914 / 1,023
九百十二話 事故?
しおりを挟む
「…………」
「…………」
動いた瞬間、そこから数十秒で決まる。
それを感じ取った両者は、動けないでいた……と思ったのも束の間、スティームと黒色のリザードマン、二人ともほぼ同じタイミングでその場から駆け出した。
「「ッ!!!!!」」
双剣とロングソードでは、手数ではスティームの方が勝っている。
しかし、一撃の剣速はロングソードを扱う黒色のリザードマンの方が上回っていた。
それはスティームが雷を纏い、身体能力を上げている状態であっても……闇を全うリザードマンの方が上であった。
(くッ!! 本当に、上手い……モンスターにこの言葉を、使うのはおかしいかも、しれないけど……達人って感じるほど、上手いっ!!!)
剣速では勝っていても、その差を埋めるのが手数。
右手の刃を弾かれれば、左手の刃で攻めれば良い。
それだけの話なのだが……黒色のリザードマンは、的確にスティームの刃を、万雷を弾いてくる。
右手の刃を弾く……それだけでは終わらず、右半身ごと弾き飛ばされれば、左手で放つ斬撃は完全に手打ちになってしまう。
(それならっ!!!)
まともな斬撃を放てないのであれば、近距離から斬撃波を放てば良い。
しかも、スティームは大まかに捉えようとするのではなく、敢えて踏み込まれたらヤバい部分に向かって斬撃波を放つ。
それにより、黒色のリザードマンは容易に躱すことが出来るが、決め手となる斬撃を叩き込めない。
(流石、並々ならぬ使い手ッ!!!!!)
スティームが放った斬撃波の意図を読み取ったリザードマンは、更にスティームの評価を上げた。
これまで自分が戦ってきた双剣を扱う戦闘者たちの中で、総合的に見て目の前の人間が一番強い。
だからこそ……更に闘志が燃え上がる。
四対六でスティームがやや不利……といった戦況が十秒ほど続いたタイミングで、事故が起こった。
「っ!?」
初めて戦う場所だから……という言葉は、戦場では言い訳にしかならない。
スティームが闇の斬撃波を回避した先の自慢が、ほんの少し崩れた。
それにより、スティームは前方に倒れ込んだ。
(好機ッ!!!!!!!)
叶うことなら、敵がミスをしたタイミングを狙って斬り倒すという選択は取りたくない。
強敵の全力を打ち破ってこそ、勝利の価値が高まり、闘争心を満たすことが出来る。
しかし、ある程度自分が出会った中で、総合的に見て最強と言える双剣士とそれなりに戦えた。
そして目の前の双剣士を殺せば、まだ自分は生き延びることが出来……更に強き者と戦うことが出来る。
だからこそ、黒色のリザードマンには決定的なスティームの隙を敢えて見逃す理由がなく、剣技……アッドスラッシュを叩き込んだ。
(むっ!!??)
確かに、リザードマンはスティームにアッドスラッシュを叩き込んだ。
斬った、と感じないほど滑らかに……理想の斬撃を叩き込んだ経験は、あった。
しかし……今のは違うと、いつか感じた最高の斬撃とは違うと断言出来る。
だからこそ、斬った感触を感じなかったことに、違和感を覚えた。
「ぐっ!!!!!!」
「流石ですね」
背後を振り返ると、そこには先程までの雷とは異なる赤色の雷を纏うスティームの姿があった。
先程の転倒は……決して、演技ではなかった。
ミスをしてしまったという自覚はあった。
決して、戦場でやってしまってはいけないミスだと……だからこそ、スティームは迷うことなく、黒色リザードマンのアッドスラッシュを食らう前に赤雷を纏うことが出来た。
どちらが相手の決定的なミスに食らいついた瞬間、それが勝負を決める瞬間になるとスティームは思っていた。
これで勝負が終わる……そう強く感じ、思う程……確信してしまう程、生物は油断してしまう。
それは人間もモンスターも変わらない。
(誘われて、しまったのかッ!!!!!)
なんとか隠し切れなかったスティームの殺意に反応することで、死角からの一撃を防ぐことに成功。
だが……赤雷を身に纏ったスティームは、先程まで刃を交えていたスティームとは異なる。
(これが、奴の、スティームの真の実力、ということが……我が、愚かだったなッ!!!!!!!!!!!)
「っ!!」
この期に及び、黒色のリザードマンは笑みを浮かべた。
目の前のスティームという人間は、自分の想像を上回る最強の双剣士だった。
であれば、先程の自分は何故生き延び……別の戦いを考えてしまったのかと。
何を、愚かな事をしてしまったのかと。
自分で口にしていた……戦いたい人間は他にもいる。だが、その機会は訪れないだろうと。
何故……この戦いが最後になると、だからこそ死力を尽くさなければならないことを忘れてしまったのかと。
だからこそ、黒色リザードマンは自分を愚か者と罵り……その上で、笑みを浮かべた。
死ぬ可能性が非常に高いと、本能が察している。
生物としての本能は、今すぐこの場から逃げるべきだと警鐘を鳴らしている。
だが、戦う者としての本能は、最高の戦場だと……全てを懸けるには、死ぬには良い日だと高らかに叫んでいた。
「ヌゥゥウウウァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
ここが最後の戦場だと、全てを出し尽くさんと吼える黒色リザードマンを相手に……スティームは少なからず敬意を感じているからこそ、油断というミスは欠片もなく……五手、十手、ニ十手……三十手を迎え、万雷が確実に左腕を捉えた。
「…………」
動いた瞬間、そこから数十秒で決まる。
それを感じ取った両者は、動けないでいた……と思ったのも束の間、スティームと黒色のリザードマン、二人ともほぼ同じタイミングでその場から駆け出した。
「「ッ!!!!!」」
双剣とロングソードでは、手数ではスティームの方が勝っている。
しかし、一撃の剣速はロングソードを扱う黒色のリザードマンの方が上回っていた。
それはスティームが雷を纏い、身体能力を上げている状態であっても……闇を全うリザードマンの方が上であった。
(くッ!! 本当に、上手い……モンスターにこの言葉を、使うのはおかしいかも、しれないけど……達人って感じるほど、上手いっ!!!)
