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九百十九話 何も、知らないだろ
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「フッフッフ」
「…………」
黒色のハーピィと対峙しているファル。
当然の事ながら、互いに空中戦に慣れている……空中こそが主戦場。
普段は地上の敵と戦うことが比較的多いファルにとって、珍しく半分黒色のワイバーンと続いて、空中戦が大得意なモンスターとの戦いが続いていた。
「キィィイイエエエエエッ!!!!」
「ッ!!!!」
互いに宙を飛び、羽を持ち……基本的に風による攻撃が得意。
ただ、黒色ハーピィはただのハーピィではなく、リザードマンやハードメタルゴーレム、オルトロス亜種たちと同じように、闇の力を得ている。
ハーピィのランクはDと、全身が黒くなり、完全に闇の力が馴染んでいる個体の中では、一番ランクが低い。
故に、自分が対応すべきだと思いはしたものの、ファルは黒色ハーピィのランクを測りかねていた。
だが、実際に自身が放った旋風とハーピィが起こした闇風の衝突した結果などから、目の前のハーピィは間違いなく自身の命に刃を届かせる攻撃力を持っていると把握。
油断出来ない。
それがファルの黒色ハーピィに対する感想だった。
「フッフッフ」
笑う……とにかくよく笑う。
その笑みはファルの主人の友人たちが、純粋に戦闘が楽しいと感じているからこそ零す笑みではなく、他者を見下す……嗤い。
そんな嗤いを零す黒色ハーピィに対し……ファルはただただ、冷静に見極めようとしていた。
思考力があるファルは、その他大勢が持ってない力を自分が持っている、同族の中で自分は間違いなく特別だと……そう思った個体は傲慢になる傾向にあると理解していた。
普段から冷静に戦っているファルは嗤われようとも、そんな事はどうでも良かった。
問題なのは、自分の力に酔っているから、あそこまで自信過剰な態度を取れるのか……それとも、完全に自分を攻略……もしくは仕留められる手札を有しているからこそ、嗤っているのか。
それが今のファルにとって最優先事項だった。
「ッ!!」
「キィイエエエアアアッ!!!!」
だからこそ、小手調べの時間を長くする。
奥の手を有しているなら、それを引っ張り出したい。
最悪……自分が黒色ハーピィを殺せずとも、誰かが隙を突いて殺してくれても構わない。
自分の一番の仕事は、なるべく空中で戦っている自分たちの攻撃が、うっかりスティームたちの方へ向かい、戦いの邪魔にならない事。
強力な力を持っている……それは変わりない。
ただ、パーティーの中では一番の仕事人。それがファル。
「…………フッフッフ。キッキッキ、キェッキェ」
「…………」
小手調べが続くこと数分、戦意はある……戦う意志は感じられるものの、自分を仕留めるという殺意が薄いことに気付いた黒色ハーピィ。
当然、煽りだす。
私の力に怖気づいたのかと、それでもBランクのモンスターなのかと。
元がDランクの自分に押されているなど、とんだ弱者だったと……お前の主人も、お前と似て臆病者なのでしょう、と。
黒色ハーピィは思い付く限りの罵倒を並べる。
しかし、ファルの冷静な表情は変わらず、淡々と黒色ハーピィを削ろうと……持っている手札を無理矢理引き出そうとする。
主人をバカにする言葉など、本来であれば怒りを露にしてもおかしくないのだが、ファルは思考力があるモンスター。
元々黒色ハーピィが性格の悪い個体であることを見抜いていたこともあり、今自分に向けられている言葉単なる挑発や煽りという可能性もあれば、大きな隙を見せれば必ず攻撃をぶち込もうと考えている可能性もあると考えていた。
そして……何より、スティームの凄さを誰より理解しているスティーム。
自分に似て、主人も臆病? 今現在、黒い鋼鉄の巨人を相手に笑みを浮かべて戦っている白毛ボス猿と一対一で戦い、ギリギリとはいえ勝利した主人にそんな言葉は当てはらない。
ファルは……正直、初めてスティームがヴァジュラと戦う時、それなりに心配していた。
スティームと共に冒険する中で、Bランクモンスターとは何度か遭遇してきた。
アラッドという強者とスティームが友人となり、パーティーを組んで共に活動するようになってから、更に多くの強敵と出会うようになった。
その中でも、ハヌマーンことヴァジュラの存在感は、これまで遭遇してきた他のBランクモンスターとは、どこか違った。
本能がこいつは危ないと呼びかけてくる。
そんな存在を相手に、スティームは挑み……勝利を収めた。
解っていない……何も、お前は何も解っていない。
パーティーメンバーであるアラッドやガルーレの様な戦闘大好き人間ではない。
それでも、一度踏み入った戦いからは絶対に逃げない。
「…………フッ」
そんな優しく、それでいて最高の主人の強さを知らず、スティームを利用して自分の怒りを買おうとする黒色ハーピィの姿は……なんとも愚かで、滑稽だった。
だからこそ、ファルにしては珍しく失笑を零した。
「ッ!!!!!! ギィイイイイイイェアアアアアアアアアアア」
