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八百八十四話 欲しいに決まってる
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(あれ……これってチャンスじゃないのか)
アラッドは別に感謝される様なことをしたつもりはないが、それでも何故かフローレンスから感謝され、礼の品を受け取った。
アラッドとしても……トーナメントの決勝戦でフローレンスと戦えたのは……良い経験だったと思っている。
「では、もう直ぐそこですので」
そう言ってフローレンスが別れようとした瞬間……アラッドは不意に、その手を握った。
「っ!? ………………えっと、アラッド?」
「っ!!!!???? す、すまん!!」
当然、フローレンスは驚いた。
戦闘中に自分が敵の攻撃を躱せない体勢……だからこそ、アラッドが手を取って無理矢理移動して、回避することに成功した……といった状況ではない。
二人は先程までバーでカクテルを呑んでいた。
既にアラッドだけではなく、フローレンスもそこそこ酔いが回っていた。
そして…………フローレンスはアラッドの事を一人の猛者として、敬意を持つ人物として……男としても、見ている部分があった。
だからこそ、不意に手を掴まれ……フローレンスにしては珍しく、頬が朱色に染まった。
「いや、その……あれだ」
そして咄嗟にフローレンスの手を握ったアラッドも驚いていた。
自分は何をしてるのだと。引き止めたかったら、声を掛けるだけで良いだろと……何故手を握ってしまったのかと、ほんの数秒前の自分に向かって何度も文句をぶつける。
「…………俺は俺で、あの決勝でお前と戦ったのは、良かったと思ってる」
「あら、そうですの? 当時の私は、アラッドにかなり嫌われていたと思うのですが」
今でも覚えている。
珍しく向けられた、嫌悪の感情。
決勝戦で戦い終え、その後のパーティー会場で伝えられた言葉、表情……そのどれもが新鮮であり、フローレンスの生き方に新たな道を教えてくれた。
ただ、やはり嫌われている。それは覚えていた。
「そうだな。それでも、あそこまで満足のいく戦いができたのは初めてだった」
「……それはそれ、これはこれというやつですね」
「雑に言ってしまうと、そういう事だな…………だからって訳じゃないが、もし………………お前が、欲しいなら。お前のキャバリオンを造る」
まさかの提案に、フローレンスは数秒ほど固まってしまった。
キャバリオンというマジックアイテムの存在は知っており、いずれは頼もうかと思っていた。
ただ、欲しいなら造ると……アラッドの方から提案されるとは、微塵も思っていなかった。
(……ただの切っ掛けかもしれませんが、先程の私の判断は、非常にファインプレーだったのかもしれませんね)
もしかしたら、アラッドは元々自分に造ろうと思っていたのかもしれない。
だが、切っ掛けがなかった。しかし……自分が紅と蒼の長剣を渡したことで、口実が生まれたかもしれない。
フローレンスはそんなもしもな流れを思い付くと……本当に過去の自分を褒めたいと思った。
「まぁ、いらないと言うなら、他の物で礼を返すが」
「何を言ってるのですか。欲しいに決まってるでしょう」
「そ、そうか」
ずいっと顔を近づく、フローレンスは是非ともキャバリオンが欲しいと伝えた。
正直なところ、キャバリオン以外の物であれば、逆に何をくれるのか気になるところではあるが……それでも、アラッドは貴族界隈ではあのフールの……剣鬼、ドラゴンスレイヤーの名を持つ元騎士に相応しい実力を持つ傑物。
そういった評価以外に、それほどの強さを持ちながらも、錬金術という戦闘とは異なる分野に興味を持ち……結果を出しているアラッドに対し、ある人は敬意の念を……逆に恐れの念を抱くこともある。
そんなアラッドが生み出したキャバリオンという独自のマジックアイテム。
欲しくない、わけがなかった。
「ただな、フローレンス。お前レベルの奴に造るなら、それなりの素材で造る訳にはいかない」
「安心して。素材は私が集めます」
「……それは、俺としては有難いが、本当に良いのか?」
「えぇ、勿論です」
現在、アラッドは冒険者として活動している。
ちょくちょく個人的に依頼されている物を造ってはいるが、主にそれで飯を食っている訳ではない為、順番待ちの列は非常に長い。
「ただ、素材を用意したら、真っ先に私のキャバリオンを造ってくれるのですよね」
「あぁ」
そんな中、他の依頼者を飛び越し、自分のキャバリオンを優先して造ってくれる。
となれば、寧ろ素材ぐらい自分で集めるのは当然だと思っていた。
「先に製作費に関してだけ訊いてもおいても良いでしょうか」
「…………製作費はいらん」
「っ!? そ、そういう訳にはいきません」
現在、キャバリオンというマジックアイテムを造れるのはいアラッドのみ。
決して……技術者の技術力、製作力の価値を見誤ってはいけない。
騎士になってから、武器や防具を造ってくれる鍛冶師たちと関わる様になり、その思いは日に日に大きくなっていた。
「製作者が良いって言ったんだ。それに、お前はお前で……稼いだ金を使い道が決まってるんだろ」
「っ……そう、ですね」
「言った通り、お代はいらん。だから、素材が揃ったらまた声を掛けてくれ」
「……分かりました」
今度こそ、二人は別れてそれぞれの宿へ戻った。
アラッドは別に感謝される様なことをしたつもりはないが、それでも何故かフローレンスから感謝され、礼の品を受け取った。
アラッドとしても……トーナメントの決勝戦でフローレンスと戦えたのは……良い経験だったと思っている。
「では、もう直ぐそこですので」
そう言ってフローレンスが別れようとした瞬間……アラッドは不意に、その手を握った。
「っ!? ………………えっと、アラッド?」
「っ!!!!???? す、すまん!!」
当然、フローレンスは驚いた。
戦闘中に自分が敵の攻撃を躱せない体勢……だからこそ、アラッドが手を取って無理矢理移動して、回避することに成功した……といった状況ではない。
二人は先程までバーでカクテルを呑んでいた。
既にアラッドだけではなく、フローレンスもそこそこ酔いが回っていた。
そして…………フローレンスはアラッドの事を一人の猛者として、敬意を持つ人物として……男としても、見ている部分があった。
だからこそ、不意に手を掴まれ……フローレンスにしては珍しく、頬が朱色に染まった。
「いや、その……あれだ」
そして咄嗟にフローレンスの手を握ったアラッドも驚いていた。
自分は何をしてるのだと。引き止めたかったら、声を掛けるだけで良いだろと……何故手を握ってしまったのかと、ほんの数秒前の自分に向かって何度も文句をぶつける。
「…………俺は俺で、あの決勝でお前と戦ったのは、良かったと思ってる」
「あら、そうですの? 当時の私は、アラッドにかなり嫌われていたと思うのですが」
今でも覚えている。
珍しく向けられた、嫌悪の感情。
決勝戦で戦い終え、その後のパーティー会場で伝えられた言葉、表情……そのどれもが新鮮であり、フローレンスの生き方に新たな道を教えてくれた。
ただ、やはり嫌われている。それは覚えていた。
「そうだな。それでも、あそこまで満足のいく戦いができたのは初めてだった」
「……それはそれ、これはこれというやつですね」
「雑に言ってしまうと、そういう事だな…………だからって訳じゃないが、もし………………お前が、欲しいなら。お前のキャバリオンを造る」
まさかの提案に、フローレンスは数秒ほど固まってしまった。
キャバリオンというマジックアイテムの存在は知っており、いずれは頼もうかと思っていた。
ただ、欲しいなら造ると……アラッドの方から提案されるとは、微塵も思っていなかった。
(……ただの切っ掛けかもしれませんが、先程の私の判断は、非常にファインプレーだったのかもしれませんね)
もしかしたら、アラッドは元々自分に造ろうと思っていたのかもしれない。
だが、切っ掛けがなかった。しかし……自分が紅と蒼の長剣を渡したことで、口実が生まれたかもしれない。
フローレンスはそんなもしもな流れを思い付くと……本当に過去の自分を褒めたいと思った。
「まぁ、いらないと言うなら、他の物で礼を返すが」
「何を言ってるのですか。欲しいに決まってるでしょう」
「そ、そうか」
ずいっと顔を近づく、フローレンスは是非ともキャバリオンが欲しいと伝えた。
正直なところ、キャバリオン以外の物であれば、逆に何をくれるのか気になるところではあるが……それでも、アラッドは貴族界隈ではあのフールの……剣鬼、ドラゴンスレイヤーの名を持つ元騎士に相応しい実力を持つ傑物。
そういった評価以外に、それほどの強さを持ちながらも、錬金術という戦闘とは異なる分野に興味を持ち……結果を出しているアラッドに対し、ある人は敬意の念を……逆に恐れの念を抱くこともある。
そんなアラッドが生み出したキャバリオンという独自のマジックアイテム。
欲しくない、わけがなかった。
「ただな、フローレンス。お前レベルの奴に造るなら、それなりの素材で造る訳にはいかない」
「安心して。素材は私が集めます」
「……それは、俺としては有難いが、本当に良いのか?」
「えぇ、勿論です」
現在、アラッドは冒険者として活動している。
ちょくちょく個人的に依頼されている物を造ってはいるが、主にそれで飯を食っている訳ではない為、順番待ちの列は非常に長い。
「ただ、素材を用意したら、真っ先に私のキャバリオンを造ってくれるのですよね」
「あぁ」
そんな中、他の依頼者を飛び越し、自分のキャバリオンを優先して造ってくれる。
となれば、寧ろ素材ぐらい自分で集めるのは当然だと思っていた。
「先に製作費に関してだけ訊いてもおいても良いでしょうか」
「…………製作費はいらん」
「っ!? そ、そういう訳にはいきません」
現在、キャバリオンというマジックアイテムを造れるのはいアラッドのみ。
決して……技術者の技術力、製作力の価値を見誤ってはいけない。
騎士になってから、武器や防具を造ってくれる鍛冶師たちと関わる様になり、その思いは日に日に大きくなっていた。
「製作者が良いって言ったんだ。それに、お前はお前で……稼いだ金を使い道が決まってるんだろ」
「っ……そう、ですね」
「言った通り、お代はいらん。だから、素材が揃ったらまた声を掛けてくれ」
「……分かりました」
今度こそ、二人は別れてそれぞれの宿へ戻った。
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