剣速では勝っていても、その差を埋めるのが手数。
右手の刃を弾かれれば、左手の刃で攻めれば良い。
それだけの話なのだが……黒色のリザードマンは、的確にスティームの刃を、万雷を弾いてくる。
右手の刃を弾く……それだけでは終わらず、右半身ごと弾き飛ばされれば、左手で放つ斬撃は完全に手打ちになってしまう。
(それならっ!!!)
まともな斬撃を放てないのであれば、近距離から斬撃波を放てば良い。
しかも、スティームは大まかに捉えようとするのではなく、敢えて踏み込まれたらヤバい部分に向かって斬撃波を放つ。
それにより、黒色のリザードマンは容易に躱すことが出来るが、決め手となる斬撃を叩き込めない。
(流石、並々ならぬ使い手ッ!!!!!)
スティームが放った斬撃波の意図を読み取ったリザードマンは、更にスティームの評価を上げた。
これまで自分が戦ってきた双剣を扱う戦闘者たちの中で、総合的に見て目の前の人間が一番強い。
だからこそ……更に闘志が燃え上がる。
四対六でスティームがやや不利……といった戦況が十秒ほど続いたタイミングで、事故が起こった。
「っ!?」
初めて戦う場所だから……という言葉は、戦場では言い訳にしかならない。
スティームが闇の斬撃波を回避した先の自慢が、ほんの少し崩れた。
それにより、スティームは前方に倒れ込んだ。
(好機ッ!!!!!!!)
叶うことなら、敵がミスをしたタイミングを狙って斬り倒すという選択は取りたくない。
強敵の全力を打ち破ってこそ、勝利の価値が高まり、闘争心を満たすことが出来る。
しかし、ある程度自分が出会った中で、総合的に見て最強と言える双剣士とそれなりに戦えた。
そして目の前の双剣士を殺せば、まだ自分は生き延びることが出来……更に強き者と戦うことが出来る。
だからこそ、黒色のリザードマンには決定的なスティームの隙を敢えて見逃す理由がなく、剣技……アッドスラッシュを叩き込んだ。
(むっ!!??)
確かに、リザードマンはスティームにアッドスラッシュを叩き込んだ。
斬った、と感じないほど滑らかに……理想の斬撃を叩き込んだ経験は、あった。
しかし……今のは違うと、いつか感じた最高の斬撃とは違うと断言出来る。
だからこそ、斬った感触を感じなかったことに、違和感を覚えた。
「ぐっ!!!!!!」
「流石ですね」
背後を振り返ると、そこには先程までの雷とは異なる赤色の雷を纏うスティームの姿があった。
先程の転倒は……決して、演技ではなかった。
ミスをしてしまったという自覚はあった。
決して、戦場でやってしまってはいけないミスだと……だからこそ、スティームは迷うことなく、黒色リザードマンのアッドスラッシュを食らう前に赤雷を纏うことが出来た。
どちらが相手の決定的なミスに食らいついた瞬間、それが勝負を決める瞬間になるとスティームは思っていた。
これで勝負が終わる……そう強く感じ、思う程……確信してしまう程、生物は油断してしまう。
それは人間もモンスターも変わらない。
(誘われて、しまったのかッ!!!!!)
なんとか隠し切れなかったスティームの殺意に反応することで、死角からの一撃を防ぐことに成功。
だが……赤雷を身に纏ったスティームは、先程まで刃を交えていたスティームとは異なる。
(これが、奴の、スティームの真の実力、ということが……我が、愚かだったなッ!!!!!!!!!!!)
「っ!!」
この期に及び、黒色のリザードマンは笑みを浮かべた。
目の前のスティームという人間は、自分の想像を上回る最強の双剣士だった。
であれば、先程の自分は何故生き延び……別の戦いを考えてしまったのかと。
何を、愚かな事をしてしまったのかと。
自分で口にしていた……戦いたい人間は他にもいる。だが、その機会は訪れないだろうと。
何故……この戦いが最後になると、だからこそ死力を尽くさなければならないことを忘れてしまったのかと。
だからこそ、黒色リザードマンは自分を愚か者と罵り……その上で、笑みを浮かべた。
死ぬ可能性が非常に高いと、本能が察している。
生物としての本能は、今すぐこの場から逃げるべきだと警鐘を鳴らしている。
だが、戦う者としての本能は、最高の戦場だと……全てを懸けるには、死ぬには良い日だと高らかに叫んでいた。
「ヌゥゥウウウァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
ここが最後の戦場だと、全てを出し尽くさんと吼える黒色リザードマンを相手に……スティームは少なからず敬意を感じているからこそ、油断というミスは欠片もなく……五手、十手、ニ十手……三十手を迎え、万雷が確実に左腕を捉えた。
503
お気に入りに追加
6,108
あなたにおすすめの小説
その聖女は身分を捨てた
メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。
その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。
そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。
魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。
こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。
これは、平和を取り戻した後のお話である。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる