921 / 1,123
九百十九話 何も、知らないだろ
しおりを挟む
「フッフッフ」
「…………」
黒色のハーピィと対峙しているファル。
当然の事ながら、互いに空中戦に慣れている……空中こそが主戦場。
普段は地上の敵と戦うことが比較的多いファルにとって、珍しく半分黒色のワイバーンと続いて、空中戦が大得意なモンスターとの戦いが続いていた。
「キィィイイエエエエエッ!!!!」
「ッ!!!!」
互いに宙を飛び、羽を持ち……基本的に風による攻撃が得意。
ただ、黒色ハーピィはただのハーピィではなく、リザードマンやハードメタルゴーレム、オルトロス亜種たちと同じように、闇の力を得ている。
ハーピィのランクはDと、全身が黒くなり、完全に闇の力が馴染んでいる個体の中では、一番ランクが低い。
故に、自分が対応すべきだと思いはしたものの、ファルは黒色ハーピィのランクを測りかねていた。
だが、実際に自身が放った旋風とハーピィが起こした闇風の衝突した結果などから、目の前のハーピィは間違いなく自身の命に刃を届かせる攻撃力を持っていると把握。
油断出来ない。
それがファルの黒色ハーピィに対する感想だった。
「フッフッフ」
笑う……とにかくよく笑う。
その笑みはファルの主人の友人たちが、純粋に戦闘が楽しいと感じているからこそ零す笑みではなく、他者を見下す……嗤い。
そんな嗤いを零す黒色ハーピィに対し……ファルはただただ、冷静に見極めようとしていた。
思考力があるファルは、その他大勢が持ってない力を自分が持っている、同族の中で自分は間違いなく特別だと……そう思った個体は傲慢になる傾向にあると理解していた。
普段から冷静に戦っているファルは嗤われようとも、そんな事はどうでも良かった。
問題なのは、自分の力に酔っているから、あそこまで自信過剰な態度を取れるのか……それとも、完全に自分を攻略……もしくは仕留められる手札を有しているからこそ、嗤っているのか。
それが今のファルにとって最優先事項だった。
「ッ!!」
「キィイエエエアアアッ!!!!」
だからこそ、小手調べの時間を長くする。
奥の手を有しているなら、それを引っ張り出したい。
最悪……自分が黒色ハーピィを殺せずとも、誰かが隙を突いて殺してくれても構わない。
自分の一番の仕事は、なるべく空中で戦っている自分たちの攻撃が、うっかりスティームたちの方へ向かい、戦いの邪魔にならない事。
強力な力を持っている……それは変わりない。
ただ、パーティーの中では一番の仕事人。それがファル。
「…………フッフッフ。キッキッキ、キェッキェ」
「…………」
小手調べが続くこと数分、戦意はある……戦う意志は感じられるものの、自分を仕留めるという殺意が薄いことに気付いた黒色ハーピィ。
当然、煽りだす。
私の力に怖気づいたのかと、それでもBランクのモンスターなのかと。
元がDランクの自分に押されているなど、とんだ弱者だったと……お前の主人も、お前と似て臆病者なのでしょう、と。
黒色ハーピィは思い付く限りの罵倒を並べる。
しかし、ファルの冷静な表情は変わらず、淡々と黒色ハーピィを削ろうと……持っている手札を無理矢理引き出そうとする。
主人をバカにする言葉など、本来であれば怒りを露にしてもおかしくないのだが、ファルは思考力があるモンスター。
元々黒色ハーピィが性格の悪い個体であることを見抜いていたこともあり、今自分に向けられている言葉単なる挑発や煽りという可能性もあれば、大きな隙を見せれば必ず攻撃をぶち込もうと考えている可能性もあると考えていた。
そして……何より、スティームの凄さを誰より理解しているスティーム。
自分に似て、主人も臆病? 今現在、黒い鋼鉄の巨人を相手に笑みを浮かべて戦っている白毛ボス猿と一対一で戦い、ギリギリとはいえ勝利した主人にそんな言葉は当てはらない。
ファルは……正直、初めてスティームがヴァジュラと戦う時、それなりに心配していた。
スティームと共に冒険する中で、Bランクモンスターとは何度か遭遇してきた。
アラッドという強者とスティームが友人となり、パーティーを組んで共に活動するようになってから、更に多くの強敵と出会うようになった。
その中でも、ハヌマーンことヴァジュラの存在感は、これまで遭遇してきた他のBランクモンスターとは、どこか違った。
本能がこいつは危ないと呼びかけてくる。
そんな存在を相手に、スティームは挑み……勝利を収めた。
解っていない……何も、お前は何も解っていない。
パーティーメンバーであるアラッドやガルーレの様な戦闘大好き人間ではない。
それでも、一度踏み入った戦いからは絶対に逃げない。
「…………フッ」
そんな優しく、それでいて最高の主人の強さを知らず、スティームを利用して自分の怒りを買おうとする黒色ハーピィの姿は……なんとも愚かで、滑稽だった。
だからこそ、ファルにしては珍しく失笑を零した。
「ッ!!!!!! ギィイイイイイイェアアアアアアアアアアア」
怒らせ、動きを単調にさせようとしていた側が、意図したわけではないが……ファルの失笑により、逆に感情が怒りに支配されることになった。
「…………」
黒色のハーピィと対峙しているファル。
当然の事ながら、互いに空中戦に慣れている……空中こそが主戦場。
普段は地上の敵と戦うことが比較的多いファルにとって、珍しく半分黒色のワイバーンと続いて、空中戦が大得意なモンスターとの戦いが続いていた。
「キィィイイエエエエエッ!!!!」
「ッ!!!!」
互いに宙を飛び、羽を持ち……基本的に風による攻撃が得意。
ただ、黒色ハーピィはただのハーピィではなく、リザードマンやハードメタルゴーレム、オルトロス亜種たちと同じように、闇の力を得ている。
ハーピィのランクはDと、全身が黒くなり、完全に闇の力が馴染んでいる個体の中では、一番ランクが低い。
故に、自分が対応すべきだと思いはしたものの、ファルは黒色ハーピィのランクを測りかねていた。
だが、実際に自身が放った旋風とハーピィが起こした闇風の衝突した結果などから、目の前のハーピィは間違いなく自身の命に刃を届かせる攻撃力を持っていると把握。
油断出来ない。
それがファルの黒色ハーピィに対する感想だった。
「フッフッフ」
笑う……とにかくよく笑う。
その笑みはファルの主人の友人たちが、純粋に戦闘が楽しいと感じているからこそ零す笑みではなく、他者を見下す……嗤い。
そんな嗤いを零す黒色ハーピィに対し……ファルはただただ、冷静に見極めようとしていた。
