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九百五話 そこでは死ねない

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「前にも思いましたが、野営でこれだけの料理を食べられるのは、本当に幸せですね」

出来上がった料理を食べながら、フローレンスは前回アラッドたちと共にナルターク王国へ向かう時の道中を思い出していた。

「お前なら、給金と討伐したモンスターの素材を売却すれば、それなりの金が入ってくるだろ。それで高品質のアイテムバッグかリング、それと惜しまず香辛料や塩を買えばどうだ」

非常に珍しい。
冒険者が……しかも侯爵家の令息がここまでまともな料理を作れるのは、確かに珍しい。

だが、アラッドはそこまで手の込んだ、時間が掛かる料理を作った訳ではない。

「フローレンス様は、ある事の為に懐に入った金を使ってるんだよ」

「知ってるよ。ある程度何に金を使ってるのか知ってるけど、それはそれでこれはこれだ。俺たち戦闘職の人間にとって、自分の体こそが資本だ。仕事を終えるまでの数日間は我慢しよう、なんて考えが普段の力を発揮できない要因に繋がってもおかしくない」

全くもってその通り過ぎる言葉に、ソルは敢えて自分の傷口を広げるような真似はせず、押し黙った。

「自分に通しして更に稼ぐのも一つの手だ」

「そうですね……強さだけでは、どうしようも出来ないこともありますからね………………アラッド、物凄く俗な話になってしまいますが、更に懐を暖かくしようとするには、どのような方法が良いでしょうか」

「戦闘者としてか? それなら、ダンジョンに潜るのが一番だと思うぞ」

まず、アラッドはダンジョンという迷宮、魔窟の存在自体は知っているが、まだ探索したことは一度もなかった。

なので、聞いた話でしかダンジョンという存在について知らない。
それは現在共に行動しているスティームとガルーレも同じだった。

「アラッドは、ダンジョンに潜ったことがあるのですか?」

「いや、まだないな」

「「「「「「っ!?」」」」」」

先程、フローレンスのどうすればもっと懐が暖かくなるかという問いに対し、あまりにも自信ありげに「それなら、ダンジョンに潜るのが一番だと思うぞ」答えていた。

にもかかわらず、これまた当然と言った表情でアラッドがまだダンジョンに潜ったことはないと答えたことに、ソルたちは堪えられずに吹いてしまった。

「あら、そうだったのですね」

「いずれ挑戦しようとは思っているけど、まだな。ダンジョン以外にも、色々と面白い事があるからな。それで、ダンジョンに潜れば懐が暖まると言った理由だが、ダンジョンには階層ボスという、更に下に降りたければ越えなければならない試練……いや、番人と言うべきか。そういった存在がいる」

「階層ボス、ボスモンスターと呼ばれるモンスターを討伐することで、ボスモンスターの素材だけではなく、報酬として必ず宝箱が手に入ります」

「スティームの言う通り、ダンジョンには文字通り宝箱と呼ばれる存在があるらしい。それはボスモンスターを討伐するだけではなく、通常の階層を探索している時にも見つかるらしいぞ」

全て知人の冒険者や、元冒険者である母から聞いた内容であるため、一応断言は出来ない。

とはいえ、アラッドがダンジョン探索の経験がある冒険者たちから聞いた内容に間違いはない。

「……ダンジョンと言えば、探索者たちを陥れる罠、トラップがあると聞いたことがあります」

「みたいだな。単純な落とし穴だったり、拘束、毒、転移。寧ろ、生息してるモンスターよりも、トラップの方が厄介だと言ってた冒険者もいたな」

トラップを見抜く方法に関して、フローレンスは専門外であり、ソルたちもそういった知識や経験はなかった。

「危機に陥るリスクを下げるなら、そういった特技を持つ者を育てるか、冒険者ギルドに頼んで優秀な斥候を用意してもらい、雇うのが良いと思うぞ」

「それも、投資ですね」

「理解が早くてなによりだ」

死んでしまったら、元も子もない。

フローレンスにとって、任務を受けてあるモンスターと……ある盗賊に殺されてしまうのは、致し方ない結果です。
当然、死ぬつもりは毛頭ないものの、誰かの命を守るために戦って死ぬのであれば、それは騎士としての本望と言える。

だが、ダンジョンを探索し、懐を潤す。
これに関しては、ぶっちゃけやる必要がないといえばない。

だからこそ、本当に実行することになれば、フローレンスは絶対に死ぬわけにはいかなかった。

「まぁ、方法の一つというだけだ。これもまた聞いた話にはなるが、ダンジョンは……偶に、明確に探索者たちを殺しにくることがあるらしいからな」

「ダンジョンが………………イレギュラーが重なる、ということでしょうか」

「多分な。種族関係無しに大量のモンスターが襲ってきたと思ったら、その匂いに釣られてなのか、Aランクモンスターが現れたりとか、な」

ゾッとするような内容を思わずイメージしてしまい、ソルたちはぶるりと体を震わせた。

そんな中、ガルーレだけはアラッドの話を聞き、ワクワク感がはっきりと表れている笑顔を浮かべるのだった。
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