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九百二十三話 動きに表れる

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「ッ!!!!!」

フローレンスは非常に……非常に大胆に攻め始めた。

腕の一本、脚の一本はくれてやる。
だが、お前の命は貰う。

そんなフローレンスにしては珍しい、禍々しいとも取れる殺気が放たれる。
当然、黒色グレータースケルトンとしては、賭けに出たフローレンスの動きを逆手に取り、仕留めたい。

だが……それが容易に行えないのがフローレンスという怪物。
これまでなんとか技術で受け流し、対応してきたものの……聖光雄化を発動したフローレンスの攻撃を食らえば、黒色の骨が砕かれる可能性は十分にある。

「………………」

故に、黒色グレータースケルトンが取った行動は、直ぐには対処しないというものだった。
他の場所で戦ってる同士たちの戦闘に邪魔にならない程度にいなし続ける。
そして、完全に隙と言える動きが現れた瞬間、全力で仕留める。

それが黒色グレータースケルトンのプランであり、表情のないスケルトンであれば、そういった自身が組み立てたプランを読まれることはない。

「っ!!??」

ただ、思考は動きに表れてしまう。
全員が全員、動きや戦闘スタイルの変化から相手の思考を読めるわけではないが、フローレンスは読める。

筋肉聖女になったからといって、脳みそまで筋肉になってしまった訳ではない。

(あなたは……ある意味、正しい選択をしたのでしょう)

捨て身で、怪我を負うことを承知で襲い掛かる自分に対し、明確な隙が見えるまで待つ。
それが対戦相手にとって正しい選択であることは、フローレンスも理解している。

ただ……心の底から強いと思った相手が、ここに来て前に出ることなく、冷静に……ただ冷静に対処しようとする姿に、ほんの少しだけ寂しさを感じた。

「セヤッ!!!!!!!」

寂しさを感じながらも、フローレンスは高速の突きを放つ……のではなく、突きのモーションのまま……自身の得物である細剣を投げた。

このあり得ない攻撃に、元が人間であるからこそ、黒色グレータースケルトンに小さくない動揺、衝撃を与えることに成功。

投擲には似合わないモーションであり、そもそもフローレンスは一応投擲のスキルは持っているものの、練度は低い。
だが……それでも聖光雄化を使用した筋肉聖女状態のフローレンスが行えば、話しは変ってくる。

「ジッ!!!!!」

「っ!!!!????」

放たれた聖光を纏った細剣を、黒色グレータースケルトンはロングソードで弾いた。
多少の痺れは感じるが、それでも戦闘を続行するのに問題はない。
そう思ったタイミング左手に持っていた盾に……強烈な衝撃を感じ取った。

衝撃の正体、フローレンスが盾の淵を思いっ切り蹴り飛ばした強烈過ぎる一撃。

盾の淵という、本来は蹴った側がかなり痛く、ダメージを感じるのだが……細剣によって突きを放つのではなく、そのまま放り投げるという奇手に気を取られた黒色グレータースケルトン。

故に、盾を蹴り飛ばそうとするフローレンスの行動に対し、抵抗する動きが間に合わなかった。

完全に……追い込まれた。
ただ、黒色グレータースケルトンにはまだ闇属性の名剣が残っている。
素手であろうとも、目の前の人間が油断ならないことは、先程の蹴りで十分把握している。

黒色グレータースケルトンは即座にロングソードを振り下ろそうとした。

「破ッ!!!!!!」

「っ!!!!!!!」

しかし、暗黒の一撃が届くよりも先に蹴り上げたフローレンスの右足が地に付き……そのまま踏み込み、肩を勢い良くぶつけた。

体勢が不十分だった黒色グレータースケルトンはショルダータックルを耐えられず、後方に吹き飛ばされた。

今の動きは、明らかに慣れた動きだった。
何故……彼女は細剣を扱う名剣士ではなかったのかと、同時に徒手格闘も同レベルまで収めてるのかと、驚きを隠せなかった。

(上手くいったようですね)

実際のところ、フローレンスは徒手格闘に関しては、それなりのレベルではある。
ただ一流どころか、一流半にも及ばない。
ガルーレやアラッドたちのレベルには届かない……だが、実戦ではそんな技術不足など関係無い。

だからこそ、フローレンスは基本的に徒手格闘の技術を磨くと同時に、奇手として使える動きを反復していた。

それが聖光雄化を使用した状態のショルダータックル。
実行する前の攻撃手段も重要ではあるが、意表を突いたフローレンスのショルダータックルは……防御力はBランクモンスターの中でも上位に位置する黒色グレータースケルトン相手に通じることが、今回の一撃で証明された。

(決めますよッ!!!!!!)

吹き飛ばした黒色グレータースケルトンに向かって駆け出し、最後の一撃を叩き込む。

突きのモーションからそのまま放った細剣を回収するという手段もあった。
現在、黒色グレータースケルトンは盾を失っており、防御力が低下したと言っても過言ではない。
ただ、フローレンスの直感が、黒色グレータースケルトンはロングソードだけで戦う状態になっても、平然と戦えると判断した。

だからこそ、武器の回収を行わず、一気に距離を詰めた。

しかし…………覚悟を決めた。
そんなフローレンスの変化を理解したからこそ、構わず突っ込んでくる。

今回の一戦、読んでいたのはフローレンスだけではなかった。
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