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八百八十三話 お礼

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「どうぞ」

「……いや、どうぞって言われても…………なんだ、それは?」

フローレンスがアイテムバッグから取り出した者は、二つの長剣だった。

「私が以前、紅いリザードマンと蒼いリザードマンと戦ったという話はしましたよね」

「あぁ……そうだな。覚えてるよ……いや、待て待て。はっ!? そういう……ことなのか?」

片方の鞘は紅色がメインで、もう片方の長剣は蒼色がメインとなっている。
それだけで、目の前の物が何なのかを察した。

「えぇ、想像通りです。こちらはそれらのモンスターの素材を元にしたロングソードです」

「そ、そうか…………それで、なんでそれを俺に?」

目の前の二振りのロングソードが、いったい何なのかは解った。
それは解ったが……何故、フローレンスがそれらを自分に渡そうとしてるのかは解らなかった。

「お礼、ですね」

「お礼? …………俺がボケてなければ、お前を助けた記憶はないんだが」

ほんの数秒間ではあるが、アラッドは本気でフローレンスと出会ってから、共に行動した過去を振り返った。
振り返った結果……やはり、フローレンスを助けた記憶はなく、お礼をされる様な手助けをした記憶もない。

「そうですね。命の危機から助けてもらってはいません。ただ……私の前に現れてくれました」

「…………?????」

理由を伝えられ、増々意味が解らなくなり、大量の疑問符がアラッドの頭の上に浮かぶ。

「そう……だな。確かに俺はお前の前に現れたが……それが、どうかしたか?」

「パロスト学園に入学し、トーナメントに参戦し、私と戦ってくれました」

確かにアラッドは条件付きでパロスト学園に入学した。

だが、それはトーナメントに参加して優勝し、特例で騎士の称号を得る為だった。
そこでフローレンスと遭遇し、決勝戦で戦ったのは本当に偶々である。

「私は……楽しかったんです」

「そうか」

それはアラッドも同じだった。

レイにその可能性はあると思っていた。
だが、学生の中で本当の意味で自分が本気を出して存分に戦える相手はいないと……そんな傲慢な考えがなかったと言えば、嘘になる。

だが、いざ参加して見れば……あのレイを相手に手札を隠したまま勝利し、アラッド自身狂化を使用するだけではなく、クロを召喚して戦うまで追い込まれた。

「そして、あの試合の最後……追い込まれた私は、未熟な状態ではあれど、精霊同化を発動することに成功しました」

「あれなぁ……懐かしいな」

アラッドは当時の感覚を今でも覚えている。

(あの時は、本気でクロに頼らないとダメかもしれないと思ったな)

未熟な状態とはいえ、同時のアラッドにとって相棒であるクロに強く頼らなければ勝てない……そう思わせるほどの存在感と強さを有していた。

「精霊同化は、アラッド……あなたと出会い、戦えたからこそ得られた力です」

「別に、そんなことはないと思うが」

「いえ、そんな事ありません」

否定の言葉を即否定されてしまったアラッド。

「あなたが、クロという相棒にあまり頼り過ぎたくないのと同じく、私もウィリアスに頼り過ぎたくないと思っています」

「…………」

「しかし、あなたを倒すには、あそこでウィリアスに頼るしかありませんでした」

相棒に頼らなければ勝てない戦い。
そして相棒に頼っても、絶対に勝てるという確信、自信を得られない激闘。

どう考えても……学生の内に得られる予定の無い戦いだった。

「……精霊同化に関しては、フローレンスならその内会得出来てたと思うが」

「アラッド。あなたも、大切な人を守りたいと思う気持ちを持っているなら……私の気持ちも解るかと」

「それは……まぁ、そうだな」

どれだけ学生離れした実力を持っていても、フローレンスは卒業するまでは学生のまま。
ただ、卒業すれば就職が決まっていた騎士団に入団し、騎士としての活動を始める。

フローレンスからすれば……騎士として活動を始めてから得られる、のでは遅い。

その力があれば、救えていた命があるかもしれない。
守れていた仲間の命があるかもしれない。

だからこそ、フローレンスにとって学生の内に……あの大舞台で、アラッドという学生に、男に出会えたのは……本当に幸運だった。

「だからこそ、これはそのお礼です」

「……学園に入学したのは、特例で騎士の爵位を得て、そのまま卒業する為だぞ」

「だとしても、それはアラッドがそうしようと思ったからこそ、パロスト学園に入学し、トーナメントに参加することになったのでしょう」

「それはそうだが……」

フローレンスの言う通り、アラッドには特に騎士の爵位に拘らず、冒険者としての道を進むことも出来たが、アラッドは自分の意志でその特例を掴む為にパロスト学園に入学した。

「…………そういうのは、これから部下たちが功績を上げた時に渡す褒美として、持っておいた方が良いと思うが」

「アラッド、私はまだまだ前に立ち続けますよ。それこそ……あなたのように、生涯現役として活動するかもしれません」

「……周りの連中からすれば、勘弁してくれって話だろうな…………解ったよ。有難く貰う」

軽いため息を零しながらも、アラッドはフローレンスから二振りの長剣を受け取った。
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