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八百九十一話 ナイスな判断

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「黒炎になりかけてないならよし……とは、言えないよね」

「そう、だな……純粋な火力は、上がってると思う。ただ、ヴァジュラも炎は使える。それを考えれば、火に対する耐性はあるはずだ」

実際のところ、ややヴァジュラが圧され気味ではあるものの、それでも今だ一方的な戦いにはなっていない。

「ん~~~、ねぇアラッド。火以外の属性を持つサラマンダーって、そう簡単に現れないよね」

「現れない……というか、仮に現れるにしても、どうやって生まれるのか見当がつかない」

あり得ない、そんな事無理だと決めつけるのは早計であるのは解っている。

ただ、様々な可能性を考えるも、これかもしれない! と思える内容が思い付かない。

「……アラッド」

「なんだ、スティーム」

「強い力を持っているモンスターが、サラマンダーに自分の力の……一部? を付与した可能性は……ないかな」

「付与……そうか、付与か」

それならばあり得そうだと思ったアラッド。

だが、仮にそれが事実であるとするならば、一つ問題が発生する。
サラマンダーはBランクモンスターであり、世間一般的には十分強者に位置する存在。

それほどの存在に自身の力を付与する、サラマンダーが授かろうとした事実を考えると……バックにはどういったモンスターが潜んでいるのかという問題が浮かび上がる。

「単純に上位種と考えれば……俺とクロがこの前戦った轟炎竜か。でも、火と火なら付与するものは何もないか」

「もしかしなくても、私たちやフローレンスさんが狙ってる闇竜がAランクにランクアップしちゃってる感じ?」

「「………………」」

ガルーレがサラッと口にした言葉に対し、アラッドとスティームは直ぐに肯定も否定も口に出来なかった。

ソルヴァイパーが白雷を会得する瞬間、死にかけの火竜がもう一体の火竜を食らうことでAランクの轟炎竜へと進化した光景などを生で見た二人としては、肯定したくはないが……やはり安易に否定は出来なかった。

「あれ、なんか二人共渋そうな顔だね」

「……まぁな」

「なんで? スティームはともかく、アラッドなら凄い喜びそうって思ったけど」

アラッドは間違いなく自分よりの人間だと思っているガルーレにとって、今現在アラッドが渋い表情を浮かべているのは、意外過ぎると少し驚いていた。

「闇竜に関して色々と知ってる訳ではないけど、ただ……強いっていう予想よりも、厄介ってイメージが先に浮かぶんだよ」

「僕も同じかな」

スティーム、ガルーレの予想が当たっていれば、Aランクに進化した闇竜はただAランクという災害に近い戦闘力を手に入れただけではなく、他のモンスターに自身の力の一部を付与し、支配下に置くことが出来る。

(でも、それなら昼間ガルーレが戦ったラバーゴートはなんで闇の魔力? を持っていなかったんだ……突進、かち上げの威力が増加することを考えれば…………単純に出会ってなかった、ってことか?)

様々な可能性が頭の中に思い浮かび、どんどんどんどんアラッドの眉間にしわが寄っていく。

「アラッド、凄い顔になってるよ」

「あぁ…………まぁ、そうだな。悩み過ぎも良くはないな」

「そうだよ。なにも、アラッド一人だけで背負う必要はないんだから」

スティームの言葉を受け、アラッドは少し心が軽くなった気がした。

「だね~~。でもさ、でもさ。そうなると、もしかしたらフローレンスさんたちとも連携しておいた方が良い感じなる?」

「…………」

スティームの気遣い溢れる言葉を受け、表情が柔らかくなった筈だったが、また一気に渋い表情に戻ってしまった。

「あっはっは!!! もう~~~、笑わせないでよアラッド~~~」

「仕方ないだろ…………連携云々は別にして、一応闇竜にそういう力があるかもしれないという報告だけはしておいた方が良さそうだな」

「それはそうだね。それにしても、闇竜は……見境なく、自身の力を付与してる訳ではないのかな」

「……かもしれないな。どれだけ力量を持っているか、力を付与した後に自分の支配下に置けるのか……そういった事を考えてるかもしれないな」

BランクからAランクに昇格しているか否かはさておき、自身の力を付与する……それだけでも十分に厄介な能力である。

(仮に闇竜がAランクに進化していたら……ここに、フローレンスを派遣した上の人たちはナイス判断を下したと言えるな)

アラッドからすればまさかの再開ではあったが、アンドーラ山岳の最寄り街であるゴルドスのことなどを考えれば、間違いなく弱点を突けるフローレンスを派遣するのはベストな判断と言えた。

因みに……これだけサラマンダーに闇の力を付与したであろう存在に関してあれこれ話、多少の不安を感じているアラッドたちだが……現在、その闇の力付与されたであろうサラマンダーと戦闘しているヴァジュラに関しては、誰一人として心配していなかった。

何故なら……全員、ヴァジュラが乾いた笑みではなく、本気でバチバチに熱い戦い行っているからこそ零れてしまう笑みを浮かべていたから。
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