思考力があるファルは、その他大勢が持ってない力を自分が持っている、同族の中で自分は間違いなく特別だと……そう思った個体は傲慢になる傾向にあると理解していた。
普段から冷静に戦っているファルは嗤われようとも、そんな事はどうでも良かった。
問題なのは、自分の力に酔っているから、あそこまで自信過剰な態度を取れるのか……それとも、完全に自分を攻略……もしくは仕留められる手札を有しているからこそ、嗤っているのか。
それが今のファルにとって最優先事項だった。
「ッ!!」
「キィイエエエアアアッ!!!!」
だからこそ、小手調べの時間を長くする。
奥の手を有しているなら、それを引っ張り出したい。
最悪……自分が黒色ハーピィを殺せずとも、誰かが隙を突いて殺してくれても構わない。
自分の一番の仕事は、なるべく空中で戦っている自分たちの攻撃が、うっかりスティームたちの方へ向かい、戦いの邪魔にならない事。
強力な力を持っている……それは変わりない。
ただ、パーティーの中では一番の仕事人。それがファル。
「…………フッフッフ。キッキッキ、キェッキェ」
「…………」
小手調べが続くこと数分、戦意はある……戦う意志は感じられるものの、自分を仕留めるという殺意が薄いことに気付いた黒色ハーピィ。
当然、煽りだす。
私の力に怖気づいたのかと、それでもBランクのモンスターなのかと。
元がDランクの自分に押されているなど、とんだ弱者だったと……お前の主人も、お前と似て臆病者なのでしょう、と。
黒色ハーピィは思い付く限りの罵倒を並べる。
しかし、ファルの冷静な表情は変わらず、淡々と黒色ハーピィを削ろうと……持っている手札を無理矢理引き出そうとする。
主人をバカにする言葉など、本来であれば怒りを露にしてもおかしくないのだが、ファルは思考力があるモンスター。
元々黒色ハーピィが性格の悪い個体であることを見抜いていたこともあり、今自分に向けられている言葉単なる挑発や煽りという可能性もあれば、大きな隙を見せれば必ず攻撃をぶち込もうと考えている可能性もあると考えていた。
そして……何より、スティームの凄さを誰より理解しているスティーム。
自分に似て、主人も臆病? 今現在、黒い鋼鉄の巨人を相手に笑みを浮かべて戦っている白毛ボス猿と一対一で戦い、ギリギリとはいえ勝利した主人にそんな言葉は当てはらない。
ファルは……正直、初めてスティームがヴァジュラと戦う時、それなりに心配していた。
スティームと共に冒険する中で、Bランクモンスターとは何度か遭遇してきた。
アラッドという強者とスティームが友人となり、パーティーを組んで共に活動するようになってから、更に多くの強敵と出会うようになった。
その中でも、ハヌマーンことヴァジュラの存在感は、これまで遭遇してきた他のBランクモンスターとは、どこか違った。
本能がこいつは危ないと呼びかけてくる。
そんな存在を相手に、スティームは挑み……勝利を収めた。
解っていない……何も、お前は何も解っていない。
パーティーメンバーであるアラッドやガルーレの様な戦闘大好き人間ではない。
それでも、一度踏み入った戦いからは絶対に逃げない。
「…………フッ」
そんな優しく、それでいて最高の主人の強さを知らず、スティームを利用して自分の怒りを買おうとする黒色ハーピィの姿は……なんとも愚かで、滑稽だった。
だからこそ、ファルにしては珍しく失笑を零した。
「ッ!!!!!! ギィイイイイイイェアアアアアアアアアアア」
怒らせ、動きを単調にさせようとしていた側が、意図したわけではないが……ファルの失笑により、逆に感情が怒りに支配されることになった。
504
お気に入りに追加
6,150
あなたにおすすめの小説

私のスキルが、クエストってどういうこと?
地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。
十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。
スキルによって、今後の人生が決まる。
当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。
聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。
少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。
一話辺りは約三千文字前後にしております。
更新は、毎週日曜日の十六時予定です。
『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。
空
ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。
冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。
その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。
その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。
ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。
新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。
いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。
これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。
そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。
そんな物語です。
多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。
内容としては、ざまぁ系になると思います。
気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。


異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる