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九百十三話 それだけの差

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(素晴らしい……この人間の様な強者と、出会えたことに……戦えたことに、デネブに感謝、しなければな)

片腕を切断された。

それはロングソードを扱う黒色のリザードマンにとって、死活問題である。

他のリザードマンと違って特別、再生の特性を持っていたり、スキルを持っているわけではなく……闇の魔力を応用し、闇の腕を生やすことは出来ない。
仮にその様な応用技術が使えたとしても、目の前の双剣士に勝てるとは思えない。

(であれば……最後に、最後に……この人間に、最高の一太刀をッ!!!!!!!!!!!)

忘れてはいない。
先程……自分で次はないと解っていながらも、次を求めてしまったからこそ、最大のチャンスを逃してしまった。

だからこそ、片腕になってしまっても、黒色リザードマンは自分に闇の力を与えてくれた闇竜デネブに感謝こそするも、勝負を投げてはいなかった。

(ま、ずいッ!!!!!!!)

これまでのモンスター生の中で、間違いなく最高の戦いだと、激闘と言える死合いを体験出来たからか……文字通り全てを出し尽くそうと、体が……細胞が働いた。

結果……ここにきて初めて、黒色リザードマンはロングソードに闇を纏うのではなく、扱う魔剣そのものが闇となった。

「…………ここに来て、か」

最高の一太刀を……そう思ってスティームに放った斬撃は、剣技によって放たれた一撃ではなく……聖剣技と並ぶ剣技の上位スキル、暗黒剣技であった。

だが、追撃は不可能だと判断したスティームはリスクを承知で、宙に跳んで回避した。

「僕の方が、赤雷に早く目覚めたからこその、結果ですね」

「……そうか」

もし仮に、あなた自分よりも早く暗黒剣技を使えるようになっていたら……もしくは、同時期に暗黒剣技を会得していたら、勝負は解らなかった。

そんなたらればの称賛である。
普段の黒色リザードマンであれば、意味のない勝算だと何も思わなかったかもしれない。

それでも、暗黒剣技という……まだまだこれから自分が成長出来る、強くなれたかもしれない力を知ってしまった。
だからこそ……スティームに首を切断される瞬間、涙を零しながら……好敵手の称賛を手放しで喜び、逝った。

「………………はぁーーーーーーーー」

まだ、対闇竜軍団との戦いは終わっていない。
それでも、黒色リザードマンとの戦闘が終わった。
緊張感からの解放ゆえに、スティームは大きくため息を吐き、先程自分が止めを刺したモンスターの死体を数秒ほど眺め……ひとまず、自身のアイテムバッグにしまった。

(本当に……危なかった。もし、僕が赤雷を会得した時期と同じタイミングで暗黒剣技を会得していたら…………いや、あのリザードマンは全て実戦で学んだと言っていた……一か月前にでも会得されていたら……今、斬られていたのは僕の方だったかもしれない)

闇の力で満ちた体など、暗黒剣技を扱うに最適な体。
加えて、暗黒剣技はスティームの赤雷とは違い、スキルである。

発動に制限があるスキルなどでもないため、今さっきではなく、一か月前にでも会得されていたら、本当に今ここで生きていたのは……黒色リザードマンだった可能性は決してゼロではない。

(ヴァジュラにギリギリとはいえ勝てたからか……少し、驕ってたみたいだね)

現在、黒色のハードメタルゴーレムと戦闘中のヴァジュラ。

そんなヴァジュラとの戦いに、ギリギリとはいえ制した。
モンスターなのに対人戦が得意という特徴を持つヴァジュラを相手に、その結果はまさに快挙だと言える。

多少驕ったとしても仕方なく、自信が付くのも無理はない話である。

ただ……スティームは黒色リザードマンが暗黒剣技に目覚めた瞬間、明確にこのままでは切断されると、斬り裂かれるという明確なイメージが浮かんでしまった。

スティームがアラッドとの試合の中で赤雷に目覚めたように、戦いの中で目に見えて成長する例はある。
とはいえ、それを想定しながら戦えば、今あのタイミングで渾身の一撃を叩き込めば勝てたのにという時に、攻め切れなくなってしまう。

(さて、ポーションを飲んで回復したら……ヴァジュラとガルーレ、アラッドは助太刀しようとしたら、多分怒るだろうな)

命を懸けた殺し合いの場である事を考えれば、寧ろ助っ人は非常に有難い存在。
その様な存在に対して怒鳴り散らすなど、普通では考えられない。

そう……つまり、ガルーレたちは普通ではないという事実を既にスティームは理解しているため、今更なんでという気持ちは湧き上がらない。

(フローレンスさんは…………なんだかんだで拒みそうだな)

私情を優先するような人物ではない。
ただ、それ相応のプライドは持っているというイメージがある。

(……ファルか、ソルさんたちが劣勢だったら、加勢するとしよう)

治癒ポーション、魔力回復ポーションを飲み干し、一応回復したスティームは改めて戦場を見渡そうとした。
その瞬間……何かが、膨れ上がった。

気付いた時には、再度万雷を抜いていた。
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