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九百一話 こう見ると……

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「ありがとう……それじゃあ、これからに関して話そうか」

「一気にアンドーラ山岳を隅々まで調べるか、何回かに別けるか、ということですね」

「あぁ、そうだ。個人的には、食料などを先に買い込み、一度の探索で闇竜を探し出し、討伐出来ればと考えている」

本来持てるはずのない闇の力を持つモンスターと遭遇は出来ているが、人間ではなく……人の言葉を喋れる個体もいないため、今のところ闇竜の手掛かりすら掴めていない。

「因みに、俺たちと共に行動するなら、夜はクロたちが見張りをしてくれるため、全員が睡眠を取れる」

「……それは、素直に羨ましいな」

槍使いの騎士、レパレスは本当に心の底から羨ましいと思った。

それはレパレスだけではなく、他の騎士たちも同じ気持ちだった。

「どういったらモンスターと心を通わせ、従魔という存在と共に行動出来るのか知りたいところですが、それはまた後でで良いでしょう。私としては、一度の探索で闇竜を探し出すというアラッドの案に異論はありません」

フローレンスがソルたちに顔を向けると、何度かに分けて探索した方が良いんじゃないかと思っていた者も、アラッドたちと共に行動することで毎日十分な睡眠を取れるというメリットに惹かれ、アラッドの案に賛成した。

「よし。では、明日必要な物を全て買い込み、二日後の朝から街を出て闇竜の探索を始めよう」

翌日の朝食過ぎからアラッドたちは再び集まり、必要な食料などを買い込み始めた。

「…………これとこれとこれを頂こう」

「まいどあり!!」

複数の野菜を購入するアラッドを、フローレンスは面白い物を見る眼を向けていた。

「なんだよ」

「いえ、こう……野菜をじっくりと眺めるアラッドというのが少し面白くて」

「そうかよ。体調とかを気遣うなら、野菜はしっかり食べとかないとダメだろ。肉はモンスターを倒せば手に入るけど、野菜はそう簡単に手に入らない」

骨付き肉にかぶり付くのは非常に好きだが、アラッドは別に野菜が嫌いではなかった。

栄養学などの知識はないものの、野菜不足は健康に悪い影響を及ぼす、ぐらいの事は知っている。

「……ふふ、やっぱり、そういうところも面白いですね」

「俺からすれば、何が面白いのかさっぱり解らん」

「「…………」」

本気で首を捻るアラッドだが、パーティーメンバーであるスティームとガルーレは解らなくもなかった。

アラッドは年齢離れした実力の持ち主であり、その実力を強敵相手に振るうことを好む。
加えて、戦闘者なのに錬金術という分野にも興味を持つ変人。

そんな常人には理解不能な人物が体調、栄養に気を使い、自ら野菜を選ぶ姿には……ギャップを感じざるを得ない。

「というか、あれだよね~~~。こう見ると、アラッドとフローレンス様って、新婚夫婦に見えなくもないよね」

「「「「「「っ!!!!」」」」」」

(あぁ~~~~……ついに言っちゃったよ。ガルーレのバカ)

衝撃の発言をサラッと口にしたガルーレに対し、スティームは珍しく仲間に暴言を心の中から投げた。

(それで……うん、予想通りの反応だね)

ガルーレから「アラッドとフローレンス様って、新婚夫婦に見えなくもないよね」と言われた二人の内、一人は非常に不機嫌そうな表情を浮かべ、もう一人はまんざらでもない表情を浮かべていた。

実際に、貴族という立場を考えれば、アラッドやフローレンスたちの年齢で結婚しててもおかしくはない。
そのため、ガルーレが思った事に関しては常識外れではないのだが、ソルたちも共に行動してる事を考えれば、少なくとも……今この場で口にする内容ではなかった。

「ガルーレ……お前、いきなり何言ってるんだ」

「何って、こう……なんか、そういう光景に見えたからさ」

「はぁ~~~~~、そうかよ」

個人の感想である。
ガルーレは自分に対し、無理にフローレンスとくっ付けば良いんじゃないかと伝えてる訳ではない。
ただ思った事を口にしただけである。

そう思い、アラッドは大きな大きなため息を吐くだけで、苦言を呈すことはなかった。

「なっ!! お、お前! フローレンス様の何が気に食わないんだ!!!」

「気に食わないとか、そういう話じゃない」

「じゃあ、なんで盛大にため息を吐いたんだ!!!」

「なんで、そりゃお前…………」

そこを突かれると、上手く言葉が出てこないアラッド。
気に食わないというより、面倒という感想が強いため、盛大なため息が零れてしまったのだ。

ソルやルーナからすれば、結局フローレンスの事を気に食わないと思ってる、と捉えられえしまう。

「…………仮にフローレンスと結婚の前に婚約関係にでもなってみろ。国中から、おそらく国外からもなんでお前が!!! って非難が殺到して、俺と勝負だ私と勝負だって押し寄せてくるバカが無数に現れるだろ」

アラッドは……確かに強い。
侯爵家の令息という立場もあり、公の場ではTPOに沿った行動や言動を行える。

ただ、今現在は冒険者として活動しており、品性などに問題無いかと言われると……貴族の令息らしい令息かと言われれば、頭を傾げる存在。

その為、アラッドの言う通り国内だけではなく、国外からも何故お前がと……それなら私の方がと名乗り出る者が大勢現れるのは火を見るよりも明らかであった。
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