上 下
913 / 1,023

九百十一話 夢?

しおりを挟む
「…………強い奴と戦いたいから、闇竜からの提案を受けたと」

「そうだな」

スティームの予想を正解だと答えながら、黒色のリザードマンは距離を詰めてロングソードを振るった。

とはいえ、その剣には殺気どころか闘志すらなかった。

(ひとまず、動きながら話そう……そう、言いたいんですね)

剣を交わし、相手が何を言いたいのか察したスティームは、ひとまずその提案に乗った。

「とはいえ、あれは、断るという選択肢が、なかったとも、言えるだろう」

生殺与奪の権を握られた状態だったと、素直に認める黒色のリザードマン。

「……それは、そう、でしょうね」

Bランクドラゴンの闇竜を相手に、Cランクのリザードマンが勝てるわけがない。
スティームは臆せず、それはそうだなと答えた。

「それからは、闇を馴染ませる、為に。より強い者と、戦う為に……剣技と、いうものも、磨いた」

「磨いた、ですか…………冒険者と遭遇、した際。四人いれば、剣士以外を、殺し……その剣士とだけ、真正面から、戦った、と」

「ふっふっふ。その通り、だ。さすが、人間は知能が……考える、力? というのが、高いな」

当然ながら、黒色のリザードマンにとって、剣の師と呼べる存在はいない。

稀にある程度どころではなく、人間界の剣豪レベルの腕前、戦闘技術を持つ個体というのも生まれるが、闇竜はそういったコネ、知り合いはいなかった。

故に、黒色のリザードマンは剣を扱う人物との戦いで剣士の動きを実際に受け、インプットするといった、実戦という場でしか学ぶことが出来なかった。
とはいえ、モンスターである黒色のリザードマンにとって、それは全く苦ではなかった。

「モンスターにも、そういった個体は、多いぞ。我だけでは、なく。オーク、ジェネラルや、オーガウォーリアー、なども、我と同じ……心? を持っている」

「……うちの、パーティーメンバー、にも。そういう、人が……いるよ」

「あれ、であろう。褐色の肌の、女武道家、と。今、我らの、トップと、戦っている男の剣士、であろう」

「そう、だね……二人共、そうかな」

スティームは武道に関して知識はないが、それとなく武道とはどういうものかという話をチラッとだけ聞いたことがあるため、ガルーレの表現に首を傾げそうになるも、とりあえずその通りだと頷いた。

「是非とも、彼等とも……戦ってみたい、ものだ。とはいえ、彼の仲間である…………」

「スティーム、だよ」

スティームは空気を読み、自身の名を伝えた。

「スティームよ……お主のリーダーである、あの、男は……本当に、人族……なのか」

次の瞬間、二振りの雷斬と一振りの闇斬がぶつかり合い、両者共に後方へと下がった。

「さぁ、どうなのか。そこは、僕にも少し解らない。あなたは……どう見る」

スティームは何かを疑っているわけではない。
ただ……最初は、微かに見えただけだった。
精霊剣の使い手であるラディアクレスターとの戦いで、本当に最後の最後に……狂化を使用したアラッドの額から、薄っすらと角が生えているように見えた。

それだけであれば、アラッドが放つ強烈なオーラが、幻影を見せたとも取れる。

しかし、アラッドたちを良く思わない者たちがモンスターを操り、雪崩を起こしてガルーレたちとはぐれてしまった後……ついに、ハッキリと見えてしまった。

頭を冷やす為なのか、狂化を発動しながら、羅刹という刀を抜刀し……天に向かって何度も何度も斬撃波を放った。

その際、スティームはバッチリ、アラッドの額から一本だけ角が生えているのを見てしまった。

(あれが狂化を使い過ぎた……いや、極めたからこそ現れる影響なのかは、解らない)

解らない。
それでも、スティームにとって狂化を使用したアラッドの姿を見た感想は、恐ろしいではなく頼もしいである。

「……捕食者、だな。初めてデネブと出会った時の事を思い出した」

「捕食者…………あなたも、風竜ルストと同じ事を言うんですね」

「名前から察するに、ただの風竜ではないドラゴンを討伐したことがあるようだな……羨ましい。この近辺には、デネブ以外のドラゴンは、亜竜のワイバーンやリザードしかいない」

「格上の存在であるドラゴンに挑むことを、恐ろしいとは思わないんですね」

「デネブから授かった力もあり、決して大胆に自慢出来るものではないが、それでも今の自分なら、格上の存在である彼等と対等に戦えるのか、この力が届くのか……この思いを、人間は夢と言うのだろう」

「……そうですね」

黒色のリザードマンと会話する中で、スティームは戦り辛いなと思い始めていた。

こういった存在もいるのだと……先程、私的な理由で闇竜デネブと話していたアラッドの気持ちが解らなくもなかった。

「………………あなたは、これまでどれだけの人間を殺してきましたか」

「ふむ? ………………我は野獣ではなく、力のない人間は殺していないが…………何人の力ある人間を殺してきたかは、覚えていない。とはいえ、千は越えていない」

「そうですか……それが聞けて、良かったです」

何が良かったのか、人間の心を持たない黒色のリザードマンだが、切り替わったその表情から、瞳から……先程の問いに答えた意味があったのだと思い、再度……今度は闘気を充満させながら構えた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。 彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...