怒らせ、動きを単調にさせようとしていた側が、意図したわけではないが……ファルの失笑により、逆に感情が怒りに支配されることになった。
「…………」
黒色のハーピィと対峙しているファル。
当然の事ながら、互いに空中戦に慣れている……空中こそが主戦場。
普段は地上の敵と戦うことが比較的多いファルにとって、珍しく半分黒色のワイバーンと続いて、空中戦が大得意なモンスターとの戦いが続いていた。
「キィィイイエエエエエッ!!!!」
「ッ!!!!」
互いに宙を飛び、羽を持ち……基本的に風による攻撃が得意。
ただ、黒色ハーピィはただのハーピィではなく、リザードマンやハードメタルゴーレム、オルトロス亜種たちと同じように、闇の力を得ている。
ハーピィのランクはDと、全身が黒くなり、完全に闇の力が馴染んでいる個体の中では、一番ランクが低い。
故に、自分が対応すべきだと思いはしたものの、ファルは黒色ハーピィのランクを測りかねていた。
だが、実際に自身が放った旋風とハーピィが起こした闇風の衝突した結果などから、目の前のハーピィは間違いなく自身の命に刃を届かせる攻撃力を持っていると把握。
油断出来ない。
それがファルの黒色ハーピィに対する感想だった。
「フッフッフ」
笑う……とにかくよく笑う。
その笑みはファルの主人の友人たちが、純粋に戦闘が楽しいと感じているからこそ零す笑みではなく、他者を見下す……嗤い。
そんな嗤いを零す黒色ハーピィに対し……ファルはただただ、冷静に見極めようとしていた。
思考力があるファルは、その他大勢が持ってない力を自分が持っている、同族の中で自分は間違いなく特別だと……そう思った個体は傲慢になる傾向にあると理解していた。
普段から冷静に戦っているファルは嗤われようとも、そんな事はどうでも良かった。
問題なのは、自分の力に酔っているから、あそこまで自信過剰な態度を取れるのか……それとも、完全に自分を攻略……もしくは仕留められる手札を有しているからこそ、嗤っているのか。
それが今のファルにとって最優先事項だった。
「ッ!!」
「キィイエエエアアアッ!!!!」
だからこそ、小手調べの時間を長くする。
奥の手を有しているなら、それを引っ張り出したい。
最悪……自分が黒色ハーピィを殺せずとも、誰かが隙を突いて殺してくれても構わない。
自分の一番の仕事は、なるべく空中で戦っている自分たちの攻撃が、うっかりスティームたちの方へ向かい、戦いの邪魔にならない事。
強力な力を持っている……それは変わりない。
ただ、パーティーの中では一番の仕事人。それがファル。
「…………フッフッフ。キッキッキ、キェッキェ」
「…………」
小手調べが続くこと数分、戦意はある……戦う意志は感じられるものの、自分を仕留めるという殺意が薄いことに気付いた黒色ハーピィ。
当然、煽りだす。
私の力に怖気づいたのかと、それでもBランクのモンスターなのかと。
元がDランクの自分に押されているなど、とんだ弱者だったと……お前の主人も、お前と似て臆病者なのでしょう、と。
黒色ハーピィは思い付く限りの罵倒を並べる。
しかし、ファルの冷静な表情は変わらず、淡々と黒色ハーピィを削ろうと……持っている手札を無理矢理引き出そうとする。
主人をバカにする言葉など、本来であれば怒りを露にしてもおかしくないのだが、ファルは思考力があるモンスター。
元々黒色ハーピィが性格の悪い個体であることを見抜いていたこともあり、今自分に向けられている言葉単なる挑発や煽りという可能性もあれば、大きな隙を見せれば必ず攻撃をぶち込もうと考えている可能性もあると考えていた。
そして……何より、スティームの凄さを誰より理解しているスティーム。
自分に似て、主人も臆病? 今現在、黒い鋼鉄の巨人を相手に笑みを浮かべて戦っている白毛ボス猿と一対一で戦い、ギリギリとはいえ勝利した主人にそんな言葉は当てはらない。
ファルは……正直、初めてスティームがヴァジュラと戦う時、それなりに心配していた。
スティームと共に冒険する中で、Bランクモンスターとは何度か遭遇してきた。
アラッドという強者とスティームが友人となり、パーティーを組んで共に活動するようになってから、更に多くの強敵と出会うようになった。
その中でも、ハヌマーンことヴァジュラの存在感は、これまで遭遇してきた他のBランクモンスターとは、どこか違った。
本能がこいつは危ないと呼びかけてくる。
そんな存在を相手に、スティームは挑み……勝利を収めた。
解っていない……何も、お前は何も解っていない。
パーティーメンバーであるアラッドやガルーレの様な戦闘大好き人間ではない。
それでも、一度踏み入った戦いからは絶対に逃げない。
「…………フッ」
そんな優しく、それでいて最高の主人の強さを知らず、スティームを利用して自分の怒りを買おうとする黒色ハーピィの姿は……なんとも愚かで、滑稽だった。
だからこそ、ファルにしては珍しく失笑を零した。
「ッ!!!!!! ギィイイイイイイェアアアアアアアアアアア」
怒らせ、動きを単調にさせようとしていた側が、意図したわけではないが……ファルの失笑により、逆に感情が怒りに支配されることになった。
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