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八百八十九話 隣に顔は……ない

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「ふぅ~~~、そろそろ腹一杯になってきたな。お前ら、後どれぐらい食べる?」

「ん~~~……私はあと六枚かな!!」

「僕は三枚で」

「ワゥ!!!」

「クルルゥ」

「ウキャッ!!!」

「オッケー」

従魔たちもそれぞれジェスチャーであと何枚食べるか伝え、アラッドはまだ残っているラバーゴートの肉を捌き、焼いていく。

「ん? ……炎、か?」

既に日は落ちている。

焚き木を燃やしているアラッドたちの周囲は明るいが、周囲は暗い。

(……同業者か?)

同業者であれば、松明を使いながら移動していてもおかしくない。
だが、アラッドは直ぐにその考えを消した。

「なぁ、二人とも」

「うん……人の顔が、ないね」

「もしかして、レイスって幽霊? 系のモンスターってこと?」

人が松明を持ってえ移動する時、持ち方的に松明の火が持ち手の顔部分にくる。
だからこそ、松明の火であれば、直ぐ近くに人の顔が見えてもおかしくない。

だが……三人の元に近づいてくる火の隣には、人の顔がなく、ただゆらゆらと揺れていた。

(モンスター、か。火を纏う……常に火を纏っているモンスター? となると…………ダメだ、解らん)

どういったモンスターなのか思い付かない。
しかし、アラッドたちに近づけば近づくほど、焚き木の火によって全容が見えてくる。

「あれは、サラマンダー、だね」

「あれが…………なるほど。リザードとは訳が違うな」

ある程度姿が見えてきた。

四足歩行で、赤い鱗を持ち、尾も持っている。
そして……アラッドたちが最初に確認出来ていた通り、尾の先には火が灯っていた。

一見すれば亜竜の一種でありリザードに見えなくもないが、フォルムがやや異なる。
加えて、ある程度敵対した相手の戦力を把握出来る者であれば、直ぐにリザードとは有する戦力が違うと解る。

「ウキャキャ!!!!」

遠距離からいきなりブレスを放つことはなく、ゆっくりと近づいてきた。

もしかしたら、敵意がない?
そう思ってしまうのも仕方ない……だが、サラマンダーは明らかにアラッドたちに対して敵意を零していた。

それはヴァジュラも気付いており、夕食後の腹ごなしには丁度良いと思い、棒を持って跳躍。

「ウキャッキャ!!」

意気揚々と構え、掛かって来いよとサラマンダーを挑発する。

「アラッド、勝手に戦おうとしてるけど、良いの?」

「良いんじゃないか。今日は主に俺らが戦ってしまったからな。ヴァジュラ的には暴れたりなかったんだろ」

大正解であった。

ラバーゴートの焼肉を食えて満足なところはあったが、それはそれでこれはこれ。
やはり強敵と戦えるなら、是非とも自分が戦いたい。

「ヴァジュラとしても、丁度良い相手だろ」

「それじゃあ、私たちの仕事はヴァジュラとサラマンダーの戦いに乱入しようとするバカが現れたら、即ぶっ潰せるように見張ることね」

「そういう事だ」

と言いながらも、アラッドはとりあえず周囲に他のモンスターがいない事を確認すると、既に切り終えたラバーゴートの肉を焼き始めた。

「……アラッド」

「大丈夫だって。今思いっきり調べたけど、とりあえず周囲に他のモンスターはいなかった」

「ワゥ!」

「ほら、クロも大丈夫だって言ってるだろ。とりあえず、つまみぐらいは用意しても良いだろ」

既にヴァジュラとサラマンダーの戦闘は始まっていた。

得物である頑強な棒を振り回し、サラマンダーは炎を纏った爪撃で対抗。
ヴァジュラが死角に回り込もうとすれば、鋭い炎尾を振り回して対応。

当るだろうと思った攻撃を相殺されたヴァジュラは、予想以上に刺激的な相手だと理解し、普段以上に楽し気な笑みを浮かべていた。

「……今の攻撃、割と当たると思ったんだけど、サラマンダーはあっさりと尾で対応したね。もしかして、私たちみたいに、立体感知のスキルを持ってるとか?」

「そいつはどうだろうな……気配じゃなくて火……生物が持つ熱さ、熱で存在を感じ取ってるのかもしれない」

「人が持つ熱? …………って、どういう事? 気迫とか、そういう意味での熱じゃないんでしょ?」

頭を捻るガルーレに対し、アラッドはどう説明すれば良いか迷った。

(解る人は解るだろうが、俺が素直にそう思えるのは、前世の体温計のお陰だからな……ん~~~~~~)

数条秒ほど考え込み、先日の冒険が頭に浮かんだ。

「ガルーレ。寒い場所に行けば、寒いと感じるだろ」

「それは勿論」

「その時、自分の体を触れば、更に冷たいと感じないか?」

「……なる、ほど? 風邪になった時とか、確かに体が熱くなるし……そっか。それで、サラマンダーは炎の四足歩行竜だから、目で終えてなくても……熱の移動? で、死角からの攻撃もある程度対応出来るってことね」

「個人的な予想だけどな」

決して鈍くはない。
鈍間なゴーレムなどとは訳が違う。

ただ、同じ四足歩行とはいえ、虎系モンスターや豹系モンスターなどと比べれば、どうしてもスピード、敏捷性に欠ける。

(それに、爪撃尾撃だけではなく、ブレスの小出し、爪撃を叩き込もうとしながら火の攻撃魔法を放てる……俺たちが戦っても、楽な相手ではないな)

「…………」

観戦と警戒を行う中……クロは、僅かな異変を感じていた。
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