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八百九十三話 見分け方?
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「一旦戻るか」
バーレルクロウというカラスの様なCランクモンスター三体をファルが討伐し終えた後、アラッドは一旦街に戻ると決めた。
リーダーの決定に特に異論はなく、バーレルクロウの死体を解体後、三人はそれぞれの従魔に乗ってハイスピードで帰還。
「まずは冒険者ギルド?」
「……とりあえずそうだな」
グレートウルフやラバーゴート、サラマンダーやバーレルクロウ以外のモンスターとも戦っており、アラッドたちは得た素材や魔石などを売却。
その後、ギルドの職員に闇の力を持ったサラマンダーの事を伝えた。
「その様な個体が……」
従業員たちの中でも立場のある職員がアラッドたちの話を個室で聞き、険しい表情を浮かべる。
「そのサラマンダーは、間違いなく闇の力を有していたのですね」
「はい。途中までのならともかく……最後に放った特大ブレスには、ハッキリと認識できる程の闇が混ざっていました」
「…………そうですか。アラッドさんたちが今回の探索で討伐したモンスターの中に、そういった個体はサラマンダーだけだったのですね」
「えぇ」
「……アラッドさんの言う通り、相手を選んでいるという予想が妥当、ですね」
頭が痛い……非常に頭が痛い。
ゴルドスを拠点としている冒険者たちの質は、決して低くない。
ただ、特別高い訳でもない。
一人でもAランクに到達している冒険者がいれば話は別だが、最高でもBランク。
話を聞く限り、闇の力を持つサラマンダーとぶつかれば、最悪の場合パーティーの誰かが欠けてもおかしくない。
(フローレンス様たちが来てくれただけでも嬉しかったですが、アラッドさんたちが来てくれた事にも感謝しなければなりませんね)
男性職員の本音を言うと、いざという時に街を守る戦力となる冒険者を、失いたくない。
勿論、彼らが冒険者であると……その事実は忘れてはいない。
だが、せっかく国に属する騎士団から優れた騎士たちが派遣され、同じ標的を狙うゴルドスが拠点地ではない冒険者たちが訪れてくれた。
そういった幸運が重なった状況で、無駄に戦力を下手したくない。
アラッドとスティームは職員の表情から、なんとなく考えていることは察した。
察した上で、特にツッコむような野暮な真似はしない。
「俺の個人的な考えですが、闇の力を授かってから時間が経っている個体ほど、闇の力を扱うことに長けています。もしかしたら……それが体に現れている可能性もあるかと」
「なるほど。得た経緯がそういった者であれば……体の一部が黒く変色している可能性がありそうですね」
ヴァジュラが戦ったサラマンダーには、そういった変化はなかった。
本当にアラッドの個人的な予想ではあるが、ギルド職員はただの予想だと軽んじることはなく、貴重な予想だと受け止めた。
「貴重なお話をしていただき、ありがとうございます」
「冒険者も、持ちつ持たれつです。情報提供ぐらいはしますよ」
そう言い、アラッドたちはロビーへと戻って行った。
(……さすが、良い意味で貴族出身の冒険者ですね。実力から生まれる余裕の差もありますが、本当にあの様な考えを持ちながら冒険者として活動している者が何人いることやら)
男はこれまで関わってきた冒険者たちの顔を思い浮かべるが……アラッドと同じ考えを持っているであろう者は、両手の指で十分足りるといった数しかいなかった。
(それに、アラッドさんたちが教えてくれた情報を彼らに伝えたところで……果して何人の冒険者たちが素直に情報を信じて頭の片隅に置いてくれるか……あぁ~~~~、頭が痛い)
冒険者とは、冒険をしてはならない。
本当に冒険者たちの事を大切に思っている受付嬢、ギルド職員たちであれば、ルーキーたちに矛盾とも取れる言葉を
送る。
ルーキーたちからすれば、本当に意味が解らない。
金持ちになる、成り上がる、英雄譚に出てくる様な冒険者になる……その為に冒険者となったのに、冒険してはならないとはいったいどういう事かと、理解に苦しむ。
だが、実際に冒険者として活動を始め、避けられないリアルに直面し、経験を積んでいけば積んでいくほど、その言葉の意味が良く解ってくる。
しかし……続けてきた、乗り越えてきた経験と言うのは、冒険者たちの自信に変わっていく。
故に、冒険者とは冒険をしてはならない……と解っていながらも「このモンスターは君たちが戦えば負けてしまう、死んでしまう可能性が高いから、戦っちゃ駄目だよ。遭遇しても直ぐに逃げるんだよ」と言われれば……はいそうですか、解りましたと答える冒険者は殆どいない。
これは、決して彼らがどこまで行っても思考力が身につかないポンコツという話ではない。
ただ……冒険者とはそういう生き物なのだと、変えようがない。
「…………だとしても、伝えなければなりませんね」
ひとまず、男性職員は話が通じて、同業者たちから人望がある冒険者から今回得た情報を伝えることにした。
バーレルクロウというカラスの様なCランクモンスター三体をファルが討伐し終えた後、アラッドは一旦街に戻ると決めた。
リーダーの決定に特に異論はなく、バーレルクロウの死体を解体後、三人はそれぞれの従魔に乗ってハイスピードで帰還。
「まずは冒険者ギルド?」
「……とりあえずそうだな」
グレートウルフやラバーゴート、サラマンダーやバーレルクロウ以外のモンスターとも戦っており、アラッドたちは得た素材や魔石などを売却。
その後、ギルドの職員に闇の力を持ったサラマンダーの事を伝えた。
「その様な個体が……」
従業員たちの中でも立場のある職員がアラッドたちの話を個室で聞き、険しい表情を浮かべる。
「そのサラマンダーは、間違いなく闇の力を有していたのですね」
「はい。途中までのならともかく……最後に放った特大ブレスには、ハッキリと認識できる程の闇が混ざっていました」
「…………そうですか。アラッドさんたちが今回の探索で討伐したモンスターの中に、そういった個体はサラマンダーだけだったのですね」
「えぇ」
「……アラッドさんの言う通り、相手を選んでいるという予想が妥当、ですね」
頭が痛い……非常に頭が痛い。
ゴルドスを拠点としている冒険者たちの質は、決して低くない。
ただ、特別高い訳でもない。
一人でもAランクに到達している冒険者がいれば話は別だが、最高でもBランク。
話を聞く限り、闇の力を持つサラマンダーとぶつかれば、最悪の場合パーティーの誰かが欠けてもおかしくない。
(フローレンス様たちが来てくれただけでも嬉しかったですが、アラッドさんたちが来てくれた事にも感謝しなければなりませんね)
男性職員の本音を言うと、いざという時に街を守る戦力となる冒険者を、失いたくない。
勿論、彼らが冒険者であると……その事実は忘れてはいない。
だが、せっかく国に属する騎士団から優れた騎士たちが派遣され、同じ標的を狙うゴルドスが拠点地ではない冒険者たちが訪れてくれた。
そういった幸運が重なった状況で、無駄に戦力を下手したくない。
アラッドとスティームは職員の表情から、なんとなく考えていることは察した。
察した上で、特にツッコむような野暮な真似はしない。
「俺の個人的な考えですが、闇の力を授かってから時間が経っている個体ほど、闇の力を扱うことに長けています。もしかしたら……それが体に現れている可能性もあるかと」
「なるほど。得た経緯がそういった者であれば……体の一部が黒く変色している可能性がありそうですね」
ヴァジュラが戦ったサラマンダーには、そういった変化はなかった。
本当にアラッドの個人的な予想ではあるが、ギルド職員はただの予想だと軽んじることはなく、貴重な予想だと受け止めた。
「貴重なお話をしていただき、ありがとうございます」
「冒険者も、持ちつ持たれつです。情報提供ぐらいはしますよ」
そう言い、アラッドたちはロビーへと戻って行った。
(……さすが、良い意味で貴族出身の冒険者ですね。実力から生まれる余裕の差もありますが、本当にあの様な考えを持ちながら冒険者として活動している者が何人いることやら)
男はこれまで関わってきた冒険者たちの顔を思い浮かべるが……アラッドと同じ考えを持っているであろう者は、両手の指で十分足りるといった数しかいなかった。
(それに、アラッドさんたちが教えてくれた情報を彼らに伝えたところで……果して何人の冒険者たちが素直に情報を信じて頭の片隅に置いてくれるか……あぁ~~~~、頭が痛い)
冒険者とは、冒険をしてはならない。
本当に冒険者たちの事を大切に思っている受付嬢、ギルド職員たちであれば、ルーキーたちに矛盾とも取れる言葉を
送る。
ルーキーたちからすれば、本当に意味が解らない。
金持ちになる、成り上がる、英雄譚に出てくる様な冒険者になる……その為に冒険者となったのに、冒険してはならないとはいったいどういう事かと、理解に苦しむ。
だが、実際に冒険者として活動を始め、避けられないリアルに直面し、経験を積んでいけば積んでいくほど、その言葉の意味が良く解ってくる。
しかし……続けてきた、乗り越えてきた経験と言うのは、冒険者たちの自信に変わっていく。
故に、冒険者とは冒険をしてはならない……と解っていながらも「このモンスターは君たちが戦えば負けてしまう、死んでしまう可能性が高いから、戦っちゃ駄目だよ。遭遇しても直ぐに逃げるんだよ」と言われれば……はいそうですか、解りましたと答える冒険者は殆どいない。
これは、決して彼らがどこまで行っても思考力が身につかないポンコツという話ではない。
ただ……冒険者とはそういう生き物なのだと、変えようがない。
「…………だとしても、伝えなければなりませんね」
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