保証がなかった。

「ァァアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ！！！！！！！！！！！」

開放する、そして御する。
それでも仲間を傷付けてしまったら……謝る。何度でも謝る。額を地面に付けて謝る。

今は……恐れてたら勝てない。
その一心で、ソルは狂化を発動した。