上 下
904 / 984

九百二話 世界は広い、けど

しおりを挟む
「俺は、今のところ特に婚約とか結婚とか、そういうのは全く考えてないんだよ」

「そ、そう、か…………」

ガルーレの「こう見ると、アラッドとフローレンス様って、新婚夫婦に見えなくもないよね」という言葉が発端となり、ソルやルーナの怒りを爆発してしまった。

だが、アラッドは直ぐにそのつもりはないと、何故ならばという理由をしっかり説明した。

自分が仮にそういう関係になろうものなら、多くの令息たち……はたまた王子が黙ってないと。
俺はそんな連中の相手をするのは嫌だ。
それに、そもそも今はそういう事に一切考えてないと……そこまで言われてしまうと、ソルたちの怒りも静まるというもの。

「確かに、アラッドは生涯冒険者! みたいな事言ってたもんね」

「二人も似た様なものだろ。幾つまでっていう具体的なあれは決めてないが、それでも……これから先、十年はそういう事に関わらないだろうな」

(ふむ…………多くの令嬢や女性騎士たちにとって、悲しいお知らせといったところか)

アラッドは、貴族としての品性云々は置いておき、騎士という王道の道には進まなかったが、それでも冒険者という
道に進み、若くして成功している。

そして、貴族たちにとって、確かに品性という要素は大事である。

ただ、やはり女性としては……自分を守ってくれる強さを持つ雄に惹かれるところがある。
それはそこら辺の男たちよりもよっぽど強い女性騎士であっても、そこら辺の男よりも強い自分……よりも強い雄で、人格も破綻していないとなれば、やはり惹かれる。

そういう意味では、アラッドは実力だけではなく財力まであるため、実はそういった憧れを抱いている令嬢や騎士が少なくなった。

(……もしかして、あの人のことを思い出してるのかな)

アラッドが普段通りではなく、何かを思い出す様な表情を浮かべているのを見て、以前アラッドが話してくれた初めての女性の事を思い出した。

(というか、割とこの話って……スキャンダルとまではいかなくても、かなりのビッグニュースなのかな?)

アラッドは一応侯爵家の令息であるが、対してアラッドの初めての女性となったマジットは、平民出身の女性である。

合体する…………その点だけ見れば、特におかしいことはない。
貴族の令息たちがお忍びで娼館に通うことは珍しくなく、王族の中にもこっそり……絶対にバレないように変装して
通う者もいる。

だが、マジットは娼館に勤務している嬢ではなく、冒険者ギルドの職員として勤務している元Bランク冒険者。

スティームの勝手な見解ではあるが、アラッドの中で彼女の存在はかなり大きいのでは? と思っている。

「十年ね~~~~~。十年もあったら、先にシルフィーちゃんや、アッシュ君の方が結婚したりするんじゃない?」

「そうだな……その可能性は十分あるだろうな」

「それで、まだシルフィーちゃんの相手は、親子揃って見定めるつもりなの?」

「当然だろ。前にも話したと思うが、俺や父さんに勝てとは言わない。いや、勝てるほどの実力を持っているなら、それに越したことはないが……あまり多くはないだろう」

フールは既に肉体的には全盛期を過ぎているが、それでもレベルによる恩恵は消えておらず、技術に関しては一切錆びていない。

そして、アラッドは肉体に関しては、まだまだこれから全盛期である。

世の中は広く、国を越えてきてくれなければ、スティームの様な同世代の強者と出会えなかった。
なので、世界の何処かに自分の様に転生者という生まれながらのアドバンテージがあるような人間ではなく、純粋で桁違いの才を、強さを持つ者がいてもおかしくないと、アラッドは思っている。

ただ……本当に世界は広く、そういった男とシルフィーが巡り合えるかは、また別問題である。

「まぁ、アッシュに関しては本当に十年後ぐらいまでには良い相手を見つけて……いや、無理か。良い女性が、アッシュの事を見つけてくれるのを祈るしかないか」

あの基本的に錬金術の虫であるアッシュに、兄たちや両親を安心させられる女性を見つけてほしいという願いは、まず敵わないと断言出来てしまう。

「というか、今そういうのはいいんだよ」

そう言いながら、アラッドは再び先程購入した物とは別の野菜を眺め始めた。

(十年……十五年、二十年ぐらい待ってみるのも、ありかもしれませんね)

フローレンスは特に結婚願望はなかった。
両親は当然の様に結婚してほしいとは思っているが、本人にはその願望がない。

ここ最近、更にその気持ちは大きくなっており……当然、理由は目の前にいる同じ貴族の令息。
アラッドとなら、しても良いと思える。

フローレンスはフローレンスで、世界は広いと認めている。
ただ、この令嬢は令嬢で……バーサーカーという訳ではないが、ある程度の強さを伴侶に求める。

それこそ……契約している光の精霊、ウィリアスと共に戦っても問題無いレベルの強さを。

十年後という時点で、貴族令嬢としての結婚適齢期は完全に過ぎている。
両親からすれば阿鼻叫喚ものであるが、アラッドにその気が起きないのであれば、それはそれで仕方ないと……他に気が惹かれる男性が現れれば別だが、現れなければ……生涯独身でも構わないと思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...